23話:選択肢
「エイジ……」
無精髭の男に拘束されたローズが俺を見ている。他にも4人が入口を塞ぐように立ち並ぶ……こいつら、どう考えてもクズだな。
「てめえ……見たことのねえ顔だが、俺たちの相手になるだと? 11階層にいるくらいだからそれなりのレベルなんだろうが、俺たちが誰か解っていねえのか?」
無精髭の男が俺の背後を見据えながら、禿げ頭のローブ姿の男に合図する。普通は1人で11階層にいる筈がないから、他にも仲間がいると思っているみたいだけど……
「ゴチャゴチャと煩いんだよ!」
俺は加速して立ち塞がる男たちの間を擦り抜けると、無精髭の男の元に走って顔を殴りつける。男は吹き飛んで、解放されたローズに俺は駆け寄る。
「ローズ、よく頑張ったな」
「エイジ……来てくれたのね。だけどどうして……」
「話はこいつらを片づけた後だ。ローズはラウルたちと一緒に下がっていてくれ」
ローズが背中に庇って、男たちを睨みつける。
「てめえ、いきなり何しやがる……その素早さは盗賊系クラスか? だが本当に俺たちが誰か解ってねえみてえだな!」
無精髭の男が血を吐き捨てて立ち上がる。
「おまえたちは『殲滅旅団』の№2、悪名の高い『死神』。おまえがリーダーのライゾウだな」
制作室の映像で見た『殲滅旅団』の行動や、シーダたちのことがあったから、情報屋に金を払って『殲滅旅団』について詳しく調べた。意外に思うかも知れないけど、俺は転生者だから情報の重要さを理解している。
特に映像で見た『死神』の行動は目に余ったから、メンバー全員の情報を集めて、メイに頼んで監視して貰った。だから『死神』の戦力は把握している。
「俺たちが『死神』だと知った上で喧嘩を売るのか? 面白れえじゃねえか!」
ライゾウが残忍な笑みを浮かべる。一斉に仕掛けて来ないのは、自分たちの方が強いと思っていることと、禿げ頭の男に確認して他に仲間がいないと解ったからだろう。
「一応訊くけど、どうして『天元突破』を襲ったんだ?」
『殲滅旅団』の指示か『死神』の独断かによって、今後の対応が変わって来る。
「決まっているじゃねえか。ハーレム野郎のラウルをぶち殺して、ローズとサラを俺のモノにするためだぜ」
ライゾウは悪びれることもなく当然のように言う。
「そんなことをしてローズとサラが言いなりになる筈がないだろう」
「そんなの関係ねえ、力づくで言うことを聞かせてやるぜ。ボロクズになるまで楽しんだら、女もぶち殺すだけだ!」
『死神』の奴らが下卑た笑いを浮かべる……こいつら、本当にクズだな!
「ライゾウ、こいつは俺がやらせて貰う。あんたはラウルとローズを散々痛めつけたんだ。今度は俺の番だぜ……生意気なガキに世の中の厳しさを教えてやらねえとな!」
俺の前に進み出たのは、赤い髪で身長2m近い巨漢。全身に筋肉の鎧を纏っているような身体つきで、巨大な戦斧を肩に担いでいる。
こいつはバーバリアンのガーグ。バーバリアンは戦士をさらに物理攻撃特化型にしたクラスだ。『死神』は普段14階層を攻略しているからレベルは20台後半ってところだろう。
「世の中の厳しさ? おまえたちみたいなクズがたくさんいるってことか?」
「てめえ……舐めるんじゃねえぞ!」
ガーグは殺意を込めた戦斧を叩き込んで来る。完全に殺すつもりだな。
俺は2本の剣を抜いて受ける。身長は30cm差、体重は俺の倍以上ある。ガーグは1撃で俺を押し潰すつもりだろう。
「別に舐めているつもりはないけど、実際のところ大したことないな」
俺は右手の剣1本で戦斧を止める。
「ふざけるんじゃねえ、ぶっ殺してやる!」
ガーグが力任せに繰り返す攻撃を、剣1本で受け続ける。
「おまえの力はこんなモノか? こんなんじゃ俺には通用しない。早く固有能力を使ったらどうだ?」
「てめえ……良いだろう、見せてやるぜ! 『狂戦士化』!」
『狂戦士化』は文字通りに狂戦士と化すことで、一時的に力と素早さが倍増する代わりに知力と器用さが半分になる。
ガーグが唸り声を上げながら戦斧を振り回す。俺は剣で受けるけど、力を殺し切れずに足元の床が砕ける。
「エイジ!」
「ローズ、大丈夫よ。エイジには全然効いていないわ」
ガーグが戦斧を振り下ろすタイミングに合わせて、右手の剣を一閃する。
力と力が正面からぶつかって戦斧が砕ける。そのまま剣を振り抜き、ガーグの腹を切り裂いて吹き飛ぱす。ガーグは壁に叩きつけられて、砕けた壁の中にめり込む。これはHP全損で即死だな。
俺は相手が敵なら殺すことを躊躇わない。エイジ・マグナスだった頃に人を殺した経験はある。『鉄の刃』では色々あったんだよ。誓って言うけど、理由もなく殺したことはないからな。
「少しは対人戦の経験になると思ったけど、これじゃ完全に肩透かしだな」
ライゾウが殺意を剥き出しにして俺を睨む。
「チッ……ブライ、ガーグを早く蘇生させろ!」
ライゾウが刀を俺に向けて牽制する中、もう1人の巨漢の男修道士のブライがガーグの元に向かう。
修道士は素手で戦う戦闘スキルを持つ戦士系クラスで、聖騎士と同じように司祭魔法を第7階梯まで習得できる。ブライも20レベル台後半の筈だから蘇生魔法くらい使えるだろうけど、そんなことさせる筈がないだろう!
「『放電』!」
指先から伸びた電光がブライを貫く。俺の知力なら第5階梯魔法でも威力は十分だ。ブライの身体が消し炭になって砕ける。
「てめえ……戦士系と魔術士のマルチクラスか、油断したぜ! ギース、ゼン、全力でこいつを叩き潰すぜ!」
『死神』の残り2人、覆面の暗殺者ギースと禿げ頭の死霊使いゼンが動く。
「『死霊召喚Ⅳ』!」
「『潜伏』!」
ゼンが召喚したのはドラゴンゾンビ、猛毒のブレスを放つ20レベル台半ばの魔物だ。死霊使いは強力な攻撃魔法を使えない代わりに、高位アンデッドを召喚して戦う。
ギースが発動したのは姿を消すスキル。姿を消して急所を狙えばクリティカルヒットが狙える。普通なら脅威だけど……今使うのは、どう考えても悪手だろう。
「『聖光剣』!」
ローズが放った光の刃がドラゴンゾンビごとゼンを切り裂く。聖騎士の固有能力はアンデッドに特攻効果がある。
「隠れても無駄だわ――『殲滅光』!」
盗賊スキルで姿を消しても『索敵』には反応する。サラが放った魔導士第7階梯魔法がギースに命中。通称移動砲台と呼ばれる魔導士の第7階梯単体攻撃魔法の威力は絶大だ。
それでもレベル差があるからギースを仕留め切れなかったけど、ダメージを受けたら『潜伏』は解除される。
「ここまで好き勝手にやってくれたぜ!」
「お、おい……ま、待ってくれ!」
「『強化連撃』!」
ラウルは容赦なく、ギースの頭上から大剣を振り下ろした。
「ライゾウ、これで残りはおまえ1人だ」
「チッ……だから何だ? てめえらを皆殺しにすれば済む話だぜ!」
ライゾウが床を蹴って加速する。眼前に迫ると刀を横に一閃。俺が剣で受けると、素早い斬撃を続けざまに叩き込んで来る。どうやらスピードなら俺に勝ていると思っているみたいだな。確かに速くて正確な太刀筋だけど……
メイはもっと速くて正確な上に一切容赦しないからな。最小限の動きでライゾウの刀を躱すとカウンターで1撃を入れる。ライゾウは後ろに跳んで距離を取る。
「ライゾウ、今のがおまえの全力か? これじゃガーグって奴と大差ないな」
「ふざけるんじゃねえぞ……てめえは無様に死にやがれ! 『真空斬』!」
ライゾウが刀から5つの斬撃が飛ぶ。『真空斬』は高速で斬撃を飛ばすサムライの固有能力だ。戦闘スキルのレベルが上がると斬撃の数も増える。
物凄いスピードの斬撃だけど問題ない。俺は2本の剣で全て叩き切る。
「『真空斬』を切っただと……」
今度はこっちの番だな。一瞬で距離を詰めると、ライゾウが反応できない速度で剣を叩き込む。
「な……何だと……」
袈裟切りにしたライゾウが口から大量の血を吐いて崩れ落ちる。『死神』のリーダーも呆気なかったな。




