41話:決意
話を終えるとハイネルはアッサリと帰っていった。本当に俺に情報を伝えるためだけにやって来たのか。
俺がライゾウと『鮮血同盟』を消滅させたことについては一切訊かなかったし、ハイネルって本当に良い奴なんだな。
「なあ、エイジ……今のって『青き稲妻』のハイネルだよな?」
立ち去って行くハイネルを見てダルクが驚いている。ローズたちは俺に客が来たとだけ伝えていたらしい。
「エイジさんって『青き稲妻』の人たちと知り合いなんですか?」
シーダが目を丸くする。クランベルク最強の『青き稲妻』は冒険者たちの羨望の的だ。
「ハイネルとしか会ったことがないよ。それよりもみんなに話すことがあるんだ」
ハイネルを呼び捨てにしていることで、ローズたちは何かあったと察したみたいだ。シーダたちはダルク以外、空気を読んで緊張した顔をしている。
「面倒なことになりそうだから、俺はしばらくクランベルクを離れることにした。みんなには会えなくなるけど、俺のことは心配しないでくれ」
ローズたちは『ラストダンジョン』から出ないだけだって解っているけど、シーダたちは俺の言葉をそのまま受け止める。
「しばらくって……エイジさん、クランベルクに戻って来るんですよね? もしかしてまた『殲滅旅団』絡みですか?」
「いや、今回は違う相手だよ。ほとぼりが冷めたら戻って来るつもりだけど、いつになるか解らない」
相手が太守となると、本当にクランベルクを離れることになるかも知れない。だけどその前にやることがある。魔物の暴走を止めることだ。
「『蒼穹』のみんなはこれからも慎重に行動して、無茶なことはするなよ」
「エイジ、解っているぜ。もう絶対に無茶はしない。少しずつでも確実に強くなって、いつかエイジみたいになってみせるぜ!」
ダルクは強がっているけど、ちょっと寂しそうだ。こいつは口が悪くて空気が読めないだけで、結構良い奴だからな。
『蒼穹』のみんなが帰った後、ローズたちにハイネルから聞いたことを伝える。
「クランベルクの太守って、敵に回すとそこまでするの?」
「ハイネルから聞いただけだから、どこまで正確な情報か解らないけど、俺はハイネルが嘘をつくとは思わない。あいつは信用できると思うよ」
「私もハイネルさんは信用できると思うわ。だけどエイジ、ハイネルさんを呼び捨てにしているのはどうして?」
「ハイネルがそうしろって言ったんだよ。俺に敬語を使われると気持ちが悪いんだって」
サラは何かを察したように苦笑する。
「状況は解ったわ。クランベルクの情報については、私たちが随時エイジに伝えるわ。何か必要なモノがあったらダンジョンに持って行くけど、メイさんがいるから特に必要なさそうね」
「俺の状況はこれまでと大差ない。これからも『ラストダンジョン』の攻略を進めるだけだ」
しばらくクランベルクに来ていなかったし、これまでも週に1度くらいしか来なかった。俺が姿を消したら行動パターンを知っている奴なら『ラストダンジョン』に潜伏していることを疑うだろう。
だけど俺が攻略している階層まで辿り着ける冒険者は、今のところクランベルクにいない。制作室と攻略中の階層を転移で往復すれば、他の冒険者に見つかることはない。
「問題は俺が姿を消した後、ローズたちや『蒼穹』のみんなに太守の手が伸びる可能性だ。ずっと姿を見せなければ諦めると思うけど、もし太守がみんなを狙うなら俺にも考えがある」
太守が出て来るとは思わなかったけど、ライゾウと『鮮血同盟』を始末した時点で似たような状況になることは想定していた。だから奥の手は用意してある。
「ローズ、ラウル、サラ、俺たちは仲間だから、もう俺が巻き込んだなんて言わない。だからみんなも自分たちのせいだなんて思わないでくれよ」
きっかけは『死神』の襲撃からローズたちを助けたことだけど、ライゾウと『鮮血同盟』を始末すると決めたのは俺だ。
「エイジも言うようになったじゃない。つまり私たちは共犯者ってことね」
サラが口元に笑みを浮かべる。
「サラ、共犯者はないんじゃない? 言いたいことは解るけど……エイジ、ありがとう。私はエイジの気持ちが嬉しいわ!」
ローズが満面の笑みを浮かべる。俺は自分が思っていることを素直に口にしただけだからな。
「俺たちのことは心配要らねえぜ。エイジは安心して『ラストダンジョン』の攻略を進めてくれ!」
ラウルは俺と肩を組んで背中をバシバシ叩く。
「みんなに1つ頼みたいことがあるんだ。この家に普段誰も使わない部屋があったら、しばらく使わせて貰えないか?」
「無駄に広い家だから部屋なら余っているけど……エイジは『|収納庫ストレージ》』が使えるから物置は必要ないわよね?」
ローズたちが案内したのは、ベッドと簡単な家具を置いただけの部屋だ。
「一応客室として使うつもりだけど、まだ誰も使ったことがないわ」
「もっと本当に使わない物置や空き部屋で構わないけど」
「他にも客室はあるから問題ないわ」
そう言うので遠慮なく使わせて貰うことにした。俺は指に魔力を込めて床に魔法陣を描く。これで登録完了だ。
「何かあったときは『念話の指輪』で連絡してくれ。転移して駆けつけるから」
「エイジ……それってダンジョンの外に転移できるってこと?」
『ダンジョンズ&マジック』の『転移』はダンジョンの中でしか使えないからな。
「俺が使う魔法は『転移』とは別物で、ダンジョンから直接この部屋に転移できるんだ」
エディットツールは魔法も自由にデザインできる。俺が作ったのは登録した場所に転移できる魔法だ。距離が長くなると膨大なMPを消費するけど、俺のMPなら問題ない。
「じゃあ、これからも気楽に連絡してくれ。『上位転移』!」
魔法を発動すると一瞬で『ラストダンジョン』の制作室に移動する。
「エイジ君、お帰りなさい。久しぶりの街はどうだったの?」
メイが夜食用にリゾットを作って待っていてくれた。
「ちょっと面倒なことになったよ」
事情を説明するとメイが呆れた顔をする。
「エイジ君がやることはこれまでと大差ないけど、そんな奴のせいで身を隠すことになるのはムカつくわね。ライゾウたちみたいに始末したら良いじゃない?」
「向こうが手段を選ばないなら俺も考えるけど、クランベルクの街に行かないだけでやり過ごせるならその方が良いだろう」
メイが不満そうな顔をする。
(それってローズたちのことを考えての判断よね? あの子たちが頑張っていることは認めるけど、エイジ君を色々なことに巻き込み過ぎよ。だったら私にも考えがあるわ……)
「メイ、言いたいことがあるなら言ってくれ」
「別に何でもないわ……エイジ君がそう言うなら仕方ないわね。こうなったら『ラストダンジョン』を徹底的に攻略するわよ。ローズたちや他の冒険者のことは私に任せて、エイジ君は攻略に集中して」
これまでも制作室の映像で見守って貰っていたけど、メイとローズたちは『念話の指輪』でお互いを登録したから、ローズたちがヤバい状況になったら念話で指示をすると言う。
『蒼穹』のみんなに何あったときは、ローズたちを向かわせるつもりらしい。メイがバックアップしてくれるなら安心して任せられる。
「解ったよ。みんなのことはメイに任せて、俺は自分のことに集中するよ」
まずは魔物の暴走を止めることだけど、俺が魔物を倒しまくったせいで、最近はダンジョンコアが暴走して魔物が増えることはなくなった。あとは最下層まで攻略して、すでに増えている魔物の数を減らすだけだ。
まだ気が早いかもしれないけど、俺は『ラストダンジョン』を攻略した後のことを見据えている。
「エイジ君は他のことなんか気にしないで、自分の思うようにやって。私がエイジ君の傍いるんだから何の問題もないわ」
俺が素直に言うことを聞いたからか、メイが嬉しそうだ。ドヤ顔がちょっとウザいけど。




