14話:忠告の意味
「エイジ、明日も冒険者ギルドに来るわよね? ソロでダンジョンに挑んだ手応えを聞かせてよ」
冒険者ギルドを出て、別れ際にローズから言われる。
「悪いけど、俺はしばらくダンジョンの攻略に集中したいから、冒険者ギルドには来ないつもりだよ」
本当のことを言えば、ダンジョンに戻るために冒険者になる必要があるから来ただけで、元々クランベルクの街に来る予定はなかった。
「だったらエイジと次に会うのは死体になったときか、今日が最初で最後かも知れないわね」
「ちょっと! サラは何てことを言うのよ!」
「そうだぜ。さすがにその言い方はねえだろう!」
ローズとラウルが怒ってくれたけど、俺は文句を言うつもりはない。
「サラ、忠告してくれてありがとう。そうならないように気をつけるよ」
サラがマジマジと俺を見る。
「エイジ、どこまで本気で言っているの? 普通なら怒るところじゃない」
「サラに悪意を感じないし、俺のことをどうでも良いと思っているなら何も言わない筈だ。言い方はどうかと思うけど、俺のことを心配して言ってくれたんだろう?」
エイジ・マグナスだった頃の俺は、サラたちを傍目で見ていただけだ。だけど今日話をしてみて解った。サラは言いたいことをハッキリ言うだけで、悪意のある発言をするような奴じゃない。
口では心配していると言う奴ほど実は無関心だったり、本心は真逆な奴もいる。ブラック企業のサラリーマンだった俺は、そんな人間をたくさん見て来た。
「そう……エイジが馬鹿じゃないことは解ったわ」
「サラはまたそんなことを言って! だけどエイジって見た目よりも大人なのね。もしかして、私たちよりも年上とか?」
「良く言われるよ。これでも色々と経験しているからね」
さすがに自分が転生者だなんて言えないけど。
「エイジ、しばらく会えなそうだが頑張れよ。俺たちもおまえに負けないように頑張るぜ」
「ラウル! 今の台詞、私が言おうと思っていたのに! エイジ、私たちはあんたを応援しているからね!」
「ああ。ラウル、ローズ、ありがとう」
ローズたちと別れて、俺はダンジョンに戻るために街の門に向かう。メイに何も言わずに来てしまったし、今から宿を探すよりも制作室に戻る方が早いだろう。
エイジ・マグナスだった頃の経験から、この時間でも街の外に出ることができることは知っている。街に入るのは朝まで待たないといけないけど。
『索敵』の反応で後をつけられていることには気づいていた。繁華街なら偶然同じ方向に向かっている可能性もあるけど、この時間帯に門に向かうのは、理由があって夜にダンジョンを攻略する冒険者くらいだ。
冒険者ギルドからずっとついて来ているし、つけられているの間違いないだろう。振り向いて『索敵』の反応がある方向に視線を向ける。
「俺に何か用があるんですか?」
「こんな時間にどこに行くつもりだ?」
声とともに現れたのはガイアたち『鉄の刃』のメンバーだ。さっき酒場で一緒にいた俺の知らない奴もいる。やっぱりこいつは『鉄刃』の新しいメンバーってことか。
「貴方たちに教える必要はないでしょう」
ガイアたちのせいでエイジ・マグナスだった俺は死んだ。こいつらには復讐してやりたい。ローズと渡り合えた今の俺なら負けることはないだろう。だけど向こうは人数が多いし、街中でやり合うのは不味い。復讐するのは状況が整ってからだ。
「てめえ、新人だよな? 先輩に生意気な口を利くんじゃねえぞ!」
ガイアがいきなり胸ぐらを掴む。躱すのは簡単だったけど、こいつは俺を只の新人だと思っている。下手に警戒させない方が良いだろう。
「格の違いを教えてやるぜ!」
ガイアが俺を殴りつける。俺の防御力なら大したダメージじゃないから今度も躱さなかった。派手に転がる俺を見て、ガイアがドヤ顔をする。
「ローズたちに気に入られたみたいだが良い気になるな! あいつらは只の気紛れでおまえに声を掛けただけだ!」
もしかして、そんなことを言うために後をつけてきたのか? そう言えばガイアはローズに気があるんだったな。
同じ聖騎士だからお互いを理解できるとか言っていたけど、俺が『鉄の刃』にいた頃からローズは全然相手にしていなかった。
そもそもガイアはなんちゃって聖騎士だ。冒険者になったときは、聖騎士になるにはステータスが足りなくて俺と同じ戦士だった。
ステータスが上がってマルチクラスで聖騎士になったけど、戦士と聖騎士は同じ戦士系クラスだから色々被ってメリットが薄い。
その上聖騎士はレベルアップに必要な経験値が多いから、結局ガイアは聖騎士のレベルをほとんど上げていない。
「そんなことは解っていますよ……俺は勘違いなんかしていません」
ダメージを受けたように見せるために、ゆっくりと立ち上がる。大したダメージじゃないと思ったけど、まさかノーダメージとはね。ガイアが殴ってもダメージが出ないくらい俺の防御力が高いってことか。
「てめえも解っているみたいじゃねえか。今日のところは素直に認めたことに免じて見逃してやるが、次はねえからな!」
ガイアは睨みを利かせて、仲間たちを連れて立ち去る。本当にこんなことを言うために追い掛けて来たみたいだな。
自分で殴っておいて、俺にダメージがないことにも気づかないのか? あんな奴と同じパーティーにいたなんて恥ずかしくなる……まあ、今さらの話だけど。
※ ※ ※ ※
クランベルクの街を出てダンジョンに向かう。時間はすでに午前0時を過ぎているけど、今もダンジョンの入口では衛兵が警備をしている。
「これから1人でダンジョンに入るだと?」
2人の衛兵は俺の知らない奴で不審な顔をされる。だけど冒険者プレートを見せるとアッサリと通した。
『索敵』で周りに他の冒険者がいないことを確認してから、魔術士第7階梯魔法『転移』を発動する。転移した先は制作室だ。
「メイ、ただいま」
俺を見てメイが驚いた顔をする。
「エイジ君……どうして戻ってきたの?」
「どうしてって、メイは俺が戻って来ないと思っていたのか? 何も言わずに出掛けたことは謝るけど、ここから出て行くつもりはないよ」
制作室の暮らしは、クランベルクの街で宿屋に泊まるよりもずっと快適だし、ダンジョンの中を映像で見られることは魔物の暴走の予兆を知るためにも重要だからな。
「そういうことね……だったら初めから言えば良いじゃない! 夕ご飯を温め直すから、エイジ君は先にお風呂に入って!」
俺が戻って来ないと思ったのに、夕飯の用意をしていたのか? 少しは戻って来ることを期待してくれていたんだな。
「ごめん、夕飯は食べて来たんだ。だけどせっかく作ってくれたなら、夜食として食べるよ」
「エイジ君……これからご飯を食べて来るときは先に言って! そう言えばお酒も飲んでいるみたいだし……じゃあスープにご飯を入れてお粥にするわね!」
メイは文句を言うけど、鼻歌を歌いながらキッチンに向かう。これから出掛けるときは、いつ戻るかメイに伝えることにしよう。




