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56話:戦いの後


「どうやら上手くいったみたいだな」


 意識を取り戻した俺は傷がないか全身を見回す。生身まで完全に回復させる『上位完全蘇生(ハイリジェネーション)』のおかげで傷は完全に治っていた。


 ネタ晴らしをすると、俺はメイから戦乱の女神の使徒について聞いていたから、万が一を考えて保険を掛けていた。


 エディットツールで、俺が死ぬと1時間後に『上位完全蘇生(ハイリジェネーション)』を自動発動する指輪を作って飲み込んでおいた。


 アクセサリーは同時に2つまでしか装備できない仕様だから、経験値増幅効果のあるアイテムを1つ外すことになったけど。


 俺の身体にはメイが仕える女神の加護があるから、身体が完全に消滅しない限り蘇生できるって聞いていたけど、死ぬ経験はもう二度としたくないな。


 『上位転移(グレーターテレポート)』を発動して制作室(エディットルーム)に戻ると、メイに事の顛末と大天使サキュアついて話す。


「サキュアのことは良く知ってるわ。エイジ君が1人になったところを襲ったことと、サキュアの言動から考えると、戦乱の女神の指示じゃなくてサキュアの独断専行ね。女神の使徒が直接手を下すことは禁則事項に触れるから、サキュアは戦乱の女神にエイジ君のことを報告もしていないと思うわ」


 俺はメイとこれからのことについて話をする。俺が生きていることを知ったら、禁則事項に触れたことを揉み消すためにも、サキュアは必ず殺しに来るだろう。だからこのまま俺が死んだことにするしかない。


 ローズたちに隠しておくのは申し訳ないけど、巻き込む可能性があるから仕方ない。俺を殺した証拠を残さないために、纏めて殺すことも考えられるからな。


「問題はアレクサンド帝国だな。1度侵攻に失敗したくらいで諦めるとは思わない。次に侵攻して来たときに対抗するには、俺が戦うしかないだろう」


 今回侵攻してきたのはアレクサンド帝国の戦力の1部に過ぎない。帝国が本腰を入れて来たらクランベルクは持たないだろう。


「そうね。エイジ君が戦うべきだわ……このままあの女に大きな顔をさせないためにね」


「メイ、どういう意味だよ?」


「簡単な話よ。エイジ君がサキュアに勝てるようになれば良いじゃない」


 メイは当然のことのように言う。


「サキュアの実力は知っている。大天使と言っても私よりずっと格下だわ。大きな兵力を動かすにはそれなりに時間が掛かる筈よ。アレクサンド帝国が次に攻めて来るまでに、私が本気で(・・・)エイジ君を鍛えてあげる」


 メイが本気で鍛えるって……サキュアに殺される前に死にそうだな。


 それから俺とメイは『念話の指輪(リングオブコール)』でローズたちから連絡が来ても一切反応しなかった。勝手に『転移(テレポート)』で制作室(エディットルーム)に来られないようにメイの特殊能力も発動している。


 俺はかつての(・・・・)最下層の下に拡張した階層で、さらに強い魔物を倒すことと、メイとの立ち合いを繰り返している。


 魔物の暴走(スタンピード)が起きなければ、戦乱の女神が何か仕掛けて来ることは想定していたから、俺はそのための準備をしていた。


 強くなることに限界はないし、野外で使うことを想定して新しく作った魔法を試すためにも階層を拡張したことは役に立った。今は自分が勝てる限界まで強い魔物を配置するために、さらに階層の拡張を繰り返している。


 あとは俺が本当にサキュアを倒せるようになることと、クランベルク帝国が侵攻してきたことをどうやって知るかだ。前者は俺が頑張るしかないけど、後者は『ラストダンジョン』に籠っていると情報が一切入って来ない。


 帝国軍がクランベルクまで迫ればローズたちから『念話の指輪(リングオブコール)』で連絡が来るかもしれない。だけどそのときにはゴルドバが再び占領されているだろう。


 結論から言えば、対策を打つのは難しくなかった。俺はゴルドバで情報屋を雇って、そいつに『念話の指輪(リングオブコール)』を渡した。


 それなりの金を払って、北を警戒するようにも伝えてある。バドリエット城塞が陥落したことで、辺境地帯の魔物が襲って来る可能性がある。だからゴルドバの人々も北を警戒している筈だ。何かあれば連絡があるだろう。


※ ※ ※ ※


※ローズ視点※


 エイジ……いったい、どうしたのよ?


 敗走したアレクサンド帝国軍を1人で追撃しに行った後、エイジは姿を消した。


 これまでだって何度も姿を消したことはあったけど『ラストダンジョン』を攻略していただけで、私たちは『念話の指輪(リングオブコール)』で連絡を取り合っていた。


 だけど今回は状況が違う。『念話の指輪(リングオブコール)』で連絡しても反応がないし、メイさんとも連絡が取れない。


 何かあったと思って制作室(エディットルーム)に『転移(テレポート)』しようとしたけど、魔法は発動しなかった。


「俺たちが知らない何か事情があるんだろう。エイジやメイさんをどうにかできる奴がいる筈がねえぜ」


 ラウルは気楽そうに言うけど、エイジが黙って姿を消す筈がないわ。サラも心配しているみたいで、最近は笑うことが少なくなった気がする。


 エイジのことを心配しているのは私とサラくらいで、ハイネルさんやダルクたち『蒼穹(そうきゅう)』のメンバーも、そのうちに帰って来るくらいに思っている。エイジの事情を知っているのは私たちだけだから、仕方ないかも知れないけど。


 アレクサンド帝国の侵攻を防いだことで、クランベルクの状況は一変した。ローレンス子爵が王都に早馬を飛ばして戦勝報告。戦いから3週間した頃に王都から騎士団がやって来て状況を確認した。


 アレクサンド帝国軍を退けた証拠は倒した帝国兵と魔物の大量の死体と、残された魔導具と武具。腐敗しないように死体は焼いたけど、ローレンス子爵は証拠にするために骨は埋めずに残していた。


 エイジが追撃した帝国軍の死体も残っていたらしく、それだけで証拠としては十分だった。問題はどうやって帝国軍を討伐したのか。バトリエット城塞を陥落してゴルドバを占領した帝国軍を、クランベルクがどうして退けることができたのか?


 ローレンス子爵は弩で飛竜(ワイバーン)を撃ち落とした説明したみたいだけど、騎士団はゴルドバの惨状を知っているから納得しなかった。


 誰もが納得できるような説明ができる筈がないけど、飛竜が全滅したのは事実。だから王国はクランベルクの冒険者たちが想像していたよりも強くて、飛竜を含めた帝国軍を殲滅したんじゃないかと結論を出した。


 飛竜を全滅させたのはエイジで、エイジがいなかったら帝国軍に勝てなかった。私たちはそう言いたかったけど、そんなことをしてもエイジが喜ばないことは解っている。エイジは目立つことで面倒事に巻き込まれるのを嫌がるから。


 帝国軍を退けた功績で、ローレンス子爵は伯爵になるらしい。後方で形だけ指揮をしていただけなのに全然納得できないけど、これは仕方ないわ。


 クランベルクの冒険者が強いという噂が広まったことで、他の街から冒険者が集まって来るようになった。『ラストダンジョン』を攻略することで強くなったと思っているみたいだけど、少なくとも私たちが強くなったのもエイジのおかげだから。


 冒険者以外にも人が増えて、クランベルクの街は活気に満ちている。『殲滅旅団』が他の冒険者とトラブルを起こすことも減って、私たちは日常を取り戻した――エイジがいないこと以外は。



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