1話:冒険者エイジ
ここはダンジョンの4階層、俺は冒険者のエイジ・マグナス。クラスは戦士で、今戦闘の真っ最中だ!
「エイジ、何とか持ちこたえろ!」
「ああ、解っているよ!」
パーティーのメンバーは戦士の俺に、聖騎士のガイア、盗賊のドレイク、司祭のエドガー、魔術士のジェリルの5人。
相手は2体のオーガ。体長4mの巨体が振る柱のような棍棒を盾で受けて止める。俺とガイアが攻撃を防いでいる間に、魔術士のジェリルが魔法を詠唱する。
「おい、避けろ!」
ドレイクの合図で、俺とガイアが飛び退いた瞬間。
「『火焔嵐』!」
魔術士第4階梯魔法の業火がオーガを焼く。ガイアが踏み込んで大剣を一閃すると、オーガ1体が光のエフェクトともに消滅。ドロップアイテムとコインだけが残る。
もう1体を倒すのは俺の役目だ。床を蹴って跳び上がると、渾身の剣を叩き込む。だけど俺の一撃じゃオーガを仕留めきれない。
「ウグォォォォ!」
オーガが雄叫びを上げながら棍棒を振り回す。何とか盾で受けるが、身体ごと弾き飛ばされる。
「エイジ、何をやっていやがる! おまえ、それでも戦士か?」
そんなことは言われなくても解っている。俺には戦士としての才能がないからな。
冒険者になった時点で、戦士としてギリギリの力。レベルが上がってもステータスの伸びが悪い。だからって強くなることを諦める理由にはならないだろう!
オーガは俺に標的を定めたらしく、こっちに向かって来る。ガイアたちはニヤニヤしながら傍観している。自分の始末は自分でつけろってことだろう。勿論、俺だってそのつもりだ!
立ち上がって剣と盾を構える。ポーションを飲んでHPを回復。ダメージを受けるのは日常茶飯事だから、いつでも飲めるように装備の至るところに仕込んである。
オーガが薙ぎ払うように横向きの一撃を放つ。姿勢を低くして躱すと棍棒の下を潜って突進、体重を乗せて剣を突き刺す。
懐に入ってしまえば、オーガは全力で棍棒を振ることができない。あとはダメージを喰らうのを覚悟の上で、ひたすら攻撃を繰り返す!
「おい、あれを見ろ! 増援が来やがった!」
盗賊のドレイクが指差す方向から、新たに3体のオーガがやって来る。さっきの雄叫びを聞きつけたんだろう。4体同時に相手にするのは今の俺たちじゃ厳しい。
「チッ……エイジがグズグズしているせいだ! おい、その1体だけでも早く片づけろ!」
「みんな悪い、直ぐに仕留めるから!」
俺がズタボロになりながら、どうにかオーガを仕留めたときだ。ガイアたちが周りにいないことに気づく。
「おい……嘘だろう?」
俺以外の4人はとっくに逃走していた。迫り来る3体のオーガ。つまり俺を囮にしたってことだ。
「エイジ、おまえはずっと役立たずだったが、最後くらいは役に立たせてやるぜ!」
クソ……ふざけやがって! 身体はボロボロで絶体絶命の状況。だけど不思議と恐怖心はない。俺には戦士としての才能がないけど、度胸だけは据わっている。
俺は絶対に諦めない……徹底的に抗ってやる!
ありったけのポーションを急いで飲み干して、3体のオーガとの間合いを測る。囲まれたら終わりだ。
全力で壁際に跳んで右の1体に先制攻撃。剣でオーガを切り裂くが傷は浅い。反撃される前に壁際を駆け抜けようとしたとき、オーガの体当たりを喰らう。
巨体と壁に挟まれた痛みと衝撃。だけどまだ俺は生きている。今の状態ならこいつが壁になって1対1で戦える!
オーガの反撃を喰らいながら、何度も剣を叩き込んでどうにか仕留める。これで残り2体だ……
血を流し過ぎたせいで意識が朦朧とする。目の前には無傷のオーガ2体。もうポーションもない……どうする? いや、考えている暇はない。やるしかないだろう!
1体ずつ相手にしようと回り込もうとするが足が思うように動かない。2体のオーガが棍棒を振り被る。壁を背にしているから逃げ場はない。
ふざけやがって……こんなところで俺はまた死ぬのか? 巨大な棍棒が目の前に迫った瞬間、走馬灯のように知らない記憶が蘇る。
そうだ……俺は如月エイジ。前世で29歳のアラサーで死んだブラック企業のサラリーマンだった。
※ ※ ※ ※
気がつくと知らない部屋にいた。
俺は豪華な肘掛け椅子に座っている。座ったまま眠っていたのか? 何故か白地に黒のラインが入ったジャージを着ている……なんでジャージ?
「……ここって、どこだよ?」
壁一面のスクリーンに映し出される多数の映像。声や音は聞こえないけど、冒険者たちが魔物と戦っている。
この映像って……知っている冒険者がいる。俺が攻略していたダンジョンだよな?
今、俺の中には冒険者のエイジ・マグナスと、アラサーでブラック企業のサラリーマンだった如月エイジの2つの記憶がある。何が妄想で何が現実なのか……俺が混乱していると。
「エイジ君、ようやく目を覚ましたのね。お腹空いているでしょ。これ食べない?」
水色の髪の少女がトレイに乗せたサンドイッチとコーヒーを運んで来る。
睫毛が長いパッチリメイクのギャルで、年齢は10代半ば。コスプレっぽい感じのメイド服を着ている。まるでアニメのキャラのような美少女だけど、俺は彼女のことを知らない。
「ありがとう……ところで、君は誰なんだ?」
「私はエイジ君のお世話をするメイドゴーレムのメイよ。よろぴく!」
横向きのダブルピースで決め顔をされても、全然意味が解んないんだけど! メイドゴーレム? しかもメイドゴーレムだからメイって……名前が安直過ぎないか?
俺が考え込んでいると、メイが恥ずかしそうに顔を赤くする。
「コホンッ……エイジ君はオタクに優しいギャルが好きだって女神様が言っていたのに、好みに合わなかったかしら?」
おい、ちょっと待て! そんな情報を誰が漏洩したんだ……確かに俺はギャル好きだけど、それはアニメやゲーム限定の話。オタクに優しいギャルなんて現実には存在しないだろう(決めつけ)!
メイが本物のギャルじゃないことは解ったけど、重要なのはそこじゃない! 今『女神様』って言ったよな……ますます混乱して来た。まずは状況を整理しないと。
「メイ、今から俺は変なことを言うかも知れないけど、君が知っていることを教えてくれないか?」
メイに話したのは、俺が冒険者のエイジ・マグナスで、この部屋で目覚めるまでオーガと戦っていたこと。ブラック企業のサラリーマンだった如月エイジの記憶があること。どうしてこの部屋にいるのか、全く憶えていないことだ。
「何が現実で何が俺の妄想なのか……自分でも解らないんだ」
「ふーん、そういうことね……エイジ君が混乱しても仕方ないんじゃない。だけど全部本当に起きたことよ!」
俺が頼ったことで気分を良くしたのか、メイがドヤ顔をする……ちょっとウザいんだけど。
「エイジ君はまだ忘れていることがあるわ。スクリーンの映像に映っているダンジョンのことをもっと昔から知っていた筈よ。それとこの世界に転生する前に誰に何をされたのか……よく思い出して!」
メイの言葉が鍵になって新たな記憶が蘇る……それは前世で俺が死んだ理由と、この世界に転生した理由だった。




