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52話:戦いの前夜


「エイジ、俺たちは街の見回りに行って来るぜ。住民たちも戦争の雰囲気を感じて気が立ってる。こんなときに住民同士で争うのは見過ごせないぜ!」


「ダルクも言うようになったじゃない。エイジさん、住民のことは私たちに任せてください!」


 昨日のうちにダルクたち『蒼穹(そうきゅう)』のメンバーに作戦のことを説明した。ダルクたちは地上に残ってレイドを組むことになるけど、特に気負うこともなく平常モードみたいだな。


「俺たちは村を捨てる訳にいかない」


「みんな、大丈夫よ。私たちが守るから安心して」


 ローズたちが生まれ育ったカルア村の人たちがクランベルクに避難して来た。人数は200人ほど。クランベルクに近いからか、街の住民と雰囲気はあまり変わらない。


 ローズたちの話だとカルア村は北東に半日ほどの距離にあるらしい。位置的にクランベルクが占領されなければ、カルア村に被害が出ることはないだろう。


「エイジは強いから帝国軍なんかに絶対に負けないわ」


 ローズたちの両親は健在で、俺は3人の家族に挨拶することになった。

 俺のことを信頼してくれるのは嬉しいけど正直対応に困る。前世のブラック企業のサラリーマンだった頃のように『俺の方こそ、お世話になっています』とか言うべきか?


「ローズ、エイジが困っているじゃない」


 サラが呆れた顔でフォローする。


「エイジもカルア村の人たちのことは気にしないで。みんな私たちにとっては家族みたいなモノだけど、エイジには関係ないでしょう」


「みんなの家族なら関係ないってことはないけど、村の人たちと話をするにしても戦いが終わった後だな」


 ふくよかな体型の中年の女性が俺たちを見てニマニマしている。


「ねえ、貴方はローズとサラのどっちが本命なの?」


 いきなり爆弾をブっ込んで来たな。


「エ、エルマーさん……いきなり何を言い出すのよ! エイジと私の関係はそんなんじゃないわ」


 サラが顔を赤くして否定する。勿論そんなことは解っているけど、周りの人たちも何故かニマニマしている。なんか親戚のおじさんとおばさんに囲まれているみたいだな。


「そうよ、何を言っているの? エ、エイジのことが好きなのは……」


 ローズが何か言っているけど、ここにいると何を言われるか解らない。


「じゃあ俺はそろそろ行くよ」


「まだ話が終わっていないわ。待ちなさい!」


 中年女性の追及を振り切って俺は偵察に向かう。帝国軍の状況を掴んでおくことは重要だ。この距離ならドラゴンと飛竜(ワイバーン)が先行すれば1時間ほどでクランベルクに到達する。


 それは他の冒険者たちも解っていて、見張り役の冒険者が交代で夜通し帝国軍に張り付いている。帝国軍に何か動きがあれば知らせがあるだろう。


 俺は『光学迷彩オプティカルカモフラージュ』と『索敵阻害(アンチサーチ)』を発動すると、高速で空を飛んで帝国軍のところに向かう。


 帝国軍は警戒している様子だけど、特に動きはなく真っ直ぐクランベルクに向かっている。このままなら明日にはクラベルクに辿り着いて戦闘が始まるだろう。


 クランベルクに戻ると、姿を隠したままローレンス子爵の城に向かう。飛竜(ワイバーン)が焔の塊を落として城と防壁を狙うことはローレンス子爵にも伝えけど、避難する様子はない。


 俺の情報なんて大袈裟だとタカを括っているかも知れないけど、理由はもう1つある。城に秘密の地下道があって、クランベルクの街の外まで繋がっていることは確認済みだ。何かあれば自分たちだけ逃げるつもりなんだろう。


 次は冒険者ギルド第2支部に向かう。『殲滅旅団』が支配する第2支部の冒険者たちはほとんど全員がクランベルクに残っている。『殲滅旅団』が圧を掛けて逃げないように仕向けたらしい。


 オスカーたち『殲滅旅団』の幹部は戦況が悪くなれば、ローレンス子爵と一緒に逃げるつもりなんだろう。ギジェットはローレンス子爵が下手な命令を下そうとしたら殺すようなことを言っていたけど、どこまで本気なのか解ったモノじゃないな。


 一応、最悪の状況のことも考えている。クランベルクが陥落したら、俺は『上位転移(グレーターテレポート)』でみんなを連れて『ラストダンジョン』に逃げるつもりだ。そんな状況にするつもりはないけど。


「エイジが私たちの家にいるって、なんか不思議な感じね」


 帝国軍との戦いが終わるまで、俺はローズたちの家に泊めて貰っている。何かあれば直ぐに対応するためだ。


 『上位転移(グレーターテレポート)』を使えば誰にも知られずに『ラストダンジョン』と往復できる。だけどそれなりのMPを消費することになるから、戦闘に備えて節約するためにローズたちの誘いに甘えることにした。


 今日はカルア村から避難して来たローズたち3人の家族と知り合いが一緒に泊まる。村の人全員はさすがに無理だけど、ローズたちは家に泊められるだけの人を止めることにした。部屋が足りない分は宿屋を手配して泊まらせるらしい。


 ローズたちの家に泊まるのは50人ほど。サラと村の女性たちがお喋りしながら夕飯を作って、1階の部屋全部を使って全員で食べる。


 いきなり大家族になった感じで俺が戸惑っていると、昼間ニマニマしながら俺たちを見ていた中年女性が話し掛けてきた。


「やっぱり貴方たちはそういう(・・・・)関係なのね。いっそのこと2人纏めて結婚したらどうかしら?」


「エ、エルマーさん、何を言っているのよ!」


「そんなことを言ったらエイジが困るわ!」


 ローズとサラが真っ赤になって否定する。まあ当然の反応だよな。冗談にしても笑えないけど、親戚のおじさんとおばさんってこんな感じだよな。


「エイジ君、君の方はどうなんだ? 冒険者は危険な仕事なのだろう。そんな仕事をしていて、君はサラとローズを幸せにできるのか?」


 生真面目な顔で言ったのはサラの父親だ。


「ちょっと、お父さんまで……」


「私もそこが気になるわね。ローズも冒険者だから仕事のことは言えないけど、ローズを幸せにするつもりがあるか訊きたいわね」


 今度はローズの母親だ。ちなみにサラの家族は祖父母に両親と弟と妹が1人ずつ。ローズは一人っ子で、家族は祖母と両親に一緒に実家に住んでいる叔父一家。ラウルの家族は両親と姉に弟が2人だ。


「お母さんは何を言ってるのよ! エイジが困るからそういうの止めてよね!」


 いやそこまで真面目に考えることはないだろう。村から避難して来て色々と不安なところがあるから、久しぶりに会った娘のことを心配しているだけじゃないか?


「先に言っておきますが、俺と2人はそういう関係じゃないですよ。家に泊めて貰ったのは、一緒に戦うから何かあったときに直ぐに行動できるようにするためです」


 俺の言葉にサラとローズの両親が注目する。サラの弟と妹が何故か睨んでいるんだけど。お姉ちゃんを取られると思っているのか? 無難な回答にサラとローズがほっとしている。


「つまり君にとってサラは魅力的ではないということかね?」


 サラの父親の顔が険しくなる。いや何を言っているんだよ?


「そういうことじゃありませんよ。サラもローズも凄く魅力的だと思います。だけど俺たちはあくまでも冒険者仲間で、冒険者として強くなること、自分にできることを頑張りたいと思っているだけで、結婚とかそういうことは考えていません」


「貴方、こんなときに話すことじゃないでしょう」


 サラの母親が止めてくれて、この話はとりあえず終わり。話題はローズたち3人が村にいた頃のことになった。


 子供の頃からローズたちは今とあまり変わらなかったらしく、いつもサラが纏め役で、ラウルはマイペースだけど、いざとなると頼りになる。ローズは年上にも物怖じしないで堂々としていたそうだ。


 ローズたちも久々に家族に会えて楽しそうだ。始めはどうなるかと思ったけど、ローズとサラの家族もそこまで本気じゃなかったんだろう。


 食事が終わってサラと女性たちが後片付けを始める。男たちは酒を飲みながら話をしていた。小さい子供たちが家の中を駆け回って、年上の子供たちが面倒を見ている。如何に親戚の集まりって感じだな。


「エイジ、うちのお母さんが変なことを言ってゴメンね」


 ローズも後片付けを手伝っていたけど、女性の人数も多いから暇になったのか俺のところにやって来た。


「いや別に構わないよ。お母さんもローズのことが心配なんだろう」


「そうね……ねえ、エイジ。さっき言ったことは本気だって思って良いの?」


「さっき言ったことって?」


「だから……私が魅力的だって言ったことよ……」


 ローズが恥ずかしそうな顔をする。


「ああ、本当にそう思っているよ。ローズに魅力がないなんて、思う奴はいないんじゃないか?」


「まあそんなことだろうと思ったけど……少なくともエイジのタイプじゃないってことはないのね……」


 後半の部分は声が小さくて良く聞こえなかったけど、ローズが嬉しそうだから問題ないか。






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