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37話:報復


※三人称視点※


「てめえら……解っているだろうが、絶対にしくじるんじゃねえぞ!」


 ライゾウたちがいるのはクランベルクの街外れにある空き倉庫。どういう訳か、ギジェットがライゾウの軟禁を解いたのは2日前のことだ。


 ようやく蘇生させたブライたちの精神をへし折るために、自分の存在が邪魔だから追い出したのだろうと、ライゾウは自分の都合の良いように解釈した。


 この倉庫にはライゾウと『鮮血同盟』のメンバー8人がいる。『鮮血同盟』は11階層を攻略している冒険者の中で特にレベルが高い訳じゃないが、人数が多いことで幅を利かせている。


「ライゾウさん、拉致するのはまだ冒険者になって数ヶ月のガキだぜ。他に『踊るアヒル亭』にいるのは同程度の冒険者と一般人だ。俺たちがしくじる筈がねえだろう?」


 『鮮血同盟』の計画はシンプルで、真夜中に覆面を被って『踊るアヒル亭』を襲撃してシーダたちを攫って来る。シーダたちが泊っている部屋は事前に調べてある。


 騒ぎになればクランベルクの衛兵がやって来るだろうが、そこらにいる衛兵が『鮮血同盟』に敵う筈もない。この倉庫までシーダたちを運ぶだけの簡単な仕事だ。


「だが油断するんじゃねえぞ……エイジの奴も見た目はガキだが、ふざけた実力を持っていやがった」


「エイジが第2支部に乗り込んで来たとき、俺たちもいたからそれは解っているぜ。だがライゾウさん、拉致するガキどもがエイジの知り合いってだけで、そこまで警戒する必要はねえだろう。そんなことより、約束の報酬はキッチリ払ってくれよ」


 『鮮血同盟』が『死神(グリムリーパー)』の指示で犯罪行為の片棒を担ぐのはいつものことだ。『鮮血同盟』のメンバーたちはライゾウを恐れているが、同時に上客だと思っている。毎回高額の報酬を払うし、たまにおこぼれ(・・・・)に預かれるからだ。


 今回の依頼はシーダたちを拉致すること。つまり殺しさえしなければ、何をしても構わないということだ。


※ ※ ※ ※


 灰色の外套を着た冒険者の案内で、街外れの倉庫街に向かう。時間は午後8時を過ぎた頃だから、繁華街ならまだ人通りが多い。


 だけど街外れだと様子が違う。こんな時間に倉庫街に用がある奴なんて、それこそ犯罪者くらいだろう。


 倉庫街に着くと別の冒険者が俺たちを待っていた。『鮮血同盟』の監視役ってところだろう。


「一番奥の7番倉庫にライゾウと『鮮血同盟』が潜伏している。ギジェットさんからの言伝(ことづて)だが、騒ぎが起きてもしばらく衛兵が来ない手筈になっているから、奴らのことは好きにして構わないそうだ」


 ライゾウがいることは聞いていなかったけど、ギジェットが役に立つことを証明するって言っていたから、ライゾウと『鮮血同盟』を見限ったってことか。


 シーダたちを襲撃するなら殺す理由としては十分だろう。これがギジェットの罠で、ライゾウを殺した瞬間にクランベルクの衛兵が踏み込んで来る可能性もある。


 魔術士第2階梯魔法『索敵(サーチ)』で周囲を探る。魔法スキルのレベルとステータスが上がると『索敵(サーチ)』の効果範囲も広がる。今の俺の『索敵(サーチ)』に反応するのは半径200m程度。ダンジョンなら十分だけど野外だと心もとないな。


 とりあえずライゾウたちがいるという倉庫以外に反応はない。


「ここからは俺1人で行くよ。ギジェットの罠だって可能性があるし、ハイネルさんには悪いですが、これから俺がやることを見せる訳にいきませんから」


 俺1人なら罪に問われたとしても、クランベルクの街に来なければ済むだけの話だ。 ハイネルに見せないのは弱みを握られないためだ。俺はそこまでハイネルを信用していない。


 ハイネルの証言だけじゃ俺の罪を問うのは難しいけど、『青き稲妻(ブルーライトニング)』のリーダーの発言力がクランベルクの領主を動かす可能性はある。だけど現場さえ見られなければ、ハイネルが証言したとしても状況証拠にしかならない。

 

「エイジ、おまえが言いたいことは解る。だが『鮮血同盟』が8人いるってことは知っているのか? 『死神』と比べれば格が落ちるが、仮にも11階層を攻略している冒険者だ」


 そこまで言ってからハイネルは違和感を覚えたみたいだ。ローズたちが俺を止めようとしないことに。


「つまりエイジの実力なら問題ないってことか……じゃあ止める理由はない。エイジ、おまえが『鮮血同盟』をどう料理するか見れないのは残念だが、ここで大人しく待つことにする」


 ハイネルが一緒ならローズたちが共犯と疑われることはないだろう。俺はライゾウたちがいる7番倉庫に向かう。


 入口の扉の鍵は掛かっていない。こういうところも脇が甘いな。別に隠れる必要もないから普通に扉を開ける。錆びた扉が軋むような大きな音を立てる。


「おい、そこにいるのは誰だ!」


 倉庫の奥の光が灯っている場所にライゾウと『鮮血同盟』がいる。俺のところまで光が届いていないから、姿がはっきりと見えていないんだろう。


「ライゾウ、今度はシーダたちをどうするつもりだ?」


「その声は……エイジ! てめえ、どうやってここを嗅ぎつけやがった!」


 ギジェットに嵌められた可能性を考えないのか? ライゾウは完全な脳筋って訳じゃないけど、自分の都合の良いように考えるから平気で犯罪に走るんだろう。


 『鮮血同盟』の盗賊系クラス2人が真っ先に動く。俺は情報屋を使って『殲滅旅団』のことを詳しく調べて、制作室(エディットルーム)の映像で『鮮血同盟』がダンジョンを攻略する様子を見ているから、こいつらの戦力は大よそ把握している。


 『潜伏(ハイド)』を発動した盗賊系クラス2人が音もなく忍び寄って来る。いきなり魔法を撃たないのは、ここで騒ぎを起こすのは不味いと思っているからだろう。


「質問しているのは俺だ。ライゾウ、シーダたちをどうするつもりだ?」


「そんなの決まっているだろう。てめえに復讐する道具として使うためだぜ!」


 言質を取ったからもう十分だろう。『潜伏(ハイド)』を発動した2人が目の前に迫る。姿が見えなくても『索敵(サーチ)』には反応するからな。『鮮血同盟』の奴らはローズたちを襲ったことにも加担しているから容赦しない。


「『混沌の渦(ケイオスボルテックス)』!」


 魔術士第9階梯魔法の漆黒の渦が倉庫全体に広がって、ライゾウと『鮮血同盟』全員を飲み込む。渦が消えるとライゾウたちは跡形もなく消滅していた。これなら蘇生させることもできないだろう。


「みんな、終わったよ。これで問題ない」


「え……もう終わったのか?」


 倉庫を出るとローズたちが唖然とする。倉庫に入ってからまだ数分しか経っていないし、中で起きたことは外から見えないからな。何かを察したハイネルが倉庫に駆け込む。


「……これはどういうことだ?」


 開け放たれた扉から見える倉庫の中は当然もぬけの殻だ。


「ライゾウたちが俺にビビって逃げたんですよ。クランベルクの街にはもう戻って来ないと思います」


 勿論嘘だってことはバレているだろう。だけどハイネルと俺たちを案内した冒険者たちは何も言わない。


「みんな、帰ろうか」


 俺たちは倉庫街を離れる。騒ぎが起きなかったから衛兵がやって来ることはなく、ギジェットの言伝が本当だったか確かめることはできなかった。



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