33話:メイの実力
「その人が……人じゃなくてメイドゴーレムだったわね。とにかくエイジより強いって本当なの?」
「勿論、本当だ。俺が強くなれたのは、メイが立ち合いにつき合ってくれたおかげでもあるんだ。格上の相手と常に戦えるのは大きいからな」
「エイジ君も少しは戦えるようになったけど、私に言わせればまだまだね」
メイがドヤ顔をする。こういうところはマジでウザいんだけど。
「ローズたちが強くなるためにもう1つ提案があるんだ。制作室に一度来たから次からは『転移』で来られるだろう。これからは定期的にここに来てメイと立ち合いをしないか? 後衛クラスのサラだって自衛のために鍛えて貰うメリットはあるだろう」
勿論メイには事前に相談して了承して貰っている。
「エイジ君、私を只のお世話係呼ばわりした人たちを鍛える理由がないわ」
いや話が違うだろう。メイは完全にへそを曲げているな。
「エイジ、こっちだってお断りよ。その人……メイがエイジよりも強いなんて、とても信じられないわ」
メイの見た目は水色の髪で睫毛が長いパッチリメイクのギャル。年齢も10代半ばと俺やローズよりも年下に見える。コスプレっぽいメイド服を着ているし、全然強そうには見えないからな。
「メイ、これから立ち合いをしないか? ローズたちにメイの実力を教えるのも悪くないだろう」
「そうね。エイジ君は随分と彼女たちの肩を持っているみたいだから……今日は少し手加減できないかもね。『拡張空間』!」
突然空間が広がったことにローズたちが驚く。体育館ほどの大きさになった制作室の中央で俺とメイは対峙する。
『収納庫』から3本の剣を出す。1本はメイがいつも立ち合いで使っているモノだ。
「今日はちょっと本気を出すから剣は要らないわ」
「……了解」
俺が死なない程度にしてくれよ。メイの剣を『収納庫』に戻して、2本の剣を構える。
「エイジ君、全力で掛かって来なさい」
「ああ、解っているよ」
全力で加速して間合いを詰めると同時に2本の剣を振り抜くと、メイはまるで瞬間移動したように視界から消えた。次の瞬間、背後からの衝撃。メイに殴られた俺は弾き飛ばされて、横向きに壁に叩きつけられる。砕けた壁の中に身体がめり込む。
「エイジ君、早く動かないと敵は待ってくれないわよ」
メイの容赦ない追い打ちで俺のHPは瞬く前にゼロになる。血を流し過ぎて意識が朦朧とする。これがメイのちょっとの本気か……
「エイジ!」
ローズたちが慌てて駆け寄って来る。
「その必要はないわ。『完全治癒』!」
メイが魔法を発動するとHPが全回復して生身の傷も消える。血や肉まで完全に回復するのがメイの魔法の凄いところだ。
「回復手段がなかったら立ち合いなんてしないわ。エイジ君を殺しちゃうもの」
「だからって、ここまでしなくても……」
ローズとサラがメイを睨む。
「2人とも良いんだ。俺としては少しでも本気を出したメイと戦えて良い経験になったよ。いつもはもっと手加減してくれるから少しは勝負になるんだけど、どうやら最近の俺は己惚れていたみたいだな」
平然と言う俺にローズたちが唖然とする。
「メイは相手の実力に合わせて、頑張ればギリギリ手が届く程度に手加減してくれるんだ。必死になってメイの攻撃を躱したり、絶対に1撃を入れやろうと試行錯誤することで強くなれる。まだまだ俺じゃメイに全然敵わないことが今日の立ち合いで良く解ったよ」
「当然よ。エイジ君は『試練の塔』の最下層すら攻略できていないんだから」
『試練の塔』は全部で50階層ある。最下層を攻略する頃には100レベルを超えているだろう。だけどメイの実力はそんなレベルじゃないってことだな。
「メイ……メイさんが物凄く強いことは解ったわ。私もエイジみたいに強くなりたい。だからメイさん……エイジに酷いことをしたことは許せないから絶対に謝るつもりはないけど、どうか私を鍛えてください。お願いします!」
ローズが深く頭を下げる。
「私も貴方に謝るつもりはないわ。それでも……メイさん、よろしくお願いします」
サラが続いて頭を下げる。
「ローズとサラがこう言っているんだ、俺だって謝る気はないぜ。だが謝る意外のことなら何だってするから、俺のことも鍛えてくれねえか!」
ラウルが勢い良く腰を90度に曲げて頭を下げる。
「何よ、随分都合の良いことを言うのね。だけど私の実力を知った上でそんなことが言えるなんて、エイジ君が肩入れする気持ちが少し解った気がするわ」
メイが満更でもない顔をする。
「だけど勘違いしないで。エイジ君は特別だから、貴方たちを幾ら鍛えたところでエイジ君みたいに強くなれる訳じゃないわ。それでも私が鍛えるんだから、今よりずっとマシになる筈よ」
完全に上から目線の発言に、ローズとサラが頭を下げたまま悔しそうな顔をする。だけど自分たちはお願いする立場だから文句を言える筈もない。
「メイ、それくらいにしてくれないか。ローズ、サラ、ラウルは俺の大切な仲間なんだ」
「ふーん……大切な仲間ね。エイジ君がそこまで言うなら仕方ないわ」
メイが不満そうな顔をする。
「ところで私は、エイジ君にとってどういう存在なの?」
「メイは……俺にとって師匠だな。メイという格上の存在がいてくれるから、俺は慢心することなくここまで来れた。だからメイには感謝しているんだ。これからもよろしく頼むよ」
「そう、師匠ね……エイジ君は良く解っているじゃない。良いわよ、これからも頼まれてあげるわ!」
メイが嬉しそうな顔をする。やっぱりメイってチョロいよな。ローズとサラが何故かジト目で見ているけど。
ローズ、サラ、ラウルの3人とメイの立ち合いに付き合った後、ボロボロになったローズたちは俺が渡した資料を分析すると言って帰っていった。
これからローズたちは週2回制作室に来てメイと立ち合いをすることになった。メイと『念話の指輪』の登録をして、事前に念話で承諾を受けることが条件だ。
これは後で聞いた話だけど、勝手に『転移』で来ようとしても、メイの能力で制作室には入れないらしい。俺はいつでも制作室に入れるから相手を識別しているってことか?
俺はメイが作ってくれた遅めの昼飯を食べてから『試練の塔』に向かう。魔物の暴走が起きるまで時間に余裕がある訳じゃないからな。時間ができたらダンジョンを攻略するのは当然だろう。




