54話:戦い方
※三人称視点※
少し時間を遡って――
「おい……いったい何が起きている?」
クランベルクの街中に陣を構えるローレンス子爵は、上空に迫っていた飛竜の群れが突然爆散したことに唖然としていた。
エイジがもたらした情報を完全に信じた訳ではない。だがバトリエット城塞を落とした帝国軍の戦力を考えて、念のために城から避難していた。
そこに100体の飛竜の群れが襲来したかと思うと、戦闘が始まる前にどういう訳か勝手に全滅したのだ。
「アレクサンド帝国は魔導具を使うという話だが……何かの事故で魔導具が爆発したのか?」
仮にそうだとしても、100体の飛竜を全滅させるほどの爆発だ。あのまま飛竜が攻撃を始めていれば、クランベルクがどうなっていたか。想像すると肝が冷える。
「何れにしてもこれは好機だ。飛竜がいなければ、こんなところにいる必要はない。冒険者を前面に押し立てて討って出るぞ! おまえたちも出撃しろ!」
(ローレンス子爵にしては悪くない判断ね)
ギジェットはオスカーたち『殲滅旅団』の幹部と共に、ローレンス子爵の傍で待機していた。戦況が悪くなれば、ローレンス子爵と一緒に城の地下道を使って逃げるつもりだった。
自分たちはクランベルクを守るために帝国軍と戦ったが、力及ばずに敗れたという形であれば、ローレンス子爵の面目は保たれて、グランテリオ王国の他の街に逃げてもそう悪い扱いは受けないだろう。
いつでも逃げられる準備はしていたが、ギジェットはエイジなら何か仕掛ける筈だと思っていた。何を仕掛けるかまでは解らないが、もしエイジに勝機があるなら恩を売る絶好のチャンスだろう。
エイジは掴みどころのない男だが、実力があることは確かだ。おそらくエイジは『ラストダンジョン』で他の冒険者に見つからずに何ヶ月も潜伏していた。つまり他の冒険者が立ち入ることができない深い階層にいたということだ。
(まさかここまで実力があるとは思っていなかったけど……さすがは私が見込んだ男ね)
状況から考えれば、飛竜を全滅させたのはエイジ以外にあり得ない。だったらギジェットがやることは1つだ。ローレンス子爵と『殲滅旅団』を上手く操って、帝国軍との戦いを確実に勝利に導くこと。
「おい、ギジェット。本当に魔導具の事故だと思うか?」
察しの悪いオスカーの間抜けな問い掛けに、ギジェットは鼻で笑う。
「さあ、どうかしら? 何れにしても状況が変わったんだから、私たち『殲滅旅団』も本気で勝ちにいくべきだわ」
ギジェットの周りを固めているのは、ライゾウを失った『死神』の4人だ。かつては暴力の象徴のような存在だった『死神』が、今では牙を抜かれた番犬のようにギジェットに付き従っている。
(こんなことになるなど聞いていないぞ! どうしてギジェットは落ち着ているんだ……まさか事前に知っていたのか?)
ギジェットは秘密主義で、いつも独断専行することが目に余る。だがギジェットがいるからこそ『殲滅旅団』がここまで大きな組織になったのは事実であり、オスカーはギジェットの行動を咎めることができなかった。
(戦力として考えれば悪くないけど……オスカーを使うのもそろそろ潮時かしら)
戦場に向かいながらギジェットはほくそ笑んだ。
※ ※ ※ ※
「オリビエ、同時に攻めるぞ! こいつは剣も魔法も侮れん」
ラインハルトは赤竜から飛び降りると両手で槍を構える。他の竜騎兵とは違う黒い金属製の槍が異彩を放つ。
「それくらい解っている! マクベス、おまえも支援しろ」
藍色の髪の女オリビエが長い剣を構える。とりあえず赤竜は後ろに控えているから3対1か。
「『メテオスラッシュ』!」
「『スクリューランス』!」
オリビエの長い剣が迸る魔力を纏って、ラインハルトの黒い槍が高速回転しながら襲い掛かる。俺が2本の剣で2人の攻撃を受けると。
「『アトミックブレイク』!」
白髪の魔術士マクベスが魔法を放つと光の塊が出現。瞬時に爆発して膨大な魔力が俺を飲み込む。
「マクベス、後ろに跳べ!」
剣で肩から袈裟切りにしたけど、マクベスは反射的に跳び退いて致命傷にはなっていない。光が消えると無傷の俺が現れる。結構威力があったけど俺の魔法抵抗なら問題ない。
マクベスがポーションを飲むと傷が回復する。この前ラインハルトと戦ったときも思ったけど、こいつらは回復魔法が使えないのか?
そう言えばゴルドバで戦ったときも、その場にいる奴を全員瞬殺したからか、回復魔法を使うところを見ていない。マクベスは魔法を使っているけど、帝国には魔法を使える奴が少ないってことか?
「こいつには魔法が効かないのか? マクベス、支援魔法に切り替えろ」
「承知した。『フィジカルビルド』『マルチシールド』『ブースト』!」
マクベスが魔法を連発すると、ラインハルトとオリビエの身体を光が包む。
「オリビエ、もう一度仕掛けるぞ。『スクリューランス』!」
「『メテオスラッシュ』!」
「『リストレインチェイン』!」
マクベスが魔法を放つと、出現した光の鎖が俺を拘束する。ラインハルトがニヤリと笑って高速回転する槍を突き出し、オリビエが同時に剣で振る。絶体絶命の状況――なんてことはない。
光の鎖を無視して2本の剣をラインハルトとオリビエに叩き込む。2人は油断したのか剣が真面に直撃する。たから俺の魔法抵抗ならマクベスの魔法は通用しないって。
その場に崩れ落ちたラインハルトとオリビエが、ポーションで傷を回復させる。やっぱり回復魔法を使わない。
ラインハルトとオリビエはこれ以上強力な攻撃手段はないみたいだな。マクベスは他にも魔法が使えるかも知れないけど、もっと強力な魔法があるなら先に使っているだろう。
アレクサンド帝国が軍事大国で、グランテリオ王国に侵攻したのが帝国の戦力の一部に過ぎないことは解っている。戦うことで帝国軍の情報を少しでも引き出そうと思ったけど、これくらいで十分だろう。
「もう1つだけ試しておくか。『焔弾連射砲』!」
無数の焔弾を全てマクベスに向けて放つ。
「『アンチマジックシールド』!」
対魔法防壁を展開するけど、集中砲火で防壁が砕け散ってマクベスが肉片に変わる。『アンチマジックシールド』は魔法を完全に防げる訳じゃないみたいだな。
「マクベス……貴様!」
マクベスを蘇生させる様子はない。少なくとも即効性のある蘇生手段は持っていないってことか。だったら多少強くても脅威にはならないだろう。
「オリビエ、マクベスの支援魔法が効いているうちに仕留めるぞ! おい、貴様も俺たちを巻き込んで構わぬから、ドラゴンブレスを放て!」
ラインハルトの指示に赤竜が咆哮で応える。このドラゴンは人間の言葉を理解しているのか。
「『メテオスラッシュ』!」
「『スクリューランス』!」
オリビエとラインハルトが仕掛けるタイミングに合わせて、赤竜がドラゴンブレスを放つ。2つのスキルによる挟撃と同時のドラゴンブレス。
オリビエとラインハルトの攻撃を受け止めれば、ドラゴンブレスを真面に食らうことになる。だったら全部躱すだけの話だ。
俺が上に跳ぶと、オリビエとラインハルトが動きを合わせる。赤竜もドラゴンブレスの軌道を変える。だけど反応が遅過ぎる。
奴らを置き去りにして遥か上空に跳ぶ。この距離ならドラゴンブレスも射程外だ。
「上からの攻撃するのは、おまえたちの専売特許じゃないからな。俺は絨毯爆撃なんてしないけど――『狙撃弾』!」
これもエディットツールで新たに作った魔法だ。『焔弾』の射程距離を5倍にして、その分威力も増している。
3発の『狙撃弾』が2人と1体の頭を続けざまに撃ち抜く。上からの攻撃は射線を遮るものがないから逃げ場はない。
派手な攻撃をした訳じゃないし、帝国軍はクランベルクの冒険者と戦闘を始めている。自分たちの指揮官が仕留められたことに気づく帝国兵は少なかった。




