25話:交渉
その日の夜、俺たちは馬車で冒険者ギルド第2支部に向かった。馬車で移動することにしたのは『死神』の奴らの死体を運ぶためだ。
『収納庫』のことを他の奴に知られないように、ローズたちが気を遣ってくれた。死体を出すと血の匂いが酷いから、冒険者ギルドに着くまで『収納庫』に入れておくけど。
ローズたちが出した結論は『死神』の死体を『殲滅旅団』に引き渡して、正当防衛を主張すること。意趣返しをされることになるだろうけど、理不尽なことに対して理不尽で返すつもりはないらしい。
「こんなことをしたら、またエイジを巻き込むことになるわね」
馬車の中でローズが悔しそうな顔をする。本当は自分たちだけで解決したかったんだろう。
「ローズ、何を言っているんだよ? 俺たちは仲間だろう。パーティーを組んでいなくても俺は『天元突破』の一員だと思っている。これは俺の勝手な思い込みか?」
「エイジ、その言い方はズルいわ。そんなことを言われたら何も言い返せないじゃない」
サラが呆れた顔をするけど、口元に笑みを浮かべている。
「サラだけには言われたくないな。これからみんなは強くなって、俺を助けてくれるんだろう? それで何も問題ないじゃないか」
俺の目的は魔物の暴走を止めることだ。ローズたちなら魔物の暴走のことを話せば協力してくれるかも知れない。
「エイジは色々と聞きたいことがあるが、全部今回の件が片づいてからだぜ」
御者席のラウルが覚悟を決めた顔をする。これから俺たちは『殲滅旅団』の本拠地に乗り込む。今回の件に『殲滅旅団』がどこまで関わっているか解らないけど、証拠がないから自分たちの非は認めないだろう。
それどころか『殲滅旅団』は自分たちのクランに所属する『死神』を擁護するかも知れない。さすがに場所が冒険者ギルドだから犯罪行為に走るとは思わないけど、何が起きても対応できるようにしておくべきだな。
馬車がクランベルクの街中を抜けて、石造りの大きな建物の前で止まる。ここが冒険者ギルド第2支部だ。
「みんな、着いたぜ」
馬車の床に布を広げて『収納庫』から出した『死神』の死体を並べる。このまま放置すれば血の匂いで気づかれるけど、その前に話をするから問題ないだろう。
俺たちは馬車を降りて建物に入る。中の造りは俺たちが所属する第3支部と大差ない。午後8時を過ぎているから大半の冒険者が併設された酒場で酒を飲んでいる。
俺たちに気づいた冒険者たちが注目する。俺はともかくローズたち『天元突破』は有名だからな。
「『天元突破』が第2支部に何の用だ? その人数で喧嘩を売りに来たのか?」
ガラの悪い冒険者たちが席を立ってこっちに集まって来る。シーダたちには念のために『念話の指輪』で今日は冒険者ギルドに来るなと伝えてある。
「私たちは『殲滅旅団』に話があって来たの。オスカーを呼んでくれる?」
「ローズ、てめえ……オスカーさんを呼び捨てにするんじゃねえ!」
冒険者たちが睨みを利かせる。ローズたちには通用していないけど。
「おいおい、何を騒いでいるかと思えば……ローズ、ラウル、サラ、久しぶりだな」
奥のテーブルからやって来たのは、顎髭を生やしたワイルドな感じのイケメンだ。年齢は30代半ばで、一目で強者だと解る鍛え上げられた身体つき。こいつが『殲滅旅団』のクランマスター、オスカー・ブラックホーンだ。
ドレッドヘアの女と、身長がやたらと高い痩せた男がオスカーの直ぐ後ろにいる。この2人はオスカーのパーティーのメンバーだ。
「おまえたちも10階層を攻略したって話だな。その実力を『殲滅旅団』に売り込みに来たのか? 『天元突破』なら俺たちはいつでも歓迎するぜ」
オスカーは俺がいないかのように完全に無視している。相手を見て態度を変える時点でこいつは信用できないな。
「そんな話をしに来たんじゃないわ。私たちは11階層で『死神』の奴らに襲われた。この責任を『殲滅旅団』はどう取るつもり?」
「『死神』に襲われた? そいつは物騒な話だな。それが本当なら俺は『殲滅旅団』のクランマスターとして責任を取るべきだが、何か証拠があるのか?」
ダンジョンの中で起きたことに証拠なんてある筈がないと、オスカーはタカを括っているんだろう。
「証拠ならあるわ。『死神』を返り討ちにして、外に停めてある馬車に死体を乗せて運んで来たわ」
「何だと……適当なことを言うと承知しないぞ?」
オスカーがローズを睨む。
「だったら馬車に行って、中を確かめれば良いじゃない」
「……おい、おまえたち。外の馬車を調べてこい!」
オスカーの指示で数人の冒険者が外に出て少し経つと。
「オ、オスカーさん、ライゾウさんが……」
2人の冒険者が血塗れのライゾウの死体を担いで戻って来る。俺が袈裟切りにしたライゾウはどう見ても死んでいる。
「馬車の中には『死神』の他の4人の死体も……おまえら、運ぶのを手伝ってくれ!」
10人以上の冒険者たちが慌てて馬車に向かって、バーバリアンのガーグ、修道士のブライ、暗殺者のギース、死霊使いのゼンの死体を運んで来る。
「おい……ローズ、こいつはどういうことだ?」
「だからダンジョンで襲われたから返り討ちにしたって言ったわよね?」
オスカーが後ろにいる冒険者を見ると2人は首を振る。『死神』の奴らは『殲滅旅団』に所属する冒険者を使って11階層を封鎖していたけど、オスカーたちは詳しい事情を知らないみたいだな。
あれから俺たちは『転移』で戻ったから封鎖していた奴らの顔は見ていない。だけどメイが制作室の映像で見ていたから、調べれば特定できるだろう。
「11階層を攻略しているレベルのおまえたちが、しかもその人数で『死神』を返り討ちにしただと? 俄かに信じられる話ではないな」
たぶんオスカーは他の冒険者の関与を疑っているんだろう。
「オスカー、論点はそこじゃないわ。『死神』が私たちを襲った責任をどう取るかって訊いているのよ。それとも私たちがたまたま『死神』の死体を見つけて運んで来たとでも言うのかしら?」
サラが冷ややかな目でオスカーを見る。ローズたちが『死神』が普段攻略している14階層に行けば無事に帰って来るのは不可能に近い。ローズたちが死体を持ち帰った時点で『死神』の奴らは11階層にいたことになる。
これだけでローズたちが襲われた証拠にはならないけど、だったらどうして『死神』の奴らが11階層にいたかってことだ。
「状況から考えれば、『死神』と『天元突破』の間で諍いが起きたと考えるべきだろう。だがおまえたちの実力でライゾウたちを倒すことは不可能だ。正直に言え、おまえたちの背後に誰がいる?」
冒険者ギルド第3支部にもローズたちよりレベルが高い冒険者はいるし、他の支部には『殲滅旅団』に匹敵する勢力が存在する。オスカーはローズたちがその中の誰かと手を組んで『死神』を嵌めたと思っているのか。
「なんか『死神』に勝てない前提で話をしているけど、こいつらの実力なんて大したことなかったよ」
突然の発言に、ギルド中の冒険者たちが怒りの視線を俺に集める。このままじゃ話が進まないし、第2支部に乗り込んだ時点で穏便に話がつくとは思っていない。だから煽っても構わないだろう。




