47話:偵察
ガーランドと入れ替わるようにして『蒼穹』のダルクたちが俺たちのテーブルにやって来る。
「エイジ、久しぶりだな。いつクランベルクに戻って来たんだよ!」
さっきからダルクたちがこっちを見ていることには気づいていたけど、どうやら俺たちが帝国との戦いについて話していたから、遠慮して近づいて来なかったみたいだ。ダルクも少しは空気が読めるようになったんだな。
「ダルクたちもクランベルクに残って戦うことにしたのか?」
「ああ、勿論だぜ。敵前逃亡なんてカッコ悪いからな!」
ダルクたちには俺が『ラストダンジョン』にいたことは話していないけど、『念話の指輪』でときどき連絡を取っていた。
「エイジさん、もしかして私が帝国軍の話をしたから駆けつけてくれたんですか?」
ジーダが申し訳なさそうな顔をする。実はシーダからも『念話の指輪』で帝国軍の話は聞いていた。
「いや、ちょうどクランベルクに戻る予定だったんだ。このタイミングになったのは偶然だよ」
本当のことを話していないからこう言うしかない。シーダたちのことを信用していない訳じゃないけど、本当のことを言うとうっかり喋りそうだからな。
ダルクたちもレベルが上がって、今は4階層の攻略を進めている。ローズたちと比べると攻略のペースが遅いけど、普通に攻略していたら順調な方だろう。
帝国軍がクランベルクに侵攻したら、基本的には各支部ごとにレイドを組んで戦うって話だ。第3支部の冒険者のことはローズたちや『鉄壁』のメンバーの方が詳しいだろう。
ハイネルは各支部からメンバーを選別して遊撃部隊を作ることも考えているらしい。遊撃部隊の目的は想像がつくけど、まずはもっと情報を集めてからだな。
※ ※ ※ ※
「つまりエイジ君は、アレクサンド帝国がクランベルクに侵攻する狙いは『ラストダンジョン』を手に入れることで、戦乱の女神が裏で糸を引いていると考えているのね?」
制作室に戻ると、メイの意見を訊いてみた。
「私にも確証はないけど、如何にも戦乱の女神がやりそうなことね。いつまで経っても魔物の暴走が起きないから、痺れを切らしたんじゃない?」
帝国軍が『ラストダンジョン』を攻略したら魔物の暴走が起きるのがさらに遅くなる。だけど戦乱の女神の狙いは魔物の暴走を起こすことじゃなくて、この世界の人間に試練を与えて淘汰することだ。魔物の暴走の代わりに帝国軍がクランベルクを襲えば同じことだと考えても不思議じゃない。
「俺の予想が当たっているか、判断するのはもっと情報を集めてからだ。帝国軍の狙い次第で対応の仕方が変わって来るからな」
帝国軍の狙いが『ラストダンジョン』だとしても全部俺の責任だとは思わない。ローズたちにはそう言ったけど、俺が作ったダンジョンのせいで戦争が起きたのなら、当事者として対処する必要があるだろう。
※ ※ ※ ※
翌日、俺は帝国軍の情報を探るために偵察に出ることにした。ハイネルが偵察隊を出すって話だけど、俺にはもっと早く正確に情報を掴む手段がある。
人気のない場所に移動して『光学迷彩』と『索敵阻害』を発動する。この2つの魔法はエディットツールで新たに作ったモノだ。ダンジョンで魔物と戦っているときは姿を隠すって発想自体がなかったからな。
『光学迷彩』は『透明化』の上位魔法だ。『透明化』は攻撃すると効果が切れるけど『光学迷彩』は切れない。
『索敵阻害』は『索敵』対策だ。スキルや魔法で姿を隠しても『索敵』には反応するけど、『索敵阻害』を使えば反応しなくなる。魔法スキルレベルと知性が高い相手には効かないけど。
『飛行』を発動して空に飛び上がる。ダンジョンの低層部じゃあまり使わないけど『飛行』は『ダンジョンズ&マジック』デフォルトの魔法だ。
魔法はスキルレベルと知性次第で効果が増す。『飛行』の場合は速度と持続時間が向上する。だけど空を飛びながら近接戦闘をするなら『空中機動』を併用しないと使い物にならないだろう。
帝国軍が占領したゴルドバがある方向に向かう。帝国軍がクランベルクに向かっているなら途中で鉢合わせる筈だ。
街道を進んでいる馬の列が見える。ハイネルが出した偵察隊だろう。偵察隊に見つかると時間を取られそうだから、魔法で姿を隠したまま追い抜く。
さらに進んで行くと帝国軍を発見する。数は1,000を越えているし、ローズたちが言っていたように大半が竜種の魔物を駆っている。
あまり近づくと相手が気づかれる可能性があるけど、俺は『索敵阻害』を発動しているから問題ないだろう。
真上を飛び回っても帝国軍は気づいていない。竜騎兵は4mほどの槍で武装してフルプレートを纏っている。竜種の魔物も金属製の防具を身につけている。槍の形状が変わっているし、何か仕掛けがありそうだな。
ドラゴンは赤竜が1体だけだ。体長10mを超える巨体で、赤いフルプレートの男が乗っている。あとは飛竜が100体ほどで残りは地竜だ。
地竜のうち1割ほどが他の個体の倍以上の大きさで、巨大な馬車を引いている。大半は窓のないから物資の運搬用で、窓のある馬車は人を乗せているんだろう。
今の俺の魔法レベルなら『索敵』の反応で大よその強さが解る。戦闘スキルもレベルが上がると相手の気配を察知できるようになる。正確なレベルやステータスが解る訳じゃないけど。
不意に赤竜に乗る男と目が合う。一瞬偶然かと思ったけど、男は槍を俺に向けて焔を放つ。こいつは俺に気づいているのか。
「おい、敵が潜んでいるぞ!」
赤竜が飛び上がって俺の方へ向かって来る。周りの騎竜兵たちも男が向かう方向に向けて槍から炎を放つ。だけど狙いが正確じゃないから俺が見えている訳じゃないだろう。
「『放電』!」
第5階梯魔法の電光が男と赤竜を纏めて貫く。
「舐めた真似を! この程度の攻撃で俺が倒せるものか!」
男はポーションを掛けて自分と赤竜を回復させると、そのまま赤竜を直進させて迫る。
「『スクリューランス』!」
男の黒い槍が光を放って高速回転する。剣で受け止めると回転に弾かれる。俺はもう1本の剣を一閃、男の腹を切り裂くが傷は深くない。
「ラインハルト、敵襲だと!」
窓付き馬車から藍色の髪の女と白髪の男が降りてくる。見た目からして他の帝国兵とは雰囲気が違うけど――こいつらは強いな。
とりあえず目的は果たしたから、空を飛んで帝国軍から離れる。帝国軍は追って来ないから、あの男が俺の気配に気づいただけで、索敵系のスキルや魔法で俺を捉えた訳じゃないみたいだな。
俺は正義の味方じゃないから、帝国軍が侵攻して来ただけで戦う理由にはならない。グランテリオ王国の人を殺したとしても、俺にとっては知らない他人だ。人を殺したからと相手を裁くのは為政者の仕事だろう。
だけど帝国軍の目的が『ラストダンジョン』なら話が変わってくる。まだそうと決まった訳じゃないけど、戦う可能性があるなら相手の力を測っておきたい。そもそも俺の攻撃が通用するか試しておく必要があるだろう。
戦乱の女神は『ラストダンジョン』があるクランベルク周辺に『ダンジョンズ&マジック』の世界を具現化した。アレクサンド帝国はその外側にあるから『ダンジョンズ&マジック』とは別の法則に従っている可能性がある。法則が違ったら俺の魔法やスキルが通用する保証はないだろう。
向こうが攻撃したから試させて貰ったけど、俺の魔法と物理攻撃は普通に通用した。だけど情報が少な過ぎる。もっと情報を集める必要があるけど、あのまま戦っていたら殺すしかなかったからな。
ここからクランベルクまで帝国軍が侵攻するにはまだ数日は掛かるだろう。その間にやれることはやっておくか。ドラゴンや飛竜など速く移動できる奴だけ先行させる可能性もあるから、そっちも手を打っておく。
『ローズ、細かいことは後で説明するから、クランベルクに帝国軍が迫ったら直ぐに連絡してくれないか』
『念話の指輪』で連絡すると、俺はさらに西に向かうことにした。




