30話:エイジの正体
俺は『念話の指輪』でメイに念話を送る。メイには事前に相談していたけど、実際にやるとなると先に伝えておくべきだろう。少し待っていると返事が来た。
『結局そうなるのね……解ったわよ。エイジ君の好きにして構わないわ』
予想通りの返事だけど、相手の意思を確認することは大切だからな。
メイとの話がついたので、ローズたちの方に向き直る。
「俺のやり方を知ったら軽蔑するかも知れないけど、俺はみんながもっと強くなれる方法を知っている。その方法を教えるのは構わないよ」
「エイジ、それってどういう意味よ?」
ローズたちが訝しげな顔をする。いきなりこんなことを言ったら当然の反応だろう。
「言葉だけで説明するのは難しいから、明日一緒にダンジョンに行かないか? 俺がしていることを見せるよ」
「エイジがソロで戦うところが見られるの? 勿論一緒に行くわよ!」
ローズの言葉にサラとラウルが頷く。勘違いさせたみたいだけど、否定する必要はないだろう。
「じゃあ、明日の午前9時にダンジョンの入口で待ち合わせしよう」
※ ※ ※ ※
翌日、8時半過ぎにダンジョンの入口に向かうと、ローズたちはもう来ていた。
「エイジ……今、ダンジョンから出て来たわよね? 昨日帰った後、ダンジョンを攻略していたの?」
「その辺のことも含めて全部説明するよ。先に謝っておくけど、俺はみんなに結構な隠し事をしているんだ。俺がどういう奴か知って幻滅されても仕方ないと思っているよ」
「エイジ、昨日からいったい何なの?」
サラが憮然とした顔をする。
「私たちが軽蔑するとか、幻滅するとか、そんなことを勝手に決めないでよ。もしもエイジが『殲滅旅団』と通じていると言っても、私は絶対に信じないわ」
ローズとラウルが真剣な顔で頷く。
「みんな、悪かったよ。俺は自分が間違ったことをしているとは思わないけど、誇れるとも思わなくて……いや、もうゴチャゴチャ言う前に、みんなに見て貰った方が早いな」
結局のところ、俺がやっていることを知ったローズたちに嫌われるのが嫌だから、仕方ないと自分に言い聞かせて諦めようとしたんだ。こんなことで予防線を張るとか、自分が情けなくなる。
「みんな、『転移』するから抵抗しないで受け入れてくれるか?」
『転移』は周りの人間を一緒に転移させることができるけど、嫌なら魔法抵抗力で抵抗することもできる。
ローズたちが黙って頷く。『転移』を発動すると一瞬で景色が変わって、俺たちは制作室に転移する。
壁一面に映し出されるダンジョン各所の映像に、ローズたちが唖然とする。
「え……ここってどこなの? 壁に映っているのって……ダンジョンの中の光景よね?」
「俺には何がどうなっているのか解らないぜ……」
「さすがにこれは私も……エイジ、どういうことか説明してくれる?」
「簡単には信じられないと思うけど、ここは制作室と言ってダンジョンの構造を変えたり、魔物を配置するための部屋だ。つまり俺がこのダンジョンを作ったんだよ」
強くなる方法を教えるだけなら俺の正体を明かす必要はない。だけどそれだけと話に信憑性がないし、俺を信じてくれるローズたちには本当のことを話すと決めたんだ。
順を追って説明する。前世の俺が『ラストダンジョン』を空想上の存在として作ったこと。ゲームの話をすると概念から説明する必要があるから、ダンジョンに出現する魔物やドロップアイテムを含めて全部俺が設定したとだけ伝える。
戦乱の女神がこの世界に『ラストダンジョン』を具現化させるために、俺をダンジョンマスターとして転生させようとしたこと。
転生することを拒否したら、前世の記憶を失って別人であるエイジ・マグナスの身体に魂を入れられて、無理矢転生させられたこと。
俺を哀れんだ別の女神が、前世の記憶を取り戻したときに覚醒するように、迷宮制作者としての力を与えたこと。
エイジ・マグナスだった俺は死ぬ直前に前世の記憶を思い出したことで、魂が今の身体に戻ったこと。
「エイジがエイジ・マグナスだったの……言われてみれば雰囲気が似ている気がするけど、やっぱりエイジはオルガたち『鉄の刃』に殺されたのね?」
「こんな荒唐無稽な話をローズは信じてくれるんだな。オルガたちに直接殺された訳じゃないけど、オーガから逃げるための囮にされたんだ。
本来のエイジ・マグナスの身体の持ち主には申し訳ないけど、今重要なのはそこじゃないだろう」
俺が『ラストダンジョン』を作ったなんて、いきなり言っても意味が解らないだろう。これで話を終わらせたら、ただの自己満足だ。みんなに理解して貰うために俺はエディットツールを操作する。
「壁の真ん中に映っているのが、みんなが攻略中の11階層で『死神』と戦った部屋だ。この部屋の構造を変えて見せるよ」
エディットツールで部屋を分断する壁を作ると、映像に映る部屋にも突然壁が出現した。
「本当に壁ができたか確かめに行こう。また『転移』するから抵抗しないでくれ」
『死神』と戦った部屋に転移すると、この部屋には魔物を配置しているから転移した瞬間に魔物が出現する。
ローズたちが戦ったのはアークデーモンだけど、『ラストダンジョン』の魔物は階層毎に設定したリストからランダムに出現する。今回出現したのは黒装束の男たち、3体のニンジャマスターだ。
ローズたちが身構えるけど、ここに来たのは攻略が目的じゃない。俺は『火焔球』でニンジャマスターたちを瞬殺する。
「『火焔球』で11階層の魔物を全滅させるなんて……」
「その辺のことも後で説明するよ。実際に部屋の構造が変わっているか確かめてくれ」
ローズたちは俺が作った壁に触れて、部屋を出て外の様子を確認することで、ここが『死神』と戦った部屋で、本当に壁ができたことを実感したみたいだ。
「エイジは魔物を配置することもできるのよね? ダンジョンに侵入した冒険者を倒すために魔物を配置したってこと?」
「前世の俺が空想上のダンジョンに魔物を配置したのは事実で、このダンジョンの魔物は全部俺が考えたモノだ。だけど俺は空想の世界で自分が楽しむためにダンジョンを作っただけで、冒険者を殺すためじゃない」
「戦乱の女神って奴が、エイジが作ったダンジョンを現実のモノにするために、エイジを無理矢理転生させたって言っていたわね……」
サラは何か考え込んでいる。
「私と最初に模擬戦をしたとき、エイジは本当の力を隠していたってこと?」
ローズが不満そうな顔をする。ダンジョンの構造を変えるほどの力があるなら最初から強かった筈で、俺が模擬戦で手加減したと思ったんだろう。
「別に力を隠していた訳じゃないんだ。ローズと模擬戦をしたのは魂が今の身体に戻ってから2週間くらいの頃で、あの時点の全力で俺は戦った。そこからソロでダンジョンの攻略を進めてレベルを上げたんだよ」
「そうか……エイジ・マグナスが亡くなったときに、エイジは迷宮制作者として目覚めたのよね。勝手な勘違いしてごめん」
「いや、俺の方こそ言葉足らずだったよ。そろそろ説明の続きをするために、さっきの部屋に戻ろうか」
3度目の『転移』を発動して、ローズたちと一緒に制作室に戻る。




