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40話:ハイネルの情報


 青い髪と灰色の瞳で190cmを超える長身。クランベルク最強の冒険者パーティー『青き稲妻(ブルーライトニング)』のリーダー、ハイネル・ブラッドホークが襟付きのシャツに青いジャケットという姿で、ローズたちの家の門の前にいる。


 一応剣をベルトに下げているけど、それ以外に武装はしていない。護身用の武器も持たずに外出するのは冒険者としてあり得ないから、ハイネルの格好は人の家を訪ねるのに問題がある訳じゃない。


「ハイネルさん、私たちに何か用ですか?」


 サラが玄関から出て応じる。ローズとラウルも一緒に外に出る。


「こんな時間に他人の家を訪ねるのが非常識なことは承知している。だから門前払いをするなら素直に引き下がるが、こうでもしないとエイジに会えないだろう」


 予想はしていたけどハイネルは俺に用があるみたいだな。俺は玄関を出てハイネルの前に進み出る。


「冒険者ギルドで会ったときも思いましたが、ハイネルさんは俺のことを探っているみたいですね」


「エイジ、気を悪くしたなら謝る。この前は『殲滅旅団』に喧嘩を売ったおまえに会ってみたかったんだ。今回はおまえに関わる情報を持って来た。ここで話せるような内容じゃないから中に入れてくれないか? ダメなら日を改めるが、早く伝えた方が良いと思ったんだ」


 俺に関わる情報? ハイネルは俺の動きを掴んでいたし、情報収集に余念がないみたいだな。それにクランベルク最強の『青き稲妻』のリーダーなら、俺たちの知らない情報を掴んでいる可能性がある。


「エイジ、ハイネルさんに中に入って貰ったら? 私たちは構わないわよ。2人で話をするなら部屋を用意するわ」


 サラの言葉にローズとラウルが頷く。


「じゃあ悪いけど、みんなはシーダたちの相手をしていてくれ。ハイネルさん、話を聞きますよ」


「いきなり押し掛けて悪かったな。こいつは手土産だ」


 ハイネルは赤と白の高級ワイン2本を差し出す。これまでの言動といいハイネルは常識が通じるし、悪い奴じゃないみたいだな。


 サラに応接室に案内されて、俺とハイネルは向かい合って座る。


「俺に関わる情報って何ですか?」


「話が早くて助かる。おまえたちが『死神』の奴らを返り討ちにしたことと、ライゾウと『鮮血同盟』が行方不明(・・・・)になったこと。これらの噂がクランベルク中に広まってることは知っているだろう?」


 前者については噂を聞いてやって来る他の支部の冒険者の相手をするのが面倒で、俺はしばらくクランベルクに来なかった。後者についてはライゾウと『鮮血同盟』を死体も残さずに始末した時点で、こうなることは予想していた。


「これらの噂のせいでクランベルクの太守がおまえに目をつけた。俺たち『青き稲妻』は太守の城に呼び出されて、おまえに関する情報を色々訊かれた。おそらく『殲滅旅団』のところや他の冒険者ギルド支部にも同じ話がいっているだろう」


 冒険者になってまだ数ヶ月の俺が『死神』を返り討ちにして『殲滅旅団』の本部に乗り込んだ。少し調べれば、ライゾウと『鮮血同盟』が行方不明になったことにも俺が関わっていると疑うだろう。


 だけどローズたちを含めてじゃなくて俺個人が疑われているのは、誰かが情報をリークしたってことか?


「あのとき一緒にいたから疑われるのは仕方ないが、『青き稲妻』の名に誓って俺はエイジについて太守に何も話していない。おまえを敵に回すつもりはないからな」


 俺の反応からハイネルが先回りして答える。


「『天元突破』の実力はそれなりに知られている。最近急激に伸びている(・・・・・・・・・・)ことは聞いているが、それでも3人で『死神』や『鮮血同盟』に匹敵するほどじゃないだろう。そうなるとエイジを疑うのは自然の流れだ」


 『殲滅旅団』が情報を流した可能性もあるけど、ハイネルの説明は一応納得できる。


「ハイネルさん、俺に目をつけたことで太守は何か仕掛けて来るんですか?」


「勿論、これから具体的な話をするつもりだが……その前にエイジ、敬語で話すのを止めてくれないか? おまえが俺に敬意を払っているのは解るが、自分よりも強い奴に敬語を使われると気持ちが悪いんだ。名前も呼び捨てにしてくれ」


 ハイネルはカマを掛けているんじゃなくて、本気で言っているみたいだな。


「俺としてはその方が楽だけど、後で文句を言うなよ」


「ああ、この方がしっくり来る。最初に会ったときから思っていたが、おまえは年下って感じがあまりしないからな」


 転生者である俺の感覚的には前世で死んだ29歳のままだ。ハイネルとはまだ大して話もしていないのに鋭いな。


「太守が仕掛けて来る可能性があることは幾つかある。まずは懸賞金を掛けてエイジの情報を集めること。これに関してはおまえが犯罪を犯していなければ大した問題じゃない。『死神』や『鮮血同盟』のことは証拠がないから問題にならないだろう」


 証拠を集めようとしても『殲滅旅団』の証言が得られるくらいで、それだけで俺の罪を問うことはできない。


「次に考えられることは、太守がエイジを手駒として勧誘することだ。俺たち『青き稲妻』や『殲滅旅団』も声を掛けられて、戦争が起きたときは太守の召集に応じる契約を結んでいる。一度太守と関係を持つと他にも色々と依頼されることになる」


「戦争に駆り出されるのは勘弁だな。断ったらどうなるんだ?」


「脅すつもりはないが、もし勧誘を断れば、太守を敵に回すことになる。クランベルクの衛兵に冒険者ギルド、大半の冒険者が敵に回って、おまえとおまえの知り合いは完全に孤立する。胸糞の悪い嫌がらせを受けて、反抗すればそれを証拠に罪に問われることになるだろう」


「そのときはハイネルも敵に回るってことか?」


「そんなことにはなりたくないが……太守が決して許さないだろう」


 ハイネルが心苦しそうに言う。クランベルク最強の冒険者も権力には勝てないってことか。『殲滅旅団』を相手にするのも面倒だったけど、太守が相手になると完全に逃げ道を塞がれるってことか。


 正直ムカつくから、向こうから仕掛けて来るなら相手になる。太守と敵対しても『ラストダンジョン』から出なければ問題ないからな。だけどローズたちや、ましてやシーダたちはそういう訳にいかないだろう。


「ハイネル、情報を持って来てくれて助かった。俺は今から行方不明になるよ」


「行方不明って……どうするつもりだ?」


「太守に勧誘されなければ、敵に回すこともないだろう。俺はクランベルクを離れることにするよ」


 本当は『ラストダンジョン』から出ないだけの話だけど、嘘は言っていないだろう。


「そうか……太守と契約したくないなら確かに賢明な判断だ。エイジのような強者がいなくなるのは残念だが仕方ない。クランベルクに残る『天元突破』や他の知り合いのことは、おまえが姿を消せば太守も固執しないと思うが、もし何かあれば俺が力になろう」


「そうしてくれると助かるよ。だけどどうしてそこまでしてくれるんだ?」


「冒険者として頑張っている奴を、同じ冒険者として応援したいと思うのは当然だろう? 俺にできることは限られるが、できるだけのことはしたいと思う」


 適当なことを言っているって感じじゃないし、ハイネルって良い奴だな。サラが認めている理由が解った気がするよ。


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