50話:作戦会議
制作室に戻って、帝国軍のことをメイに伝える。
「アレクサンド帝国の狙いは結局『ラストダンジョン』なのね。啓示があったってことは、戦乱の女神の使徒が動いているわ。エイジ君、気をつけて」
メイの話だと女神は世界に直接干渉することを禁じられているそうだ。啓示を伝えるのは女神の使徒である天使の役目で、その実力は今のメイに匹敵する可能性があるという。
「使徒が手を下すことも禁則事項に含まれるから可能性は低いと思うけど、もし使徒と戦うことになったら、自分の身を守ることを第一に考えてね」
メイに匹敵する実力って……いまだに俺はメイに立ち合いで勝ったことがないからな。本当にそれだけの実力がある相手なら逃げるしかないだろう。
「エイジ君は自分が作ったダンジョンのせいで戦争が起きたから、責任を感じて帝国軍と戦うってこと?」
「一応それが理由だけど、正直に言うと後づけみたいなモノだな。帝国軍はバトリエット城塞を自分たちの都合で壊滅させて、ゴルドバから逃げようとした人たちを皆殺しにした。俺は自分が正義の味方だなんて思わないけど、そんな奴らを放置するつもりはないよ」
この世界で起きている理不尽な争いを全部止めるとか、そこまで考えている訳じゃない。帝国軍がやったことが単純に許せないだけだ。
メイが仕える女神から迷宮制作者の力を与えられたからできることだって自覚はあるし、俺の我がままだって言われても構わない。
「エイジ君は難しく考え過ぎよ。ムカついたから殺すで構わないじゃない」
いや、それってどこの蛮族の発想だよ?
「そもそもエイジ君は戦乱の女神に無理矢理転生させられたのよ。だからエイジ君には戦乱の女神の手先と戦う権利があるわ」
ここまで言われて気づく。メイなりに俺をフォローしようとしているんだな。
「私が仕える女神様なら絶対に容赦しないわ。エイジ君、帝国の奴らを皆殺しにするわよ!」
いや、前言撤回! さすがに過激過ぎるだろう……もしかしてメイは戦乱の女神に恨みがあるのか?
「エイジ君の性格なら、そこまでするつもりがないことくらい解っているわ。私が気になるのは……エイジ君からローズとサラとは違う女の匂いがすること。これってどういうことか説明してくれる?」
メイの顔から表情が消える。隠しごとをしても無駄だから、俺はギジェットとのことを全部正直に話す。
「つまりその女はエイジ君を利用するために誘惑したのね……ここに連れて来なさい。私が殺してあげるから」
「メイ、ギジェットにはまだ利用する価値があるから止めてくれないか」
「そんなことを言って、エイジ君はその女に迫られて鼻の下を伸ばしていたんじゃないの?」
「『全異常耐性』のおかげで助かったのは否定できないよ。俺も健全な男だからな」
ギジェットの見た目が好みだってことは言わない。どうせメイにはバレているだろうけど、自分から言うと変な意味で取られそうだからな。
「ふーん……そろそろ私も本気を出す必要があるってことね」
メイが本気を出すって……俺、明日まで生きているのか?
「エイジ君、そういう意味じゃないわ。勿論立ち合いでも少しだけ本気を出す理由ができたけど」
じゃあどういう意味なのかは解らないけど、俺がボコボコにされることは確定したみたいだな。
※ ※ ※ ※
『ねえ、エイジ。昨日の念話の理由をいつになったら教えてくれるの?』
次の日、ローズから『念話の指輪』で連絡が来る。ゴルドバに向かう前に伝えたことをすっかり忘れていた。
『悪い、昨日は俺も偵察に出ていたんだ。帝国軍のドラゴンや飛竜が先行して仕掛けて来る可能性があるから、そのときはクランベルクに急いで戻るつもりだったんだよ』
俺が攻撃したことで帝国軍が動きを変える可能性を考えたけど、とりあえず今のところは杞憂だったようだ。
『偵察していたなら、帝国軍の動きを掴んでいるんじゃないの?』
『その辺のことは会ったときに話すよ。今日も俺は偵察に出るつもりなんだ』
帝国軍の実力や戦い方はある程度把握したけど、戦乱の女神の使徒のこともあるし、情報が多いに越したことはないだろう。
夕方になるとサラからハイネルが出した偵察隊が戻ったと連絡があった。その日のうちに各支部の冒険者が集まって作戦会議を行うことになる。
俺たちが向かったのは冒険者ギルド第1支部だ。冒険者ギルドの造りはどの支部も大差ない。石造りの頑丈な建物の中にたくさんの冒険者が集まっている。
「エイジの顔を知らない冒険者が多いみたいね」
サラに促されて周りを見ると、他の冒険者たちが『何でこんな奴がいるんだ?』って顔をしている。『死神』と『鮮血同盟』の件で俺の噂が広まったけど、直ぐに『ラストダンジョン』に籠ったから、俺の顔を知っている奴はそんなに多くない。
俺の見た目は黒髪と黒い瞳で身長170cmの地味な17歳。装備で身体が隠れているから、ぱっと見強そうに見えない。場違いな奴だと思われても仕方ないだろう。
「エイジ、よく来てくれたな!」
そんな空気を壊したのは『青き稲妻』のハイネルだ。
「おまえがクランベルクに戻って来たことは聞いていたが、この状況だから会いに行く時間がなかったんだ。済まなかったな」
「別に謝るようなことじゃないだろう。そんなことよりも俺がいない間、みんなが世話になったみたいだな。ハイネル、ありがとう」
「それこそエイジに礼を言われることじゃない。俺は当然のことをしたまでだ」
クランベルク最強の冒険者ハイネルとタメ口で話している俺に、冒険者たちが『あいつは何者なんだ?』と騒ぎ出す。
「おまえがエイジか? ハイネルから話は聞いている。俺はジュリアス・スティングレイ、『青き稲妻』のサブリーダーだ」
髪を長く伸ばしたイケメンが爽やかな笑顔で右手を差し出す。
「エイジの実力は噂以上なんだろう? 強い奴は歓迎する」
「それなりには役に立てるとは思うけど、あまり期待しないでくれ。クランベルクに向かっている帝国軍は結構な戦力だからな」
「何よ、怖気づいているの? ハイネルが一目置いているみたいだけど、全然大したことないわね!」
訝しげな顔で口を挟んだのは、ピンクベージュの髪の女性。年齢は20代半ばで革鎧を着ていても解る圧倒的な胸のボリューム。これは視線を向けたらアウトの罠だな。
「エイジ、彼女は第5支部に所属する『紅蓮』のリーダー、エルザ・シャーロットよ。エルザはエイジと初対面なのに随分な言い方ね」
「サラ、エルザさんって呼べって言った筈だわ。年下の癖にあんたは生意気なのよ。少しレベルが上がったからって、調子に乗るんじゃないわ!」
「先に絡んで来たのはそっちじゃない。仲間のことを悪く言うなら私も黙っていないわ!」
サラが冷ややかな目を、ローズが怒りの視線をエルザに向ける。
「俺のことはどう思っても構わないけど、サラとローズのことは悪く言うなよ。それに今はこんなことをしている場合じゃないだろう」
「エルザ、エイジの言う通りだ。みんな、まずは偵察隊の報告を聞いてくれ」
「ハイネル……貴方がそう言うなら……」
ハイネルの一言でエルザが引き下がる。俺に対する態度と随分違うけど、エルザはハイネルに憧れているって話だから仕方ないだろう。




