26話:挑発
「おい……今なんて言った!? ライゾウさんたちが大したことねえだと?」
ライゾウたちの死体を運んで来た冒険者たちが怒りの形相で集まって来る。
「ああ。あいつらは汚い手を使ってローズたちを襲っていたけど、真面に戦ったら全然大したことなかったよ」
「クソガキが……『天元突破』の荷物持ちが調子に乗るんじゃねえぞ! おい、ギルド職員ども、今日は店仕舞いだ!」
冒険者たちが窓と扉を閉めると、受付と酒場のカウンターにいたギルドの職員たちが奥の部屋に引っ込む。第2支部が『殲滅旅団』に支配されているってのは本当らしいな。
それにしても俺は普通に装備を身に着けているし、『収納庫』の存在を隠すために2本の剣をベルトに差しているのに、ガキとか荷物持ちとか酷い言われようだな。身体がデカい訳でもないし、童顔だから仕方ないのか?
「冒険者ギルドの中なら安全だと思ったか? 甘えんだよ!」
周りを取り囲む冒険者たちが一斉に武器を抜くと、ローズとラウルが剣に手を掛ける。オスカーはニヤリと笑って、黙って様子を眺めている。
「オスカー、先に武器を抜いたのはこいつらだからな」
一応念を押してから、俺は床を蹴って加速する。先頭の冒険者との距離を一瞬で詰めると、剣を振る間を与えずに殴り飛ばす。他の冒険者たちが反応するけど、遅過ぎるんだよ。
冒険者たちの間を駆け抜けながら、続けざまに殴り飛ばす。一応殺さないように手加減したけど、10人以上の冒険者が天井と壁にめり込んで動かなくなった。
「おまえ……いったい何者だ?」
オスカーの後ろにいた身長がやたらに高い男が、鋼鉄の槍を手に前に進み出る。身長は2mを余裕で超えているけど、頬がこけるほど痩せているから、威圧感があると言うよりも不気味に見える。
こいつはオスカーのパーティーのメンバーで、『殲滅旅団』最強の一角と言われるアッシュ・クロームだ。
「これまで無視していたのに、今さら名乗らせるのか? 俺はエイジ、一応冒険者でローズたち『天元突破』の仲間だ」
「エイジ? 聞いたことがない名前ね?」
オスカーの後ろにいたもう1人の冒険者が前に出て来る。茶色の髪を編み込んでドレッドスタイルにして、口元に黒子のある妖艶な感じの美人。こいつもオスカーのパーティーのメンバー、ギジェット・ダルフィンだ。
「さっきから話を聞いていると、まるで君がライゾウを倒したような口ぶりじゃない?」
「ああ。ライゾウとガーグ、ブライを倒したのは俺だよ」
「おまえが『死神』の3人を殺ったと言うのか?」
アッシュが目を細める。俺の実力を見極めようとしているみたいだな。
「ライゾウはローズとも戦ったから、俺1人で倒した訳じゃないけどな」
「エイジ、何を言っているのよ。私はライゾウに全然歯が立たなかったわ。エイジが1人で倒したのと変わらないわよ」
「そんなことはないだろう。ローズだって結構頑張っていたじゃないか」
周りを取り囲まれているのに、まるで緊張感のない会話をする俺たちに冒険者たちが苛立つ。
「良い度胸をしている……おまえの実力が本物かどうか、俺が確かめてやろう。ギジェット、絶対に手を出すな!」
アッシュが腰を落として槍を低く構える。俺は視線で合図して、ローズたちに俺から離れて貰う。
「おまえも早く剣を抜け! 腰に下げている2本は飾りなのか?」
「いや、剣は使わないよ。相手はあんた1人だろう?」
勿論わざと挑発している。この状況を打開するには圧倒的な力を見せつける必要があるだろう。
「なんだと……俺を舐めているのか? おまえが本当に『死神』の3人を殺ったとしても、俺は奴らとは格が違う!」
「別に舐めている訳じゃないよ。あんたはそれなりに強そうだからね」
「ふざけるな!」
アッシュが長い手足を生かした踏み込みで鋭い突きを入れる。アッシュのクラスはレンジャー、盗賊スキルが使えるクラスの中で一番戦士寄りの上級クラス。力と素早さの両方が高くて、物理戦闘能力は『ダンジョンズ&マジック』のクラスの中でトップクラスだ。
槍の一撃をギリギリで躱すと、アッシュは躱した先に再び突きを放つ。こいつはリーチが長いだけじゃない。躱す度に次々と繰り出される素早く正確な突き。立体的に変幻自在に動いて、まるでファランクスのように躱す隙間がないほど無数に突きを放つけど――
「何故だ……どうして俺の槍が当たらない?」
「当然だろう、俺の方が速いからな。そんな攻撃を幾ら繰り返しても当たらないよ」
「良い気になるな……その大口をいつまでも叩かせると思うか!」
アッシュが強気なのは、槍を躱す度に俺が後退して壁際に追い詰められたからだ。勢いを増したアッシュが、畳み掛けるように連続で突きを放つ。だけどこいつの狙いは解っていたからな。
俺は一気に加速して槍を躱すと、次の一撃を放つまでの一瞬で横を駆け抜けてアッシュを置き去りにする。
「だから当たらないって言っているだろう」
「何なんだその速さ……魔法なのか? それとも盗賊系のスキル?」
周りの冒険者たちが騒めく。これまで余裕だったオスカーも憮然している。ローズとラウルは当然という顔、サラは呆れた顔をしている。
「俺の実力なら解っただろう。まだ続けるのか?」
「所詮お前は逃げ回っているだけだ。『死神』を殺った実力を見せた訳じゃない。おまえの速さは認めるが……ならばさらに速い一撃を放つまでだ。『疾風槍』!」
アッシュがレンジャーの固有能力を発動して、素早く振り抜いた槍から渦巻く風の刃を放つ。その速度はサムライのライゾウが使った『真空斬』よりも速く、一瞬で目の前に迫る。
「速いことは速いけど、動きが直線的だな」
俺は最小限の動きでギリギリの距離で躱す。
「『疾風槍』を躱すなど、あり得ない!」
アッシュが続けざまに『疾風槍』を放つけど、その度に躱し続ける。プラチナドラゴンの稲妻のブレスを躱せる俺が、こいつの攻撃くらい躱せない筈がないだろう。
外れた『疾風槍』が壁に突き刺さって破壊する。冒険者ギルドの建物は石造りで頑丈だけど、『疾風槍』を撃ち続けたら持たないだろう。こいつらは自業自得だけど、下手をすると外にいる奴まで巻き込まれるな。
次の一撃を躱すと、俺は最加速してアッシュに迫る。
「自分から飛び込んで来るとは驕ったな! 『疾風槍』!」
至近距離で躱すのは確かに難しいけど、発動する前に槍を掴んで上に向ける。放たれた『疾風槍』が天井を砕いて瓦礫が降り注ぐ。
「考えなしに撃ちまくるなよ」
俺は拳を振りかぶって、思いきり殴りつける寸前で止める。空気を押し潰した衝撃波が襲い掛かって、アッシュの身体を吹き飛ばした。
「な、何なんだ、おまえは……」
アッシュの声が震えているのは、俺の拳が当たっていたらどうなったか理解したからだろう。
「あんたに槍を持たせておくと碌なことがないな」
俺は槍を奪うと力任せにへし折る。鋼鉄の槍だからさすがに完全には折れなかったけど、グニャリと90度近く曲がる。
「お、俺の槍が……」
アッシュが崩れ落ちる。完全に戦意喪失しているな。そんなに大事な槍だったのか?
「さてと……俺は武器を抜いていなのに、こいつは固有能力まで使ったんだ。どう落とし前をつけるつもりだ?」
俺は憮然とした顔のオスカーを見据える。




