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39話:冒険者の日常


 結局、シーダたちは第3支部に移籍することになった。あとは両方の支部に必要な書類を提出すれば正式に移籍が完了する。


 シーダたちとローズたちは年齢がそれほど離れていないこともあって、直ぐに打ち解けた。レベル差があるから最初はシーダたちが恐縮していたけど、ローズたちはそんなことを気にするような性格じゃないからな。


「へー……あんたたちもダンジョンでエイジに助けられたんだ?」


「ローズさん、そうなんですよ! オークと戦っているときにカイルが大怪我をして、パーティーが全滅するかも知れないってところに、エイジさんが駆けつけてくれたんです!」


「私たちも『死神(グリムリーパー)』に襲われて正直もうダメかも知れないって思ったときに、エイジが駆けつけてくれたわ。エイジには幾ら感謝しても感謝しきれないくらいよ」


「その気持ち解ります! その上エイジさんは助けたことを恩に着せることもなく、お礼も要らないって言ったんですよ!」


「シーダ、礼なら酒を奢って貰っただろう。それで十分だよ」


 シーダたちが泊っている『踊るアヒル亭』を訪れた翌週、俺は約束通りにカイルの金で奢って貰った。


「シーダ、エイジはこういう奴よ。エイジに感謝しているなら、助けて貰った命を無駄にしたないために頑張るしかないわ」


 ラウルとサラを含めた全員が頷く。話のネタにされるのは仕方ないけど、むず痒いから止めて欲しい。


「ローズさんたちは11階層を攻略しているんですよね? 『天元突破』は若手トップクラスだって第2支部でも話を聞いていましたが、10階層を攻略したなんて凄いですよ!」


「私たちなりに頑張っているつもりだけど、エイジと比べたらまだまだよ」


「エイジは今でもソロで攻略を進めているんだよな? 何階層を攻略しているんだ?」


 ダルクが何気ない感じで訊く。ローズたちに訊かれれば素直に答えるけど、何も知らないダルクに本当のことを言っても混乱するだけだろう。


「まあそれなりに攻略は進んでいるよ」


「何だよ教えてくれないのか? ローズたちを助けたって話だし、エイジも11階層を攻略してるんだろう?」


「ダルク、詮索するのはマナー違反よ。それにローズさんを呼び捨てにするなんて……」


「シーダ、構わないわ。あんたたちとそんなに年が変わらないんだし、みんなも私のことは呼び捨てにして」


 こう言われても、自分よりも明らかにレベルが高い相手を呼び捨てにするのはダルクくらいだろう。


「そう言えばエイジ、俺たちもパーティーの名前を決めたんだぜ。第2支部の連中には馬鹿にされるから言っていないけど、『蒼穹(そうきゅう)』って言うんだぜ。どうだ、カッコイイだろう!」


 ダルクは本当にマイペースだな。シーダたちが恥ずかしそうにしている。


「へー……『蒼穹』か。良い名前じゃない!」


「そうだろう! さすがはローズ、話が解るな!」


 シーダたちの反応を見るとダルクが決めたみたいだけど、その割にそこまで中二病臭い名前じゃないか? いや俺もオタクだから感覚がズレているのかも知れないな。


「それにしても、どの料理も本当に美味しいですね。どこのお店でテイクアウトしたんですか?」


「嬉しいことを言ってくれるわね。一応私が作ったのよ」


「え……サラさんが全部? 冒険者なのに自分で料理までするんですか?」


 シーダの素直な反応にサラも満更じゃない感じだ。


「普段は朝食くらいだけど外食ばかりだと栄養が偏るから、時間があるときは作るようにしているわ」


「サラのおかげで私とラウルは助かっているわ。私は料理なんて全然できないから」


「そうですよね。栄養のことを考えると自炊した方が良いのは解っているんですが……私たちは宿屋暮らしだからキッチンもないですし」


「無理にすることはないけど、本当に自炊したいならやりようはあるわ。宿屋に許可を貰って外で料理するとか、野菜を買って来てサラダを作ったり、パンに挟んで食べるだけでも違うわよ」


「なるほど……サラさん、私も少しずつ自炊を初めて見ます」


 シーダが嬉しそうだ。『蒼穹』に女の子はシーダ1人だから、こういう話をする機会はなかなかないんだろう。


 俺としても如何(いか)にも日常的な会話を聞く機会があまりないから、なんだかホッコリする。


 ダルクと弓使い(アーチャー)のカイルから戦い方について訊かれて、ローズとラウルが答えている。ローズたちの戦い方はカイルたちにも参考になるだろう。


「あの……これも詮索することになるので、嫌なら答えなくて構いません。結局エイジさんのクラスって何なんですか?」


 魔術士(メイジ)のフォックスが話し掛けて来る。そう言えば最初に会ったときもフォックスは俺のクラスが気になるみたいだったな。


「詳しいことは言えないけど、俺は只の魔術士じゃない。戦闘(コンバット)スキルも習得しているよ」


 サブクラスのことは女神の禁則事項に触れるみたいだだけど、これくらいのことを話す分には問題ないだろう。


「やっぱりそうですよね……教えてくれてありがとうございました」


 3階層を攻略しているシーダたちは今5~7レベルくらいだろう。以前と比べれば強くなったけど、相手にする魔物も強くなったから油断したら即全滅に繋がる。


「『蒼穹』のみんな、余計なお世話かも知れないけど聞いてくれないか」


 シーダたちが俺に注目する。


「みんなも解っていると思うけど、自分が強くなったと思ったときが一番危ないんだ。これからも安全マージンを十分に取って慎重に行動してくれよ」


「エイジさん、余計なお世話だなんて思いませんよ。慎重に行動することの大切さは、エイジさんに助けて貰ったときに良く解りましたから」


「エイジが俺たちのことを考えて言っていることくらい解っているぜ。3階層の攻略を始めたくらいで己惚れるなってことだろう」


「そうね。私たちも油断だけはしないように気をつけるわ」


 ローズの言葉にラウルとサラが頷く。俺が情報を渡してからローズたちがダンジョンを攻略するペースは確実に早くなった。経験増幅アイテムの効果もあって、レベルアップのペースはさらに早い。だけど急に強くなったことで気を抜けば命取りになる。


 このとき、ローズたちの家の呼び鈴が鳴る。俺は用心のために『索敵(サーチ)』を発動しているから、門の前に1人いることが解る。


「他に客なんか呼んでいねえぜ」


 ラウルが警戒しながら壁に掛けてあった大剣を手にする。ローズとサラもそれぞれ武器に手を伸ばす。時間は午後8時頃。呼んでもいないのに、こんな時間に客が来たら警戒するのは当然だろう。


 ラウルが門の見える窓から外の様子を窺う。戦士(ウォリアー)盗賊(シーフ)のマルチクラスのラウルは夜目が利くからな。


「おい、冗談だろう……なんで『青き稲妻(ブルーライトニング)』のハイネルがうちに来るんだ?」


 俺も窓から外を見ると、私服姿のハイネル・ブラッドホークが門の前にいた。



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