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34話:嗜虐的思考


※三人称視点※


「おい、ギジェット。どうして『完全蘇生パーフェクトリジェネーション』を使わなかった? てめえが『完全蘇生パーフェクトリジェネーション』を使えねえとは言わせねえぜ! それにブライたちを蘇生させねえのはどういうつもりだ?」


 冒険者ギルド第2支部の地下室。エイジたちが乗り込んでから3日経っているが、『死者復活(レイズデッド)』で蘇生したライゾウはまだ身体の自由が利かずに、ほとんど動くことができなかった。


 『完全蘇生パーフェクトリジェネーション』であれば直ぐに動けるようになる。だがギジェットが敢えて『死者復活(レイズデッド)』を使ったことにも、いまだ『死神(グリムリーパー)』の他の4人を蘇生しないことにも当然理由がある。


「間抜けな貴方たちのせいで『殲滅旅団』は赤っ恥を掻いたわ。これ以上ないくらいにね。戦力になると思って飼っていたけど、そろそろ潮時かも知れないわね」


 ギジェットは(あざけ)るような笑みを浮かべる。


「てめえ……俺たちを始末するつもりか?」


 ライゾウが濃密な殺意に満ちた視線を向けても、ギジェットはどこ吹く風だ。


「そんな状態で何ができるの? もっとも、貴方が完全な状態でも私に勝てないことくらい解っているわよね?」


 聖騎士(パラディン)のギジェットは『殲滅旅団』のクランマスター、オスカーのパーティーのメンバーであり、その実力は『殲滅旅団』最強の一角と言われるアッシュに引けを取らない。


「貴方たちを始末した方が『殲滅旅団』の利益になると思うけど、オスカーはまだ使うつもりみたいだから生かしておいてあげるわ。しばらく大人しくしていなさい。そのうちに『死神』の他のメンバーも蘇生してあげるから」


「ふざけるんじゃねえ……さっさとブライたちを蘇生しやがれ! 今後こそエイジの奴をぶち殺して、ローズとサラが壊れるまで――」


 ライゾウの言葉が途切れたのは、ギジェットが蹴り飛ばしたからだ。ライゾウは壁に叩きつけられて血塗れになり、憎しみに満ちた目を向ける。


「ギジェット、てめえ何しやが――」


 ギジェットはツカツカと歩いて行くと、ライゾウの顔面を踵で踏みつける。


「ホント、学習しないわね。アッシュが手も足も出なかったエイジに、『死神』が束になって掛かっても勝ている筈がないでしょう? 貴方たちが殺されるのは構わないけど、そんなことをしたらエイジを完全に敵に回すことになるわ」


 骨がきしむほど力を込める。頭が割れて血が噴き出してもお構いなしだ。


「本当にこのまま殺した方が良いみたいね。オスカーには後で私から言っておくわ」


「てめえ……冗談じゃねえぜ。俺たち『死神』の力は『殲滅旅団』も必要な筈だ?」


「エイジを敵に回すよりはマシよ。それに私が『死神』を始末したらエイジを味方に引き込めるかも知れないわ。エイジと『死神』を天秤に掛けたら、私がどっちを選ぶか……さすがにライゾウでも解るわよね?」


 ギジェットが本気なのはライゾウにも解った。ギジェットはライゾウと同じ種類の人間で、バレなければ何をしても構わないと思っている。


 ライゾウと違うのは暴力以外にもあらゆる手段を使って『殲滅旅団』の中枢まで登りつめた強かさがあることだ。


「わ、解ったぜ……ギジェット、勘弁してくれ。エイジには手を出さねえって約束する」


「エイジだけじゃなくて『天元突破』にも一切関わらないって約束しなさい。あの子たちにはそこまでの価値はないけど、『天元突破』に何かあればエイジが黙っていないわ」


 エイジはローズたちのために『殲滅旅団』に喧嘩を売った。それだけの実力があるからできたことだが、エイジの言動からローズたちと親密な関係にあることは解る。


 ローズたちを人質にしてエイジに言うことを聞かせることも考えた。だがエイジの力は底が知れない。下手なことをして竜の尻尾を踏むよりも、エイジと友好関係を築く方が得策だろう。


「チッ……仕方ねえ、ローズたちにも関わらねえぜ。これで良いだろう? さっさとブライたちを蘇生させて、俺が動けるように上位回復魔法を使いやがれ」


「ブライたちは蘇生させるわよ、『死者復活(レイズデッド)』でね。ライゾウを回復させるつもりはないわ」


「おい、どういうことだ……」


「貴方たちが本当に約束を守るか信用できないわ。だから真面(まとも)に動けるようになるまで、私が自分たちの立場を解らせてあげる。骨の髄までね……」


 ギジェットが嗜虐的(サディスティック)な笑みを浮かべる。ライゾウは同じ種類の人間だからこそ、ギジェットが考えていることが良く解った。ライゾウたちの精神がへし折れるまで痛めつけるつもりだ。


(ふざけやがって……ギジェット、てめえの思い通りには絶対(ぜってえ)にならねえからな……)


 ギジェットが立ち去った後の地下室で、ライゾウは拳を握り締める。

 監視をつけて地下室に軟禁されているが食事は与えらており、風呂やトイレなどの生活環境も整えられている。


 ギジェットに負わされたダメージも、下位の回復魔法で傷口を塞がれた。屈辱的な状況だが、今のところはライゾウを殺すつもりはないらしい。


(しばらく大人しくしていろだと……ふざけるんじゃねえ、このままコケにされたままでいられるか! エイジの奴をぶち殺す方法は何かねえのか?)


 ギジェットとの約束など口先だけで、ライゾウはエイジに復讐する気満々だ。だがギジェットにバレれば始末されることは解っている。


 『死神』全員が復活すれば、ギジェット1人が相手なら勝てる自信はあるが、ギジェットに手を出せば『殲滅旅団』を敵に回すことになる。


 それにギジェットはブライたちの精神を徹底的にへし折るつもりだ。ライゾウはともかく、他の『死神』のメンバーたちはギジェットの責めに耐えきれないだろう。こうなれば自分1人で何とかするしかない。


「おい、ここに『鮮血同盟』の奴らを呼べ!」


 ライゾウは見張り役の冒険者に命じる。『鮮血同盟』は『死神』がローズたちを襲ったときに11階層を封鎖した『殲滅旅団』に所属するパーティーの1つだ。


「ラ、ライゾウさん、そいつは無理だ。ギジェットさんに、ここには誰も入れるなと言われている」


「つべこべ言うんじゃねえ! ギジェットには黙っておけば問題ねえだろう。俺が復活したときに殺されてえのか?」


 ライゾウに殺意を向けられて、格下の冒険者は黙って従うしかなかった。しばらくすると地下室に『鮮血同盟』のリーダーがやって来る。


「ライゾウさん、今は下手に動かねえ方が……」


「うるせえ……報酬は言い値で払ってやるから、親兄弟から知り合いまでエイジと関係ある奴を根こそぎ調べて来い! そいつらのガラを押さえて、エイジの前でなぶり殺してやるぜ!」


 ライゾウを突き動かすのは理屈ではなく、どす黒い復讐心だった。



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