43話:4ヶ月後
体長20m級の天空竜が放つ光のブレスを、予備動作で判断して躱す。俺は加速して距離を詰めると、2本の剣で巨体を切り裂く。
別の天空竜が大口を開けて光のブレスを放つ。だけどこいつの動きは把握していた。俺はブレスを躱して2体目を仕留める。これであと5体だ。
天空竜の群れの相手をしているうちに、視界の先に新手が現れる。血塗れの甲冑を纏う闇色のガイコツは青い焔を目に宿している。冥府の王は最強クラスのアンデッドだ。そいつが8体同時に出現した。
冥府の王がなんで8体いるのか、なんてツッコミはなしだ。こいつらを設定したのは俺だからな。冥府の王たちは天空竜などお構いなしで超階梯魔法『ブラックホール』を放つ。甲冑なんて纏っているけど冥府の王は魔法の威力もエグいんだよ。
だけど慌てる必要はない。最大加速で『ブラックホール』の集中砲火を躱す。『|ブラックホール』は光のブレスほど速くないから発動してからでも躱せる。
取り残された天空竜が『ブラックホール』に飲み込まれて消滅する。敵の数が多いと同士討ちが発生するけど、その分の経験値は俺に入らないから損した気分だ。
冥府の王の動きを横目で捉えながら、残りの天空竜を仕留めていく。どうせこいつらを倒しきる前に別の魔物が現れるだろう。
まあそれだけ効率的に仕留められるってことだ。このレベルの魔物でも今の俺なら十分対応できるな。もう少し強い魔物を作ってみるか。
※ ※ ※ ※
※ローズ視点※
クランベルクからエイジが姿を消して4ヶ月以上過ぎた。と言ってもエイジは『ラストダンジョン』にいるから、今でも私たちは連絡を取り合っている。
あれから衛兵が何度も冒険者ギルドに来て、エイジについて知っていることを話せと言われた。だけど1ヶ月も経つと衛兵が来ることもなくなった。ダンジョンでもエイジを見掛けないから、クランベルクからいなくなったと判断したのかも知れないわね。
「ライゾウと『鮮血同盟』が行方不明になった件でエイジは疑われていたが、本人が姿を消して確証が持てる材料もないから、太守も興味が失せたんだろう」
『青き稲妻』のハイネルさんが第3支部に来てそう言った。エイジが姿を消してから、ハイネルさんは私たちのことを何かと気に掛けてくれる。
ハイネルさんと何か約束したのかとエイジに訊いてみたけど、ハイネルが勝手にやっているとしか答えてくれなかった。そういうところもホント、エイジらしいわね。
太守の件も大事にならなかったし、エイジは『ラストダンジョン』の攻略を順調に進めているみたい。曖昧な言い方になるのは、エイジから詳しい話を聞いていないから。
今私が一番不満に思うのはエイジに会えなくなったこと。メイさんと立ち合いをするために週2回のペースで制作室に通っているけど、私たちが行ったときにエイジがいた試しがない。
そもそも私たちが制作室に行く時間帯は、エイジが『ラストダンジョン』を攻略しているタイミングだ。
だけどたまにはエイジに会いたいから、時間を変えて欲しいって頼んでもメイさんは絶対に承知しなかった。
制作室のスクリーンにダンジョンの映像を映せるのに、エイジの姿も見せてくれない。
「エイジ君は『ラストダンジョン』の攻略に集中しているの。だから邪魔しないで」
こんなことを言われたら引き下がるしかないじゃない! メイさんは毎日エイジに会っているのに……
エイジとメイさんが2人で暮らしをしていることが気にならない筈がないわ。メイさんがメイドゴーレムで堅い金属製の身体だってことは、立ち合いをしている私たちは嫌になるほど解っている。だけどメイさんの心は私たちと変わらないから……
「メイさんとエイジって、本当のところはどういう関係なんですか?」
立ち合いの後にサラが突然訊いたことがある。私たちが初めて制作室を訪れたとき、エイジがメイさんのことを師匠だと言っていた。
「私とエイジ君の関係が気になるみたいね……人には言えない特別な関係だって言ったわよね? つまりそういうことよ!」
ドヤ顔で言うメイさんの言葉を鵜呑みにするつもりはないけど、エイジにとってメイさんが特別なのは解っているわ。
エイジとメイさんの距離感は私たちと違う。エイジはメイさんを誰よりも信頼している。だからって……戦う前から負けを認めるつもりなんてないわ!
『死神』に襲撃されたとき、駆けつけてくれたエイジを見て私は自分の気持ちに気づいた。エイジが来てくれなかったらどうなっていたか……庇ってくれたエイジの背中から私は目が離せなかった。
それだけじゃない。エイジは私たちのために『殲滅旅団』に乗り込んで話をつけてくれた。私たちが強くなりたいって言ったら、自分の秘密を打ち明けて惜しみなく協力してくれる。なのにエイジは何の見返りも求めない。むしろ私たちが貰ってばかりで……
エイジと会えなくなって私の気持ちはどんどん強くなっていく。たけど我がままなんて言える筈がない。エイジは魔物の暴走を止めようと頑張っている。私もエイジと一緒に戦いたいけど力不足なのは解っているわ。
私たちにできることは魔物を少しでも多くの倒して、魔物の暴走が起きるのを遅らせること。どこまでエイジの役に立てるか解らないけど……エイジ、私も頑張るから!
「『天元突破』が来たぜ……おい、道を空けろ!」
この数ヶ月の間に私たちにも変化があった。冒険者ギルドに行くだけで周りの冒険者たちが注目する。
「俺たちはアイテムを売りに来ただけだぜ。普通に列に並ぶから気にしないでくれ」
「ラウルさん、そんな訳にいかねえだろう。『天元突破』のおかげで『殲滅旅団』の奴らにデカい顔をされずに済んでいるんだ!」
エイジから貰った情報とアイテム、メイさんに鍛えて貰っているおかげで、私たちはこれまでじゃ考えられないペースで強くなった。今攻略しているのは23階層でレベルは40台半ばだ。
ライゾウと『鮮血同盟』がいなくなって戦力が落ちたことも影響していると思うけど、『殲滅旅団』の連中は私たちに一目置くようになって、第3支部の冒険者に嫌がらせをしなくなった。
こうなると私たちもエイジと同じように太守に目をつけられることになった。戦争が起きたときに招集に応じる契約を結ぶように言われて、色々考えたけど、結局私たちは太守と契約することにした。
クランベルクの近くには私たちが生まれ育った村がある。だから戦時に村の人たちをクランベルクに避難させることを条件に私たちは太守と契約を結んだ。エイジにも相談したかったけど、これは私たちの問題だし、エイジの邪魔をしたくないから止めた。
相談しないで決めたことをエイジが知ったらどう思うだろう? エイジのことだから私たちが決めたことなら応援してくれそうね。
「エイジって小僧が騒ぎを起こしたときはどうなるかと思ったが、結局実力がある奴が順当に伸びたってことだろう」
「エイジはおまえらの知り合いだったな? 今考えればあいつは虎の威を借る鼠だったってことだ」
冒険者ギルドに併設された酒場で、一番奥のテーブルを囲む4人の冒険者たち。全員40歳代のオジサンだけど、衰えなんて微塵も感じさせない。この人たちは第3支部最強と言われていた『鉄壁』のメンバーだ。
「ローズ、俺たちにはおまえらのやり方は理解できねえが結果が全てだ。おまえらは進めるだけ先に進め。俺たちが脇を固めてやる」
『鉄壁』のリーダー、ガーランドがニヤリと笑う。強面で口うるさいけど決して悪い人じゃない。
「そう言ってくれるのは嬉しいけど、エイジのことを悪く言わないでよ。私たちが強くなったのはエイジのおかげだから!」
「エイジを悪く言うなら、あんたたちでも許さねえぜ!」
私たちが睨んでも『鉄壁』のメンバーたちは肩を竦めるだけ。事情を知らない人が信じないのは仕方ないけど、エイジがクランベルクに戻って来たら本当のことが解る筈だわ。




