35話:後始末
『最近は私たちも冒険者ギルドに行っていなかったから知らなかったけど、他の冒険者ギルト支部の奴らがエイジと私たちのことを嗅ぎ回っているみたいよ。
『鉄壁』の連中が自分の尻は自分でふけって文句を言っていたけど、エイジが気にすることないわ』
数日後、ローズから『念話の指輪』で連絡が来た。別の支部の冒険者が第3支部に度々来るようになって、俺のことを捜しているらしい。
十中八九俺たちが『死神』を返り討ちにして、第2支部に乗り込んだことが原因だな。『殲滅旅団』が口外しないとしても、あれだけ派手にやったんだから噂が広まるのは当然だろう。
ちなみに『鉄壁』は第3支部で一番レベルが高い冒険者のパーティーで、これまでは我関せずって感じで俺やローズたちに干渉して来なかった。
『鉄壁』は何日も泊まり掛けでダンジョンを攻略しているから、そもそも顔を合わせること自体滅多にない。今回のことも文句を言っているだけなら、次に会ったときに一言言っておけば良いだろう。
ローズたちと情報交換するだけなら制作室で会えば冒険者ギルドに行く必要はない。だけど俺が顔を出さないとローズたちに迷惑が掛かるし、俺は逃げも隠れもするつもりはないからな。
『とりあえず、今夜冒険者ギルドに行ってみるよ』
『じゃあ私たちも行くわ。エイジ、一緒に夕ご飯を食べない?』
メイに夕飯を食べてから帰ると連絡して、ダンジョンの攻略を再開する。
夕方まで攻略を続けて、クランベルクの街に向かう。冒険者ギルドに着くと、いつもと雰囲気が違った。
まずは知らない顔の冒険者が10人ほど。そいつらを気にして、他の冒険者たちの空気もピリピリしている。
「エイジ、こっちよ!」
ラウルたちとテーブルを囲んでいるローズが声を掛けて来る。わざと名前を呼んだのは、俺がどうするつもりか解っているからだろう。
「おまえがエイジか? 若いって聞いていたが、まだガキじゃねえか」
ローズたちのテーブルに向かうと、隣のテーブルの知らない顔の冒険者に声を掛けられる。つばの広い帽子を被った20代後半の男で、装備からそれなりにレベルが高そうだ。一緒にいる2人も同じくらいのレベルか。
「あんたたちに用はないって言ったでしょう。私たちは一緒に夕ご飯を食べるの。邪魔だから消えてくれる?」
どうやら俺が来る前に、こいつらはローズたちに絡んでいたみたいだな。
「ローズ、俺はこいつに用があるんだ。おまえこそ黙っていろ」
「人に用があるなら自分から名乗れよ。俺をガキ呼ばわりする奴の話なんて聞く気はなんいけどな」
「何だと……いや、今のは俺が悪かったな。ガキ呼ばわりしたことは謝るぜ。俺はブルーノ、『銀狼』のリーダーだ。おまえたちが『死神』を返り討ちにしたってのは本当か?」
ローズたちはまだ何も話していないみたいだな。
「なんでそんなことを訊くんだ? おまえたちには関係ないだろう」
「『死神』の奴ら……いや『殲滅旅団』には俺たちも恨みがあるんだ。本当におまえたちに『死神』を倒せる実力があるなら、俺たちと手を組まないか?」
「断る。『殲滅旅団』と揉めるなら好きにすれば良いだろう」
「ああ、勘違いするな。『殲滅旅団』に恨みがあるのは俺たち『銀狼』だけじゃねえ。そいつらと手を組んで『殲滅旅団』に対抗しようって話だ」
「そんなことを冒険者ギルドで大声で話している脇の甘い奴と、手を組む奴なんて本当にいるのか?」
「何だと……こっちが下手に出ているからと図に乗りやがって!」
俺の襟首を掴もうとしたブルーノの腕を逆に掴む。
「先に手を出せしたのはそっちだからな」
手に力を入れるとブルーノが呻き声を上げる。手を離すとガントレットを嵌めていたブルーノの腕が手の形に潰れていた。
「おまえたちもやるなら相手になるけど?」
一緒にいた2人の冒険者は青い顔で首を横に振ると、蹲っていたブルーノを連れて、逃げるように冒険者ギルドを出て行く。
「ホント、エイジはどんな握力をしているのよ?」
サラが呆れた顔をする。ローズとラウルは俺なら仕方ないという感じの反応だ。夕飯を食べながらローズたちと話をする。
「あいつらだけじゃないわ。久しぶりに冒険者ギルドに来たら他の支部の冒険者たちが待ち伏せしていて、昨日から『死神』やエイジのことを散々訊かれたわ。全部無視したけど」
他にも顔を知らない冒険者がいるけど、そいつらのことだろう。俺がブルーノの腕を握り潰したからか、こっちの様子を窺うだけで声は掛けて来ない。
第3支部の冒険者たちもローズたちに『殲滅旅団』や俺のことを訊いたけど『あんたたちには関係ないでしょう?』と言われて引き下がったらしい。俺たちが『殲滅旅団』と揉めているなら、関わり合いになりたくないのが本音だろう。
そもそも俺はローズたち以外の第3支部の冒険者とあまり関りがない。突然『死神』を返り討ちにしたと噂になって、今日は絡んで来た冒険者の腕を握り潰した。そんな得体のしれない奴と関わりたいとは誰も思わないだろう。
ブルーノは俺たちと手を組みたいと言っていたけど、同じようなこと考えている冒険者は他にもいるだろう。『殲滅旅団』に対抗するために他の冒険者と手を組むつもりはないけど、真面な相手なら話を聞くくらいは構わない。
そんなことを俺が考えていると、冒険者ギルドに1人の冒険者が入って来る。その瞬間、周りの冒険者たちが騒めく。
「お、おい……あれって……」
「嘘だろう……ハイネルがどうしてこんなところに……」
青い髪と灰色の瞳の精悍な感じのイケメンで、190cmを超える長身。ルーン文字が刻まれた漆黒のフループレートを纏う姿は圧倒的な存在感がある。
「エイジ、あの男は……」
「サラ、俺だってそれくらい知っているよ。『青き稲妻』のリーダー、ハイネル・ブラッドホークだろう」
『青き稲妻』はクランベルクの冒険者のトップランナー。つまり一番深い階層を攻略しているパーティーで、当然レベルも一番高い。




