38話:ダンジョン攻略の日々
その日のうちにシーダに『念話の指輪』で連絡して、とりあえず問題は解決したとだけ伝える。
『エイジさん、今回も本当にありがとうございました』
シーダからの返事は礼の一言だけ。短い返事だからこそ、色々と察しているんじゃないかと思う。
「あんたの情報で襲撃を未然に防ぐことができた。だけど仕掛けてきたのはライゾウと『殲滅旅団』に所属する『鮮血同盟』の連中だ。奴らの責任をどう取るつもりだ?」
ブルーム通りにある『灰色フクロウ亭』という酒場のVIPルームで、俺はギジェットに会っている。煌びやかな調度品が並ぶ豪華な部屋はギジェットの趣味か。
「私たちが始末することもできたけど、問題ないと思ったからエイジに任せたのよ。全部お膳立てしたんだから文句はないわよね?」
『殲滅旅団』に所属する冒険者を幹部であるギジェットが始末したら、『殲滅旅団』という組織の求心力が弱まるし、自分たちの戦力を削ることにもなる。俺に恩を売ると同時に、上手く俺を利用したってところか。
「まさかあんたがライゾウを嗾けたんじゃないよな?」
ギジェットは自分が役に立つことを証明すると言った。そのためにライゾウを使った可能性も考えられる。
「そんな筈がないでしょう。私はエイジを敵に回すつもりはないわ。それより……ライゾウと『鮮血同盟』の連中の死体が残っていないのはどういうこと? 倉庫もほとんど無傷だった。貴方は何をしたの?」
『ラストダンジョン』の冒険者が攻略している階層から予想していたけど、クランベルクの街に第9階梯魔法を使える奴はいないみたいだな。
「それは企業秘密だ。ギジェット、あんたの言い分は解った。『殲滅旅団』がこれ以上俺の周りの人間に関わらないなら、今回の件はこれでお終いだ」
「エイジが私と手を組む件はどうなの?」
「そのときの状況次第だな。あんたがやることに納得できたら報酬次第で手を貸してやる」
「解ったわ……エイジ、期待しているわよ」
『殲滅旅団』の戦力を削ぐことができたし、俺の知り合いに手を出したらどうなるか警告することにもなった。
※ ※ ※ ※
それからしばらくの間、俺はクランベルクの街に行かずに『ラストダンジョン』の攻略に集中することにした。接触して来る他の支部の冒険者の相手をするのは面倒だし、現場を見られていないとはいえ、『青き稲妻』のハイネルは俺がやったことに気づいている。
ローズたちに用があるときは制作室で会えばいいし、ほとぼりが冷めるまで『ラストダンジョン』から出なくても問題ないだろう。
俺は『試練の塔』全50階層の攻略を終えて『ラストダンジョン』本体の攻略を始めた。『試練の塔』を攻略した時点でレベルは100を余裕で超えて、4つ目のサブクラスを選択したことで俺のステータスはさらに跳ね上がった。
階層を全部踏破すると時間が掛かり過ぎるから、『ラストダンジョン』本体は安全マージンをギリギリ確保できる階層まで最短ルートで突破した。
俺の目的は魔物の暴走を止めることだから、魔物を多く倒してダンジョンコアの魔力を魔物の補充に使わせることには意味がある。だけど下の階層の魔物ほど強くて補充するのに必要な魔力も多いから、できるだけ先に進むことは正解だろう。
「さすがにこの階層まで来ると、えげつない攻撃をする魔物ばかりだな」
青い空の下に広がる廃墟のような街を駆け抜けながら魔物を仕留めて行く。屋外のように見えるけど、ここはダンジョンの中だ。『ラストダンジョン』は50階層を超えると様子が一変する。もう半月以上も広い空間で戦っているから慣れたけど。
敵は天鵞絨のローブを纏うハイエルダーリッチ4体と始祖ヴァンパイアロード5体。ハイエルダーリッチは第9階梯魔法まで使うし、始祖ヴァンパイアロードは物理攻撃のダメージが大きい上に、毒と石化にレベルドレインの付帯効果まである。
さらにどちらも魔力耐性が高過ぎて大抵の魔法は効かない。だけど問題ない。俺の魔法スキルレベルと知力なら魔法でゴリ押しするのもアリだけど、この数なら物理攻撃だけで仕留められる。
魔物たちの間を駆け抜けながら2本の剣で仕留めていく。範囲攻撃魔法を全部躱すのは無理だけど、暗黒騎士の固有能力『エナジードレイン』によって、俺が受けるダメージよりも回復するHPの方が多い。
ちなみに最下層はラスボスの居城という設定だから、フィールド型から迷宮型の階層に戻るんだよ。
※ ※ ※ ※
「みんな、いらっしゃい。遠慮しないで中に入って」
この日、俺は久しぶりにクランベルクの街にやって来て、シーダたちを連れてローズたちの家を訪れた。
ローズたちはライゾウの件にシーダたちを巻き込んだことを気にしていた。原因を作ったのは俺だけど気にする気持ちは解る。だったら直接会って一度話をしないかと俺がセッティングした。
巻き込んだことを謝るなら、俺たちの方からシーダたちのところに出向くのが筋だ。だけどシーダたちは宿屋暮らしでプライベートな話をする場所がない。酒場の個室を予約することも考えたけど、それなら家に招きたいとローズたちが言って来た。
リビングダイニングに行くと、この前来たときはなかった追加のテーブルと椅子が用意されていた。全部で8人だけど部屋が広いから窮屈な感じはしない。
「家はそれなりに広いが、中は意外と普通なんだな」
「ダルク、失礼でしょう! みなさん、ごめんなさい」
空気を読まないダルクの発言に、シーダが平謝りする。
「別に気にすることないわ、普通なのは本当だから。庭が広いから鍛錬や模擬戦ができるのは便利よ」
「ホント、凄いですね……私たちは冒険者ギルドに居場所がないから、鍛錬する場所にも困っているんですよ」
シーダたちは『殲滅旅団』の下部組織に誘われて断ったらハブられている状態だ。
「その話だけど、『殲滅旅団』に話をつけたから第3支部に移籍する気はないか?」
ギジェットと話をしたときに、今回狙われたシーダたちのことも当然話している。『殲滅旅団』の戦力として必要な訳じゃないし状況が状況だから、ギジェットは移籍することをアッサリ承諾した。
「え……本当に良いんですか? 第3支部と第2支部は仲が悪いから、私たちが移籍したらみなさんに迷惑が掛かるんじゃ……」
「そんなことを気にする必要はないわ。文句を言う人がいたら私たちが黙らせるから」
サラがシーダたちを安心させるように言う。
「それと最初に言うべきだったわね。今回の件に貴方たちを巻き込んでしまって、本当にごめんなさい」
「エイジが未然に防いだけど、一歩間違えれば危ないところだったわ。私にも謝らせて」
「もう『殲滅旅団』の奴らが狙うことはないと思うが、巻き込んで悪かったぜ」
サラ、ローズ、ラウルの3人が頭を下げる。
「そ、そんな……頭を上げてください! みなさんが謝ることじゃないですよ!」
「エイジも何か言ってくれ! 悪いのは『殲滅旅団』の連中だろう!」
シーダだけじゃなくて、ダルクを含めた全員が恐縮して慌てている。
「シーダたちが襲われる原因を作ったのは俺だ。だから俺にも謝らせてくれ。本当に悪かったな」
「エイジさんまで、何を言っているんですか! 結局今回もエイジさんが助けてくたんですよね? お礼を言うのはこっちの方ですよ!」
「そうだぜ、エイジ。ホント、勘弁してくれ! そんなに謝られたら居心地が悪いぜ!」
シーダたちが本当に気まずそうにしていたので、この話はこれで終わりにした。




