36話:企みと思惑
『青き稲妻』のリーダー、ハイネル・ブラッドホークはこっちを見ると俺たちの方にやって来る。
ハイネルが気づいたのは俺じゃなくてローズたち『天元突破』だろう。俺の噂は色々と流れているみたいけど、俺個人が特定された訳じゃないからな。
「ローズ、ラウル、サラ、久しぶりだな。おまえたちは『死神』を返り討ちして『殲滅旅団』に乗り込んだらしいが、いつからそんなに腕を上げたんだ?」
「冒険者ギルド第2支部に乗り込んだのは本当ですが、噂の大半は私たち『天元突破』がやったことじゃありませんよ」
サラが敬語を使うなんて、メイに立ち合いを頼んだときしか聞いたことがない。サラはハイネルのことを認めているってことか。
「つまりエイジって奴が『死神』のライゾウを倒して、『殲滅旅団』と話をつけたってのは本当なんだな?」
俺とアッシュが戦ったことが噂になっていないのは、あのとき第2支部は密室状態だったし、『殲滅旅団』が口止めしてからだろう。
「それで、おまえが噂のエイジか?」
ローズたちと一緒にいるから見当はつくだろう。ハイネルは観察するように俺を見る。先入観なしで俺を見定めようとしている感じだ。
「なるぼと……ライゾウを倒したってのは眉唾じゃないようだな。おまえから強者の匂いがプンプンする」
ハイネルの言葉を話半分に聞く。見ただけで相手の実力を見抜くのは難しいからな。初心者とそれなりに経験を積んだ冒険者なら、身体つきや身のこなしである程度判断できる。だけど一定レベル以上になると、装備以外に判断する材料がない。
俺の装備は全部『試練の塔』のドロップアイテムだけど、俺の装備がドロップする階層まで攻略を進めた冒険者は他にいないだろう。だったらハイネルはどこで俺を強者だと判断したんだ?
「俺が適当なことを言っているって思っている顔だな?」
「そこまで言うつもりはないですが、俺は見ただけじゃ相手の実力を測れませんから」
「偉そうなことを言うつもりはないが、こいつは経験の差だ。おまえも色んな奴と戦いを重ねていくうちに嗅ぎ分けられるようになる」
ハイネルと比べれば期間としては短いけど、俺もそれなりの戦闘経験がある。特に如月エイジの記憶が戻ってからは、短期間で物凄い数の戦闘を繰り返している。
ハイネルが言うことが本当なら、そういう感覚が解らないのは『ラストダンジョン』を知り尽くしていることと、制作室の映像で相手が攻略している階層と戦いぶりから強さを判断している影響か? 他に判断できる材料があるから感覚が育たないって理屈なら理解できる。
「ハイネルさんが来た目的は、俺を品定めするためですか?」
「まあ、それもあるが……エイジ、変な誤解はするな。おまえの家族はクランベルクにいるのか?」
「何でそんなことを訊くんですか?」
思わずハイネルを睨みつける。ローズたちも警戒心全開でハイネルを見る。
「だから誤解するなって言っただろう。俺はおまえたちと敵対するつもりはない。エイジのことを『殲滅旅団』が嗅ぎ回っているから耳に入れておいた方が良いと思ったんだ」
ギジェットは役に立つことを証明すると言ったけど、『殲滅旅団』自体は俺のことを警戒しているだろう。情報を集めるために動くことは当然予想していた。
「問題は動いているのが『鮮血同盟』ってことだ。奴らは『死神』と連んで犯罪紛いのことをして来た連中だ。『天元突破』なら『鮮血同盟』相手でも十分渡り合えるだろうが、他に知り合いがいるなら警戒しておいた方が良い」
ローズたちが『死神』に襲われたときに『鮮血同盟』が11階層を封鎖していたことは、メイが制作室の映像で奴らの顔を見ていたから調べがついている。
クランベルクの街にいる俺の知り合いと言えば、ローズたち以外はシーダたち駆け出し冒険者パーティーくらいだ。シーダたちもレベルが上がって、今は3階層を攻略しているけど、『鮮血同盟』が相手じゃ一溜りもないだろう。
「エイジ……」
ローズが俺の方を見る。第2支部に知り合いがいるって話したことを憶えているんだろう。俺は『念話の指輪』でシーダに念話を送る。
『シーダ、今どこにいる?』
『いつもの『踊るアヒル亭』ですが……エイジさんが連絡をくれるなんて、もしかして『殲滅旅団』とまた何かあったんですか?』
俺たちが『殲滅旅団』と揉めたことはシーダたちにも伝えて、何かあれば直ぐに連絡するように念を押しておいた。今回の件にシーダたちが巻き込まれる可能性があることを俺も想定していたからだ。
『『鮮血同盟』が俺の周りを嗅ぎ回っているから、シーダたちのところに行くかも知れない。奴らが何をするか解らないから当面の間は警戒して、夜は宿屋から出ないようにしてくれ』
『『鮮血同盟』って……解りました。ダルクたちにも勝手に出歩くなって言っておきます』
シーダたちは第2支部に所属しているから『鮮血同盟』の実力が解っているんだろう。さすがに『鮮血同盟』の奴らも人目が多いところじゃ襲って来ない筈だ。
クランベルクの街から『ラストダンジョン』までの道のりは、昼間移動する分には他の冒険者がたくさんいるし、シーダたちが攻略している3階層も攻略している冒険者の数が多い。
このタイミングで別の冒険者がギルドに入って来る。灰色の外套を着た冒険者は、真っ直ぐに俺たちのテーブルに向かって来たけど、ハイネルの姿を見て動きを止める。俺たちに用があるみたいだから、席を立って冒険者の方に向かう。
「おまえがエイジか? ギジェットさんからの言伝だ。今夜『踊るアヒル亭』が襲撃される。襲撃者の居場所は解っているから、俺が案内するように言われている」
完全に動きを掴まれている『鮮血同盟』の脇が甘いのか、クランベルクでトップクラスの実力を持つハイネルやギジェットの情報網が凄いのか。
「ハイネルさん、忠告してくれてありがとう。俺は用ができたから、これから出掛けて来るよ」
「エイジ、用って『鮮血同盟』絡みよね? 私たちも一緒に行くに決まっているじゃない!」
ローズの言葉にサラとラウルが頷く。ローズたちはシーダたちと面識がないけど、自分たちのせいで巻き込んだと思っているんだろう。
「俺もついて行く。面白いモノが見られそうだからな」
ハイネルが気楽そうに言う。クランベルク最強のパーティー『青き稲妻』のリーダーは随分と腰が軽いみたいだな。
「ハイネルさん、解っていると思いますが……」
「ああ、俺は一切手出ししない。『青き稲妻』の名に誓う」
サラの方を見ると頷く。ハイネルは評判も悪くないし、とりあえず信用して良さそうだな。ハイネルまで一緒に来ることに外套を着た冒険者が驚いているけど、余計なことで時間を潰すつもりはないから無視する。
「じゃあ、案内してくれ」
俺たちが冒険者ギルドを出ようとすると、中にいた他の支部の冒険者たちが立ち上る。何かあったことは明白だから、情報を探るためについて来るつもりか。
「おまえたちは邪魔だからついて来るなよ。ブルーノと同じ目に遭いたいのか?」
俺が一睨みすると、冒険者たちは青い顔で動きを止める。ブルーノの腕を握り潰したことが効いているんだろう。
「エイジ、なかなかの迫力だ。おまえたちは引っ込んでいろ。邪魔立てするなら俺も相手になる」
『青き稲妻』のハイネルに逆らおうとする冒険者はいなかった。




