53話:戦闘開始
翌日。昼過ぎには、クランベルクの上空から視認できる距離にアレクサンド帝国軍が迫っていた。
俺は『光学迷彩』と『索敵阻害』を発動済みで帝国軍の様子を窺う。
1,000体以上の竜種の魔物を駆る竜騎兵。それを率いるのは巨大な赤竜に乗る赤いフルプレートの男。偵察で見たときは、長い剣を持った女がラインハルトと呼んでいたな。
冒険者たちは見張り役以外、防壁から少し離れた所に待機している。
迎撃部隊が姿を消して空中で飛竜を迎え撃つ手筈になっているけど、魔法には持続時間があるから、まだ誰も魔法を発動していない。
飛竜を迎撃するのにそれなりに時間が掛かるから、ギリギリまで引きつけるつもりだろう。俺の魔法レベルと知力なら『飛行』は半日以上、『光学迷彩』と『索敵阻害』も2時間は持つから、今から発動していても問題ない。
これまで俺は面倒なことになるからと、できるだけ目立たないように行動していた。
ライゾウたち『死神』と戦った後、冒険者ギルト第2支部に乗り込んで『殲滅旅団』と一悶着あったけど、あれは不可抗力だ。
ライゾウと『鮮血同盟』がシーダたちを襲おうとしたから始末したけど、誰にも現場を見られていないから問題ないだろう。
おかげで俺の噂が広まって、ローレンス子爵に目を着けられたけど、直ぐにクランベルクを離れたことにして『ラストダンジョン』に籠っていた。だから俺のことを知っている奴はそんなに多くない。
俺が面倒なことになるのを避けたのは、ローズたち『天元突破』やシーダたち『蒼穹』を巻き込みたくないからだ。俺1人なら『ラストダンジョン』から出なければ問題ないけど、みんなはそんな訳にいかないからな。
だけど俺が作った『ラストダンジョン』を狙って帝国軍が侵攻して来たから、もうそんなことは言っていられない。帝国軍はバトリエット城塞を殲滅してゴルドバを占領、逃げようとした住民を皆殺しにした。クランベルクでも同じことをするだろう。
アレクサンド帝国軍の陣営から100体の飛竜が一斉に飛び立つ。斜め上に高度を上げながら飛翔してクランベルクに向かって来る。魔法と弓の射程外から炎の塊を落とすためだろう。
普通に飛竜を迎撃すれば、こっちの被害も相当なモノになるだろう。ただでさえ不慣れな空中戦で、地上に落ちれば即死する。飛竜を駆る騎竜兵の練度も高い。焔の塊を街中に落とされたら、どれほどの被害ができる解らない。だから俺は先に仕掛けることにした。
俺が先行して仕掛けることはローズたちやハイネルには話してある。姿を隠しているから『紅蓮』のエルザや『不知火』のジライヤは俺が逃げたと思うかも知れないけど関係ない。確実に飛竜を仕留めるにはこれが最善策だ。
飛竜と高度を合わせて、迫り来る群れに向けて魔法を放つ。
「『焔弾連射砲』!」
第2階梯魔法『焔連弾』は使い勝手が良いけど焔弾20発までが限界だ。だからエディットツールで『焔連弾』の上位互換の魔法を作った。
高速で射出された焔弾の掃射が100体の飛竜と竜騎兵を肉片に変える。範囲攻撃魔法は野外で使うには意外と効果範囲が狭いし、より効果範囲が広い戦略級魔法はMPの無駄遣いって感じで好きじゃないんだよ。
その点『焔弾連射砲』は元が『焔弾』だからそこまでMPを多く消費しないし、俺の魔法レベルと知力なら威力は十分だ。
飛竜が肉片に変わる瞬間、続けざまに連鎖爆発が起きる。ゴルドバで話を聞いた男が、飛竜が焔の塊を落としたって言っていたけど、爆発物を運んでいたってことか。
突然飛竜が全滅したことで帝国軍の動きが止まる。偵察のときも姿を消したまま攻撃したけど、まさかここまでやるとは想像もしていなかったんだろう。
『エイジ……ここまで来ると、凄いと言うよりも呆れるしかないわね』
『念話の指輪』でサラが感想を漏らす。俺がやったことに気づいているのはローズたちとハイネルくらいだろう。他の冒険者たちは唖然としている。
『飛竜自体はそこまで強くなかったからな。自分で言ったことだから帝国軍の手練れ3人の相手はするけど、獲物を全部奪うつもりはないよ。そっちも頑張ってくれ』
『それって……やろうと思えばできるってこと?』
姿を消したまま帝国軍の陣営に向かうと、再び『焔弾連射砲』を放つ。地竜と竜騎兵たちが瞬く間に肉片に変わっていく。帝国軍は密集陣形を敷いているから効率良く仕留められる。
「卑怯な真似を……隠れていないで姿を現せ!」
赤竜に乗った指揮官ラインハルトが叫ぶ。戦争しているのに卑怯も何もないと思うけど、姿を現した方が敵を引きつけられるから『光学迷彩』と『索敵阻害』を解除する。
「この前の襲撃も貴様の仕業が? 舐めた真似をしたことを後悔させてやる!」
ラインハルトが赤竜に乗って突っ込んで来る。だけど魔術士系は残しておくと厄介だから、先に白い髪と黒ローブの男を倒したいんだよ。
『索敵』の反応で居場所を探ると、ラインハルトの後方の馬車にそれらしい反応がある。長い剣を持った女が馬車に並走している。
赤竜が放つドラゴンブレスを躱すと、脇を擦り抜けて馬車の方に向かう。
「貴様、この俺を無視するだと!」
ラインハルトが騒いでいるけど放置する。
「マクベス、敵が来るぞ!」
長い剣を持った女が馬車に向かって叫ぶ。
「『焔連弾』!」
馬車ごと蜂の巣にしようと焔弾を連射して叩き込む。
「『アンチマジックシールド』!」
馬車は破壊したけど、中から光の防壁に包まれた白髪と黒ローブの男マクベスが出てくる。『索敵』でこいつの位置は把握していたから的は外していない筈だ。強力な対魔法防壁を展開できるみたいだな。
「マクベス、援護しろ。必要なら私ごと攻撃して構わん!」
女は地面を駆け抜けて、俺との距離を一気に詰める。
「『メテオスラッシュ』!」
長い剣が迸る魔力を纏う。斬撃を躱すと剣が地面を抉ってクレーターができる。
背後に気配を感じて横に跳ぶと、直前まで俺がいた場所を灼熱の焔が焼き尽くす。旋回して追い掛けて来たラインハルトの赤竜が放ったドラゴンブレスだ。周りにいた竜騎兵と地竜が巻き込まれて黒焦げになる。
「兵士たちは邪魔だ! ここは俺たちに任せて隊列を止めずに街を落とせ!」
「ですが、シュバルツ将軍……」
「くどいぞ! 貴様らでは役に立たん。死にたくないなら命令に従え!」
クランベルクの砲を見ると、街の門が開いて冒険者たちが出てくる。飛竜が全滅したから討って出たのか。冒険者は近接戦闘が得意な奴が多いから悪くない判断だろう。
ラインハルトに追い立てられた周りの騎竜兵たちも、俺たちを避けるようにクランベルクに向かっていく。それなりに数を減らしたし、あとはハイネルやローズたちが何とかするだろう。




