51話:カリスマ
「アレクサンド帝国軍はすでにクランベルクから2日ほどの距離に迫っている。数は約1,000で、ほぼ全員が竜種の魔物を駆る竜騎兵だ」
偵察隊を率いていたジュリアスが帝国軍について説明する。ジュリアスの情報はかなり正確で、俺が実際に見たモノと大差ない。だけど実際に戦った訳じゃないから少しフォローする必要がある。
「ハイネル、発言して構わないか? 俺はゴルドバの方から戻って来たから、帝国軍がどうやってゴルドバを落としたのか知っているんだ」
「エイジ、本当か? 是非聞かせてくれ!」
俺が昨日何をしていたのか察したローズたちがジト目になる。だけど嘘は言っていないから構わないだろう。
冒険者たちが注目する中で説明する。飛竜が上空から落とす焔の塊のこと。騎竜兵が焔を放つ魔導具の槍で武装していること。帝国軍が俺たちの知らないスキルや魔法を使うこと。
「赤竜を駆る赤いフルプレートの男がたぶん指揮官だと思うけど、そいつと自分の身長よりも長い剣を使う女、白い髪で黒ローブの男の3人は相当な手練れだ」
「エイジが手練れと言うくらいだ。正直に答えてくれないか。その3人は俺よりも強いと思うか?」
ハイネルが真剣な顔で訊く。
「スキルや魔法の組み合わせや相性もあるから一概には言えないけど、赤いフルプレートの男と長い剣を使う女は、ハイネルより強いと思うよ」
「あんた、何を言っているのよ? ハイネルよりも強い筈がないじゃない!」
エルザが文句を言うのを、ハイネルが身振りで黙らせる。
「エルザ、俺はそこまで己惚れていない。俺より強い奴なんて、この世界に幾らでもいるだろう。俺たちが問題にすべきなのは個人の強さじゃない。どうやって帝国軍に勝つかってことだ」
ハイネルの毅然とした態度に、他に文句を言う奴はいなかった。
偵察隊と俺が伝えた情報を元に作戦を立てる。飛竜が落とす焔の塊のことを考えると、街の外壁の上に陣取るのは愚策だ。まずは『飛行』などの空中移動が可能な魔法と、姿を消せる魔法やスキルを組み合わせて上空で飛竜を迎撃する。
迎撃部隊に回る冒険者は100人ほど。『殲滅旅団』が支配する第2支部以外で、クランベルクに残った冒険者は300人強だから3分の1が迎撃部隊に参加することになる。
状況を考えれば飛竜を迎撃するのが最優先だ。範囲魔法を含めて空中で姿を隠せるという条件を満たすだけなら200人ほどの冒険者を投入できる。
だけど上空で戦えば、空中移動の魔法が解けた時点で即死に繋がるし、空中で自由に動けるレベルじゃないと敵の的になるだけ。100人という人数もリスクと戦力を天秤に掛けてギリギリ弾き出したモノだ。
次は地上に残る冒険者たちの連携について。クランベルクの兵士と第2支部の冒険者との連携は期待できないから、迎撃部隊の戦況に応じて各支部毎にレイドを組んで行動する方針を決めておく。
迎撃部隊の方にレベルが高い冒険者が集中するから、レイドの指揮を執る冒険者の人選が難しい。レベルと指揮能力のバランスを考えて、各支部を代表する冒険者が指名するか、地上に残る冒険者たちで話し合って決めるか。いずれにしても早く決める必要があるだろう。
迎撃部隊もレイドのことも正直に言えば作戦というレベルじゃないけど、今できることをやるしかないだろう。偵察部隊を出す前に、ハイネルは遊撃部隊の話をしていたけど、この状況だと遊撃部隊に人員を割く余裕はない。
とりあえず話が纏まると、ハイネルが冒険者たちを見渡す。
「みんな解っていると思うが、俺たちが一番優先すべきなのは自分たちが生き残ること、次がクランベルクを、この街の人々を守ることだ。勿論俺たちは帝国軍に勝つつもりだが、戦況が悪くなったら逃げることも視野に入れて準備をしてくれ」
ハイネルはクランベルクの平面図をテーブルに広げて、避難ルートについて説明する。根拠もなく絶対に勝つなんてハイネルは言わない。自分たちに何ができるか、何をすべきかを冷静に考えて、状況に応じて最善だと思う行動をする。
ハイネルは冒険者たちのカリスマだと言われているのは、ただ強いだけじゃなくて、こういうところが理由なんだろう。
「おまえがエイジか。俺は第4支部に所属する『不知火』のジライヤだ」
ハイネルの説明が終わると黒装束の男が話し掛けて来る。『不知火』は第4支部を代表するパーティーで、ジライヤがリーダーだ。
「俺はハイネルを信用しているが、正直おまえのことは良く解らん。ハイネルはおまえの情報を信じて作戦を立てたが、自分が言ったことの責任を取る覚悟はあるのか? おまえの情報が間違っていたら、そのせいで多くの人間が死ぬ可能性があるんだぞ!」
ジライヤが視線に殺意を込める。
「ジライヤ、あんたね……」
ローズが文句を言おうとするのを止める。
「適当なことを言ったつもりはないけど、責任を取る覚悟ってどういう意味だ?」
「ハイネルは逃げることも視野に入れろと言ったが、状況が悪くなったら真っ先に逃げるような真似はいるんじゃねえってことだ!」
完全に喧嘩腰だけど、それだけ真剣に考えているってことだろう。何事かと周りの冒険者たちが注目している。
面倒なことになるからあまり目立ちたくないけど、今さらの話だからな。
「俺はクランベルクから逃げるような状況にするつもりはないよ」
「ほう……言うじゃねえか。『死神』のライゾウや『鮮血同盟』を仕留めたって噂だが、1,000人の帝国軍に1人で勝つつもりか?」
「いや、そこまで言うつもりはないけど。帝国軍の3人の手練れの相手くらいは引き受けても構わないよ」
「てめえ……ハイネルよりも強いって言った奴らを纏めて相手にするだと? だったら口だけじゃねえってところを見せてくれや!」
ジライヤがスキルを発動して姿を消す。各支部を代表する冒険者の情報くらい調べてある。ジライヤのクラスは忍者。戦士と盗賊を複合したような上級クラスで、レンジャーよりも盗賊寄りだ。
俺は『索敵』を常時発動しているし、俺の戦闘スキルのレベルなら気配だけで動きが察知できる。ジライヤが仕掛けて来る前に床に組み伏せて、骨が折れないように手加減して腕を捩じ上げる。
「今、何をしやがった? 動きが全然見えねえだと……」
「いきなり仕掛けて来るのはさすがにどうかと思うよ。あんたに勝ったところで、俺の強さは証明できないけどね」
周りの冒険者たちが唖然としている。俺のことを噂でしか知らなかった奴が大半だろう。ジライヤを解放して立ち上がると、近くにいた冒険者たちが慌てて後退る。ちょっとやり過ぎたか? だけどこの方が解り易いだろう。
「俺は自分から喧嘩を売るつもりはないから、下手に絡まないでくれよ。ジライヤ、とりあえず話は着いたってことで構わないな?」
返事を待たずに冒険者ギルド第1支部を後にすると、ローズたちと第3支部に向かう。レイドの指揮については人選を『鉄壁』のメンバーに任せるつもりだけど、シーダたちに状況を説明するためだ。
「あー、すっきりした! ジライヤの態度はさすがになかったわね」
どういう訳かローズが上機嫌だ。ジライヤと仲が悪いのか?
「エイジは勘違いしているみたいだけど、ローズはエイジの実力を他の冒険者に見せつけたことが嬉しいのよ」
「『鉄壁』の人たちまでエイジの実力を疑っていたから悔しかったの。それにしてもエイジにしてはめずらしく大きなことを言ったわね。敵の手練れを纏めて相手にするなんて、エイジの実力なら当然だけど、いつもはそんなこと言わないじゃない?」
「俺がハイネルよりも強いって言ったから、誰が相手をするかって話になるだろう。どうせ俺が相手をするつもりだし、先に言っておいた方が不安に思う奴が減ると思ったんだ」
勝てないと思うと士気が下がるけど、相手の実力が解らないよりはマシだ。だからハイネルの質問に正直に答えたけど、これも責任の取ったことになるのか?
「エイジと一緒にいると本当に負ける気がしないわね。ハイネルさんは冒険者のカリスマだって言われているけど、私のカリスマはエイジよ……あ、別に変な意味じゃないからね!」
ローズは自分で言っておきながら何故か真っ赤になる。
「ローズが言いたいことは解るけど、エイジはカリスマって言うより……」
サラが口元に笑みを浮かべる。気になるから、言い掛けて止めるなよ。俺を揶揄っているだろう。
「そうだな、エイジは……最強の冒険者ってのが一番似合うんじゃねえか?」
最強の冒険者って……なんか馬鹿っぽくないか? ラウルの空気を読まないところは嫌いじゃないけど。




