15話:試練の塔
次の日から俺はソロでダンジョンの攻略を進めることにした。出掛ける前にメイに夕飯の時間までに戻ることと、頼みたいことを伝える。
「これから特徴を伝える冒険者たちが『ラストダンジョン』に来たら、制作室の映像で監視というか、見守って欲しいんだ」
俺が頼んだのはガイアたち『鉄の刃』のことじゃない。1階層で出会ったシーダたち駆け出し冒険者パーティーと、ローズたち『天元突破』のことだ。
自分がやろうとしていることが偽善的だって自覚はある。だけどダンジョンの中の映像を見ることができるメリットを活かさない手はない。
意識を失っていたカイルが回復するには、もう少し時間が掛かるだろう。だけどその前にダルクが3人で攻略を再開すると言い出す可能性もある。シーダたちは危なっかしいから、何かあれば手助けしたいと思う。
俺もダンジョンを攻略しているから、シーダたちに何かあっても知るのは制作室に戻ってからだ。だけどあるアイテムを手に入れればメイと連絡が取れるようになって、『転移』で駆けつけることができるようになる。
ちなみにシーダたちのパーティーに名前はない。もっと強くなってから、パーティーの中で一番強い奴が決めることになっているそうだ。もしダルクが決めたら『天元突破』以上に中二病臭い名前になる気がする。
ローズたちのことはそこまで心配している訳じゃないけど、俺は制作室の映像でガイアたちよりもタチの悪い冒険者がいることを知っている。
エイジ・マグナスだった頃から聞いていた噂は本当だった。ローズたちなら大抵のことは自分たちで何とかするだろう。だけど相手が相手だからな。
「他の冒険者を助けたいだなんて、エイジ君はお人好しね……解ったわよ。エイジ君の頼みなら見守るくらい構わないわ」
メイがニマニマする。こういうときのメイはマジでウザいけど、頼みごとをするのに文句は言えないな。
ローズたちはダンジョンで目立っているから、メイに特徴を伝えると直ぐに誰か解ったみたいだ。
「ふーん……エイジ君が助けたい冒険者って女が多いのね?」
メイにジト目で見られる。いや、何か誤解しているだろう? ローズとサラは確かに魅力的な女の子だけど俺に下心はない。
ローズたちは俺のことを仲間だと言ってくれて、手の内を晒すことも厭わずに自分たちが経験したことを教えてくれた。だけどそれはローズたちが良い奴だからで、前世でアラサーのサラリーマンだった俺は変な勘違なんてしないからな!
前世の記憶がなかったせいか、エイジ・マグナスだった頃の記憶は俺にとって別物。年齢的な感覚は前世で死んだ29歳の頃のままだ。それでも29歳の男が10代の女の子とどうこうとか……前世だったら完全に犯罪だろう。
「戦士と司祭と魔術士の3人、もしくはそこに弓使いが加わった4人。全員10代半ばで1~2階層を攻略しているパーティーだよ」
「エイジ君、そんなパーティーは幾らでもいるじゃない」
シーダたちの特徴を話すとメイに言われる。確かにその通りでシーダたちのような冒険者はたくさんいるし、クラスもめずらしい訳じゃない。メイが他の冒険者と間違えても仕方ないだろう。
「同じようなパーティーを複数見つけたら全部見守ってくれないか。メイならそれくらいできるだろう?」
たまたま近くにいたから気まぐれで助けただけで、シーダたちが特別な訳じゃない。メイが間違えて別のパーティーを助けることになっても、それはそれで構わないだろう。
「当然できるわよ。ホント、エイジ君はお人好しね」
「メイ、ありがとう。じゃあ出掛けて来るよ」
「それは良いけど……エイジ君、約束は絶対に守ってね」
釘を刺されたのは昨日の今日だからだろう。信頼を築くのは大変だけど、失うのは一瞬だから気をつけないと。
『転移』で1階層に移動して、シーダたちを助けたときに向かっていた場所に行く。
1階層の一番東側のとある地点。魔術士の第2階梯魔法『隠扉看破』を発動すると壁が光る。
自分で作ったダンジョンだから隠し扉があることは解っていたけど、『ダンションズ&マジック』の隠し扉は魔法かスキルで発見しないと開けられない仕様だ。
2階層の魔物からトロップした『試練への鍵』というアイテムを掲げると、ガチャリと鍵が開く音がする。隠し扉の先は『試練の塔』という名前の隠しエリアだ。
『試練への鍵』のドロップ率は低くないし、この隠し扉を発見するのはそこまで難しくない筈だ。だけど制作室のスクリーンに映し出された映像に『試練の塔』に挑む冒険者の姿はなかった。
その理由は『試練の塔』が2人以上で挑むと玄室の扉が開かない仕様だからだろう。つまり強制的にソロで挑むことになる。
この世界には蘇生魔法が存在するけど、確実に成功する訳じゃないし、パーティーが全滅すれば、結構な確率で死体すら残らずに消滅する。ソロで挑めば自分が死ぬと即全滅、消滅するリスクを常に負うことになる。
そんなリスクを負ってまで、ソロでダンジョンに挑む冒険者はほとんどいないだろう。だけど俺は違う。『ラストダンジョン』をデザインしたのは俺だからだ。
出現する魔物と罠は全部知り尽くしているし、ソロ専用エリアの効率的な攻略の仕方も熟知している。散々自分のキャラで試したからな。
『試練の塔』は1階層の隠し扉からしか侵入できない完全に独立したエリアで、階層数は全部で50。
中はさらに後衛クラスルートと前衛クラスルートの2つに分かれている。後衛クラスルートにはそこまで強くない魔物が数多く出現して、前衛クラスルートには強い魔物が単体で出現する。
まず俺は後衛クラスルートの攻略を始める。最初に出現したの3体のスケルトン。レベルが低い冒険者がソロで挑むにはそれなりに強敵だ。俺は剣を抜いて加速するとスケルトンを瞬殺する。
『試練の塔』の構造は一本道。同じ階層でも奥に進むほど後衛クラスルートは出現する魔物の数が増えて、前衛クラスルートは魔物が強くなる。
次の玄室に出現したのは8体のオーク。この数は第2階梯魔法が使えないと厳しいだろう。だけど俺なら問題ない。オークたちの間を擦り抜けるように駆け抜けながら、ダメージを喰らうことなく剣で殲滅する。
2階層になると魔法を使う魔物が出現する。数が増えて来ると剣で倒し切る前に魔法を撃たれる。今の俺なら魔法も躱せるけど、数が多くなると限界になる。
「『焔連弾』!」
魔術士第2階梯魔法を発動して、連射した焔弾で魔物を仕留める。数が多過ぎて仕留めきれないときは剣で片づける。範囲攻撃魔法を使わないのは、まだ先は長いからMPを温存するためだ。
MPを回復するには休憩するか眠るしかない。だけど休憩で回復するMPは1時間で5%程度、結局1日で使えるMPは限られる。攻略を進めるにはできるだけMPを温存しないと。
さらに深い階層へと攻略を進めながら、ダメージを受けずに魔物を殲滅するために必要最低限の魔法を選択する。このダンジョン作ったのは俺だから、魔物のステータスと攻撃パターンは全部解っている。
メイが作ってくれた弁当で昼飯を済ませて攻略を続ける。メニューはたまごとハムのサンドイッチにフライドチキンとサラダ、デザートはアイス。収納庫に入れた物は時間が止まるから、フライドチキンは揚げたてでアイスも解けていなかった。
「『火焔球』!」
魔法の爆発が6階層に出現した死霊系アンデッドの群れを殲滅する。さすがに範囲攻撃魔法を使わないと厳しくなってきたけど、俺の知力は同レベルの魔術士の倍近くあるから第3階梯魔法でも威力は十分だ。
しかも後衛クラスルートは魔法だけで倒せるように、出現する魔物は総じて魔法抵抗力が低い。俺が魔法を放つ度に大量の魔物が経験値に変わっていく。
それから数時間、手当たり次第に魔物を倒しながらダンジョンを駆け抜けて、今の俺に攻略できる一番深い階層まで辿り着く。ここからは出し惜しみなしだ。
「『魔力爆裂』!」
魔術士第7階梯魔法の指向性のある魔力爆発が8体のアークメイジを殲滅する。『魔力爆裂』は魔導士も使う『ダンジョンズ&マジック』で定番の上位攻撃魔法だ。
アークメイジも同じ魔法を使うけど知力は俺の方が上だ。知力が高いほど|魔法を発動するまでの時間も短くなるから、先制攻撃で放てばこっちがタメージを喰らうことはない。
これまでMPを温存したこともあるけど、同レベルの魔術士の倍近くあるMPにはまだ余裕がある。この階層に出現する魔物の種類とステータスも全部解っている。最適の魔法を選択しながら、安全マージンの確保を忘れずに行けるところまで突き進む。
俺の目的は魔物の暴走を止めることだ。それは嘘じゃないけど素直に認める――リアルになったダンジョンを攻略するのが楽しくて堪らないんだよ!
レベル以上のステータスを、メイとの立ち合いのおかげで上手く使いこなせている。自分よりもレベルが高い魔物を倒せるから、たくさん経験値が入って早くレベルが上がる。調子に乗ると足元をすくわれるから、それだけは気をつけないと。
最悪の状況になっても、俺は『転移』が使えるからな。油断さえしなければ死ぬことはないだろう。




