57話:カウンター
クランベルクでの戦いから2ヶ月ほど過ぎた頃。ゴルドバの情報屋から『念話の指輪』で連絡があった。
『物凄い数の兵士と魔物がゴルドバに向かっている。俺たちは直ぐに逃げるぞ!』
『光学迷彩』と『索敵阻害』を発動して、まずは空を飛んでゴルドバを目指す。
ゴルドバに辿り着くと街から南へと向かう人の列。とりあえず、まだゴルドバは襲撃されていないみたいだな。
バトリエット城塞があった山岳地帯へと向かうと、途中でアレクサンド帝国の軍勢と遭遇する。
「次は本腰を入れるとは思ったけど、本当に物凄い数だな」
騎竜兵の数は5,000人を超えていて、そのうち2割が飛竜だ。
ドラゴンがいないのは、帝国にはラインハルト以外にドラゴンを使う奴がいないってことか。
「『焔弾連射砲』!」
無数の焔弾が帝国兵と竜種の魔物を次々と肉片に変えていく。飛竜を仕留める度に連鎖爆発が起こる。この数なら戦略級魔法を使うのも手だけど、威力は『焔弾連射砲』で十分だ。本命は別にいるからMPの消費を抑える。
高速で移動しながら騎竜兵を掃討していく。俺の気配を感じる奴がいないのは、レベルがさらに上がったからだろう。忍者のスキル『潜伏』は気配感知に対しても有効だからな。
ラインハルトやオリビエ並みの手練れも結構いるけど、今の俺の相手にはならない。帝国兵と竜種の魔物を全滅させるまで1時間も掛からなかった。
俺以外に動く者がいなくなった戦場でしばらく待っていると、突然至近距離出現した奴が不意打ちを放つ。だけど来るのは解っていたし、俺なら反応できる。禍々しい巨大な鎌を、俺は右の剣で受け止めた。
「まさか生きているなんて……ねえ、どういうこと?」
銀色の髪に琥珀色の瞳の美女。頭から山羊のような角が生えていて、背中には黒い翼。羽と同じ黒のドレスアーマーを纏って、禍々しい巨大な鎌を手にしている。戦乱の女神に仕える大天使サキュアだ。
「そんなことを教える筈がないだろう」
「別に良いけど。今度は死体が残らないように殺すだけだから!」
瞬間移動のような動きは前回と同じだ。だけど今ならサキュアの動きが見えるし、反応できる。
凄まじい速度のサキュアの連撃を、2本の剣で全部受ける。
「へー……あんたもやるようになったじゃない。だったら、こういうのはどう?」
サキュアが翼から黒い羽を無数に放つ。音速を余裕で超えているから普通の羽でも凶器になるけど、サキュアのことだから只の羽の筈がないだろう。
俺が加速して躱すと、羽はフォーミングミサイルのように追尾して来る。
「『焔弾連射砲』!」
空中を飛び周りながら追い掛けて来る羽を撃ち落としていると、サキュアが眼前に飛び込んで来て巨大な鎌を一閃。俺は右の剣で受けると同時に左の剣を叩き込む。
斬撃が黒いドレスアーマーを切り裂く。今使っている2本の剣は、直近で拡張した階層のドロップアイテムだ。現時点で『ラストダンジョン』最強の魔物からドロップしたから性能も最強だ。
「嘘でしょ……なんで人間のあんたの攻撃があたしに当たるの?」
攻撃が当たるならこっちのモノだ。暗黒騎士の固有能力『エナジードレイン』は発動済み。あとは攻撃だけに集中すれば良い!
集中することで俺の動きはさらに加速する。攻撃の精度も増して、サキュアの攻撃を全部剣で受けながら、もう1本の剣でサキュアの身体を切り刻む。
本気のメイに比べたらサキュアの動きは速くないし、そこまで執拗でもない。本気のメイには俺の攻撃が絶対に当たらないからな。
「ちょ、ちょっと待って! あんたが強いことは解ったから、あたしと取引しない? もう二度とこの国に侵攻しないから、それで手打ちってことでどう?」
「今さらの話だな。これだけ戦力を削ったら、アレクサンド帝国は当面侵攻なんてできないだろう。それでも侵攻して来るなら叩き潰すだけの話だ」
今の俺にとってアレクサンド帝国は脅威じゃない。
「アレクサンド帝国だけの話じゃないわ。人間なんてこの世界で弱者に過ぎないでしょう。他の種族もこの国には絶対侵攻させないから!」
そんなことがサキュアにできるのか? 今回の件はこいつの独断専行みたいだし、どうせ適当なことを言っているだけだろう。
「あたしは戦乱の女神様に仕える大天使よ。この世界の存在を従わせるなんて簡単なことだわ。それでも信じられないって言うなら、私の名前……大天使サキュアの名に懸けて約束は必ず守ると誓うわ! 天界の存在の名前には言霊が宿っているから、名前に懸けて誓ったことは絶対に破れない誓約になるの」
天界の存在の名前に言霊が宿ることはメイも言っていたけど。
「おまえが仕える戦乱の女神がこの国を亡ぼせと言ったら、おまえに止められるのか? 大天使サキュアの名に懸けて正直に答えろよ」
「そ、それは……」
嘘は言っていないみたいだけど、取引するメリットを感じない。そもそもこいつは禁則事項を破って俺を殺した訳だし、信用できないだろう。
「だったら話は終わりだ。おまえは俺を一度殺したんだから、殺されても文句を言えないよな」
「ま、待って……ください……」
サキュアの言葉はもう俺に届かない。こいつの身体が光の粒になって消滅するまで、俺は攻撃の手を止めなかった。




