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44話:侵攻


※三人称視点※


 クランベルクの街があるグランテリオ王国の北部に、険しい山岳地帯に聳えるバトリエット城塞がある。


 分厚い防壁に囲まれた堅牢な城塞はグランテリオ王国の北の守りの要として、辺境からの魔物の侵攻を50年以上に渡り防いで来た――わずか数時間前まで。


 城塞の各所から立ち上る黒い煙。瓦礫に押し潰された無数の王国兵の死体。魔物など物ともせずに辺境地帯を横断した軍勢によって、バトリエット城塞は破壊の限りを尽くされた。


 猛将として知られる要塞司令官アルバート・ゴルダー辺境伯は兵士の大半を失い、自らも深手を負い血塗れになりながら剣を構える。


 目の前には飛竜(ワイバーン)地竜(アースドラゴン)を駆る1,000人を余裕で超える数の竜騎兵。竜種の魔物自体が脅威だが、金属製の防具と魔導具で武装することで戦力はさらに増している。


 その中心にいるのは巨大な赤竜から降り立った赤いフルプレートの男。アッシュグレイの髪と精悍な顔立ち。男はアルバートに蔑むような目で見る。


「少しは楽しめると思ったが……詰まらぬ戦いだ。まるで歯ごたえがない」


このようなやり方(・・・・・・・・)……貴殿たちの力があれば、正面から城塞を落とすこともできた筈だ!」


 アルバートが睨みつけると男は鼻で笑う。


「何を愚かなことを……俺もかつて同じように考えていたこと恥ずかしく思う。正面から剣を交えるなどと古臭い考え方をしているから、貴様たちは無様に敗れたのだ。相手に手も足も出させずに蹂躙する。これがアレクサンド帝国の流儀だ!」


 剣を抜いて、アルバートに切っ先を向ける。


「俺はアレクサンド帝国第2師団長ラインハルト・シュバイツ。貴様が望む正面からの戦いの相手をしてやろう。他の者には一切手出しさせないから安心しろ。もし貴様が私を切り伏せることができたら、全軍を撤退させると約束しよう」


 すでにアルバートは満身創痍であり、ラインハルトが約束を守る保証もない。だがこれは敵に一矢報いる最後のチャンスだ。アルバートが断る理由はなかった。


 アルバートは渾身の一撃を振るう。これまで数多の魔物を仕留めて来た斬撃は、満身創痍とはいえど少しも衰えていない。だがラインハルトは剣を躱すと同時にアルバートを縦に真っ二つにした。


 返り血を浴びたラインハルトはゴミを見るような目で死体を見る。


「所詮はモノの価値も解らぬ弱小国の将か……口ほどでもない」


「ラインハルト、何を勝手なことをしている? 私たちはクライス陛下の命令で動いている。おまえの一存で軽々しく徹底などと口にするな」


 異を唱えたのは藍色の髪をショートボブにした美女。不揃いの部分鎧を組み合わせた装備は使い込まれており、自分の身長よりも長い剣を肩に担いでいる。


「オリビエ、おまえこそ余計な口出しをするな。今回の遠征軍の指揮は俺に一任されている。それに万が一にもこの俺が後れを取る筈がなかろう」


「そういう問題ではない。ラインハルトの言葉は陛下に対して不敬、直ぐに撤回すべきだ」


 次に口を挟んだのは白髪の男。髪は白いが年齢は30歳前後というところ。完全装備の帝国軍の中で、黒いローブ姿は非情に目立つ。


 この2人はアレクサンド帝国皇帝クライスがダンジョン攻略のために送り込んだネームドキャラだ。アレクサンド帝国において2人はラインハルトと同格として扱われており、立場としては対等。ラインハルトも2人を無視する訳にいかなかった。


「……解った。今後は気をつけよう」


 部下の前で自分の非を認めるのは腹が立つが、ラインハルトはクライスから信頼されて指揮を任されたと自負している。この程度のことで遠征部隊の纏まりを欠くことになれば、クライスに合わせる顔がない。


 ラインハルトは血を拭うこともなく、部下たちに振り返る。


「クライス皇帝陛下が仰っていたように、このような弱者しかいない国が戦乱の女神の至宝(・・・・・・・・)を独占しているなど由々しき事態だ。女神の至宝はアレクサンド帝国にこそ相応しい。この国を蹂躙して皇帝陛下に捧げるぞ!」


 竜騎兵たちが歓声で応えて、軍勢は再び侵攻を開始した。


※ ※ ※ ※


※サラ視点※


 連絡がないのは無事な証拠だわ。メイさんも何も言わないし、エイジは『ラストダンジョン』の攻略を順調に進めているようね。私たちにもやるべきことがある。エイジに負けないように頑張らないと。


 その日、冒険者ギルドを通じて太守の城に呼び出された。ギルド職員にそれとなく訊いてみたけど、とりあえずエイジ絡みじゃないみたいね。


 城に行くと大広間に通される。他にも『鉄壁(アイアンウォール)』に『青き稲妻(ブルーライトニング)』、オスカーたち『殲滅旅団』の幹部、各支部のトップクラスの冒険者たちが集まっていた。ここにいる全員が太守と契約している。


「このメンツを集めるとは……太守様は本気で戦争でも始めるつもりか?」


「いや、もっと本腰を入れてダンジョンを攻略しろって話だろう。『天元突破』が下手に攻略を進めるから、こっちにもお鉢が回って来たんだ」


 冒険者たちが憶測を口にしてると、奥の扉が開いて騎士を従えた小太りの男が入って来る。口髭を生やした気難しそうな顔。ゴテゴテした金の装飾品で豪華な服を飾っている。クランベルクの太守ジャン・ローレンス子爵だ。


 ローレンス子爵は芝居掛かった大きな溜息をつく。


「ゴルダー辺境伯領の領都ゴルドバがアレクサンド帝国に占領された。帝国軍は今も進軍を続けており、このクランベルクに向かっている。私は太守として非常事態を宣言し、全冒険者に防衛戦への参加を要請する」


 アレクサンド帝国は急速に版図を広げた軍事大国だ。だけどクランベルクの街があるグランテリオ王国とは、魔物が巣食う辺境地帯によって隔てられている。


 仮に辺境地帯を突破したとしても、そこには王国の守りの要であるバトリエット城塞がある。つまり帝国軍がゴルドバを占領したということは、バトリエット城塞が陥落したということだ。


 ローズとラウルに目配せすると2人が頷く。かなり不味い状況だってことを2人も理解しているようね。


「帝国軍がクランベルクに向かっているのは本当なのか? ゴルドバから街道を南下すれば王都がある。何でそっちに向かわないんだ?」


 クランベルクは『ラストダンジョン』によって潤っているけど、所詮はグランテリオ王国の一地方都市に過ぎない。戦略的な意味でも経済的な意味でも、普通に考えれば帝国軍は王都を攻める筈だわ。


「私も信じたくはないが、兵を出して確かめたから間違いない。帝国軍は真っ直ぐにクランベルクに向かっている。事は急を擁するのだ!」


 ゴルドバから早馬による応援要請を受けたとき、ローレンス子爵も帝国軍は王都に向かうと思っていたらしい。だけど派遣した兵士たちが途中で帝国軍に遭遇して逃げ帰って来たそうだ。


 帝国軍がクランベルクに向かっているなら、狙いとして考えられることは――


「ローレンス閣下、帝国軍の数と編成は?」


 『青き稲妻』のハイネルさんが冷静に問い掛ける。


「正確な数は把握していないが、兵士の報告では1,000人を超えるそうだ。そのほぼ全てが竜騎兵で、飛竜や地竜の他にドラゴンが目撃されている」


 クランベルクにいる兵士の数は500ほど、冒険者の数もほぼ同数。ローレンス子爵の情報が正しければ人数は対等だけど、魔物を数に入れれば相手は倍。しかも相手はアレクサンド帝国が誇る竜騎兵だ。


 アレクサンド帝国が急速に版図を広げることができたのは、魔導具によって武装した竜騎兵という圧倒的な戦力を抱えているからだと言われている。


 ダンジョンで飛竜や地竜、ドラゴンを倒したことがある冒険者は少なくない。だけど1,000という規模で軍として組織的にする相手では全然話が変わって来る。


 しかもグランテリオ王国とアレクサンド帝国とほとんど交流がないから、竜騎兵の本当の実力や、どんな戦い方をするかも解らない。


「貴様たちには各支部の冒険者を纏める役割を果たして貰う。ただしアレクサンド帝国については一切言及するな」


「太守様、そいつはどういうことだ?」


 『鉄壁』のガーランドさんの言葉に、ローレンス子爵が顔を苦笑する。


「少しでも多くの戦力が必要なときに、冒険者に逃げられては堪らんだろう。東の森から獣人が攻めて来たとでも言っておけ!」


「それって他の冒険者を騙すってこと? そんなの見過ごせる筈がないじゃない!」


 ローズが大声で抗議する。こんなこと言われて黙っている筈がないわ。


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