55話:冒険者たちの戦いと結末
※三人称視点※
アレクサンド帝国軍との戦闘が始まり、先陣を切るのは冒険者の中でも各支部を代表する高レベルパーティーの面々だ。
「敵の数を減らすのが先決だ。ここは出し惜しみをするんじゃねえぞ!」
「ラウル、それくらい解っているわよ――『聖光剣』!」
ローズが聖騎士の固有能力を発動すると、剣から光の刃が長く伸びる。戦闘スキルのレベルが上がったことで『聖光剣』の威力が増し、光の刃が竜騎兵と地竜を纏めて薙ぎ払う。
「私も負けていられないわね――『大地震』!」
サラが放った第8階梯魔法が地割れを引き起こして、帝国兵たちを次々と飲み込んで押し潰す。空を飛べない敵には威力絶大の範囲攻撃魔法だ。
「サラも派手にやるじゃねえか――『強化連撃』!」
ラウルの固有能力も戦闘スキルのレベルが上がったことで威力が増しているが、それ以上に大きいのは持続時間が伸びたこと。10分以上継続して発動することができる。
他の高レベルパーティーも数で勝る帝国軍の只中で魔法やスキルを発動して、敵の陣形を崩していく。特に目立つ動きをしているのは、クランベルク最強の冒険者と呼ばれる『青き稲妻』のリーダー、ハイネル・ブラッドホークだ。
「『エナジードレイン』!」
ハイネルのクラスはエイジもサブクラスの1つとして習得した『暗黒騎士』だ。『エナジードレイン』は自分が与えたダメージの一定割合のHPを回復させる。
ハイネルの戦闘スキルのレベルなら回復率は50%。帝国兵が槍から放つ焔の集中砲火を全て躱すのは難しいが、受けたダメージよりも回復するHPの方が多いからMPが尽きるまでノンストップで戦い続けることが可能だ。
帝国兵を次々と切り払うことでハイネルが作る道を『青き稲妻』の他のメンバーが続いて押し固める。ハイネルを筆頭に全員が40レベルを余裕で超える5人が掛かれば、地竜を駆る帝国兵も敵ではなかった。
「みんな、油断だけはするな。帝国軍にはエイジが言っていた手練れがいる筈だ」
「だがそれもエイジが相手をするんだろう。飛竜を全滅させたのが本当なら問題ないんじゃないか?」
『青き稲妻』のサブリーダー、ジュリアスが呆れた顔をする。1人で100体のワイバーンを全滅さたなどどう考えても眉唾な話だが、他に説明がつかないのも事実だ。
(エイジは俺たちが知らない勢力を抱えてるって考えるのが妥当なところか……だったらあいつは何者なんだ? 今度それとなく問い詰めてみるか)
ジュリアスがそんなことを考えていると、エイジが突然戦場に姿を現すなり、竜騎兵と地竜を次々と倒していく。
「エイジがこっちに来たってことは、帝国軍の手練れを倒したの?」
ローズが竜騎兵を薙ぎ嫌いながら嬉しそうな顔をする。
「ああ、ドラゴンと指揮官を含めた手練れ3人は仕留めたよ。あとは地竜だけだから問題ないだろう」
エイジが戦線に加わったことで戦況は明らかに変わった。派手なスキルや魔法を発動させている訳でもないのに、エイジの周りに物凄い数の兵士と地竜の死体が積み上がっていく。
ハイネルもエイジに気づいていたが、今は目の前の敵を倒すことに集中した。いつの間にか『殲滅旅団』も戦線に加わっており、5つの支部の高レベル冒険者たちが最前線で道を切り開き、そこにエイジも加わったことで帝国軍の陣形が完全に崩壊する。
指揮官がいなくなった戦場で、それでも各部隊長は必死に部下を鼓舞する。だが高レベル冒険者たちの圧倒的な力を目の前で見せつけられて、恐怖に駆られた兵士たちが敗走することを止めることはできなかった。
「よし、ジャン・ローレンス子爵が帝国軍を打ち破ったぞ!」
後方で形ばかりの指揮を執っていたローレンス子爵が鬨の声を上げる。だが応じたのはクランベルクの兵士たちだけだった。
「みんな、俺は帝国軍を追撃するよ。逃げた奴らはゴルドバに向かう筈だからな」
アレクサンド帝国に逃げ帰るにしても、辺境地帯を突破するための物資を手に入れるためにゴルドバに立ち寄るだろう。帝国軍が略奪を始めれば大きな被害が出る。
「エイジ、たったら私たちも一緒に行くわ」
ローズたちがついて行くと言うと、エイジは首を振る。
「今の状況なら俺1人で十分だよ。冒険者に怪我人も少なくないだろうから、ローズたちはそっちの面倒を見てくれ」
戦いは圧倒的な勝利で終わったが怪我人がいない訳じゃない。
「解ったわ。だけど無茶はしないでよね」
エイジが何をしようとしているか解らないが、何となく雰囲気で察して引き下がる。
「じゃあ、俺は行くよ」
『光学迷彩』と『索敵阻害』を発動してエイジは姿を消す。
※ ※ ※ ※
敗走する帝国軍を追いながら、直ぐには仕掛けることはしない。自分の力を隠すことはもう難しいと思っていたけど、飛竜を全滅させたときは姿を隠していたから、俺がやったという証拠はない。
ラインハルトたちを仕留めたときは姿を現していたけど、帝国軍の軍勢が間にいたからクランベルクの冒険者と兵士たちは俺が戦うところを見たいない筈だ。最後は上空から仕留めたけど、あれくらいなら見られても問題ないだろう。
だったら敗走する帝国軍を全滅させるところを他の奴に見せない方が良いと、帝国軍がクランベルクから十分離れるまで待つことにした。
「ここまで来れば問題ないだろう」
同じルートで帝国軍がクランベルクに侵攻したこともあって辺りに人の姿はない。念のために周囲を飛び回って『索敵』で人がいないことを確認する。
「じゃあ始めるか。『焔弾連射砲』!」
焔弾の掃射で帝国兵と地竜が次々と肉片に変える。最後の1人がに肉片になるまで俺は攻撃を続けた。
戦乱の女神にダンジョンマスターとして転生させると言われたとき、俺は人を殺したくないから断った。だけど帝国兵たちを殺したことを後悔していない。
帝国軍がゴルドバから逃げようとした住民を皆殺しにしたから。ローズたちを殺そうとしたから。それも理由だけど一番の理由は帝国軍を逃がせば確実に被害が増えるからだ。
帝国軍の狙いが『ラストダンジョン』じゃなければ、ここまではしなかっただろう。俺が作ったダンジョンを手に入れるために帝国軍はたくさんの人を殺し、殺そうとした。全部自分のせいだなんて思わないけど、見過ごすことはできない。
このとき、突然の物凄い衝撃が俺を襲う。背中から地面に叩きつられて、何度も身体がバウンドしてようやく止まる。全身の骨が砕けたような激痛。
「さすがにやり過ぎよ。あんたが誰か知らないけど、あたしの邪魔をするなら容赦しないわ」
声のする方を見ると女がいた。銀色の髪に琥珀色の瞳の美女。頭から山羊のような角が生えていて、背中には黒い翼。羽と同じ黒のドレスアーマーを纏って、禍々しい巨大な鎌を手にしている。
こんな無茶苦茶なことができるってことは……こいつが戦乱の女神の使徒か?
「結構やるみたいだけど、あたしの前では無力よ。自分がしたことの報いを味あわせてあげる」
女が血に飢えた笑みを浮かべる。
「おまえは……いったい何者だ?」
魔法で回復して立ち上がる。こっちから情報を出すのは悪手だろう。俺は何も知らないフリをする。
「それはこっちの台詞だわ。さっきの魔法は何なの? デタラメな威力じゃない」
「おまえの方がデタラメだろう。とても人間の力とは思えない」
「この私の見た目で人間だって思う?」
「だったら悪魔か天使だって言うのか?」
「なかなか良い所を突くじゃない。だけどお喋りは終わり。早く始末しないと、誰が見ているか解ったモノじゃないから」
まるで瞬間移動したかのように、女は一瞬で眼前に迫る。高速で振り抜かれる禍々しい鎌を2本の剣で受けるけど、弾き飛ばされて腹を切り裂かれる。防具が破壊されて一撃でHPが全損する。
「『完全治癒』!」
司祭第8階梯魔法でHPを全回して傷を塞ぐ。このレベルの回復魔法なら死なない限り一瞬で生身の傷まで癒すことができる。
「へえー……凄い回復魔法まで使えるのね。ホント、あんたは何者なの? まあどうせ殺すから答えなくて良いわ」
女が再び瞬間移動するように迫る。鎌を二閃すると俺の両腕が切り落とされる。全く反応できなかった。
「残念ね。これで魔法で回復しても武器がないわ」
肩から噴き出す大量の血――
「『時空破壊』!」
超階梯魔法『時空破壊』は、俺が使える最強の攻撃魔法だ。一点に集束する膨大な破壊エネルギー。だけど女は無傷だった。
「魔法も効かないことが解ったら、次はどうするつもり?」
女が嗜虐的な笑みを浮かべる。こいつは今の俺が勝てる相手じゃないな。回復魔法を使っても、次の瞬間に殺されているだろう。最後まで抗いたいところだけど――
「せめて殺す前に、おまえの名前を教えてくれて……」
「そんなことを聞いてどうするの? まあ別に構わないけど……あたしはサキュア、戦乱の女神様に仕える大天使よ」
女が鎌を振ると、俺の視界がブラックアウトした。




