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第5話:芽吹く愛、そして新しい命

剣劇の響きは遠のき、城下町は人々の笑い声と穏やかな喧騒に包まれていた。だが、カイトとリライアにとっての真の冒険は、戦場ではなく、戦いの後に訪れる静かな時間の中にこそあった。

 二人の名は大陸中に広まり始めていた。「竜血の剣士」と「ダークエルフの女王」。かつての不信感や対立は消え去り、そこには数多の死線を越えて築き上げられた、揺るぎない「信頼」という絆だけが残っていた。

 歌声が響き、提灯が灯る活気ある酒場で、リライアがテーブル越しに身を乗り出した。紫の瞳にいたずらっぽい光を宿して。「カイト。……私、考えていたの」

 カイトはエールを啜りながら、片方の眉を上げた。「それは危険な兆候だな」

「ええ、とっても」彼女はニヤリと笑った。「私たち、かなりの報酬を稼いだわ。それを元手に、自分たちの『場所』を作らない? 名声や富のためじゃなく、もっと長く続くもの。私たちのような冒険者が、羽根を休め、癒やされるための場所を」

 カイトは数秒考え……そして、表情を緩めた。「宿屋を開きたいのか?」

「『二人で』開くのよ」彼女は温かい声で訂正した。「戦士、放浪者……行き場を失った魂たちのための聖域を」

 カイトは瞬きをし、そして満面の笑みを浮かべた。「名前は……『竜の休息亭ドラゴンズ・レスト』にしよう」

 その瞬間、小さなアイデアの火種が、大きな炎へと変わった。

 数週間後、城下町の外れ、静かな草原を見渡す場所に「竜の休息亭」が完成した。頑丈なオーク材と石造りの壁には、リライアが描いた通り、笑い声と歌が響き渡った。ダークエルフの王国からやってきたかつての侍女たちは、王冠を捨てたリライアへの忠誠をそのままに、給仕や受付として甲斐甲斐しく働いていた。

 カイトは彼女たちを見守りながら気づいた。王族に仕えていた彼女たちが、今ではトレイを持ち、廊下を掃除している。だがそれは義務ではない。彼女たち一人一人に物語があり、魂がある。彼女たちはもはや使用人ではなく、同じ夢を守る「戦友シスターズ・イン・アームズ」なのだ。

 リライアもまた、それを感じていた。階段や厨房から彼女たちを静かに見つめるその眼差しには、稀に見る柔らかさが宿っていた。ダークエルフの女王は、もはや統治者ではなく、戦士や放浪者たちを束ねる「慈母マドロン」へと変わりつつあった。

 ある夜、客たちが眠りにつき、暖炉の火が残り火となった頃。カイトとリライアは宿屋のバルコニーに立っていた。

「こういう場所が持てて、本当に良かった」リライアが彼に寄りかかった。「宿屋だけじゃない。この……『平穏』が嬉しいの」

 カイトは微笑み、彼女の腰に腕を回した。「平穏がこんなにいいものだなんて、想像もしてなかったよ」

「あなたは私の世界を変えたわ、カイト。影しかなかった私の人生に、温もりをくれた」

 カイトは彼女の頬に優しく触れた。「それは俺も同じだ。ただ生き残るために必死だった。でも今は……ようやく『生きている』実感がある」

 二人の唇が重なる。世界と戦ってきた二つの魂が、互いの中に「家」を見つけた瞬間だった。

 そこへ、絶妙なタイミングで声が割り込んだ。

「あー、失礼。お邪魔じゃなかったかしら……?」

 入り口に気まずそうに立っていたのは、お茶と菓子のトレイを持ったクリスティーヌだった。彼女の頬はピンク色に染まっている。「夜食、持ってきたんだけど?」

 カイトは笑い声を上げた。「お前ならいつでも歓迎だよ、クリスティーヌ」

 翌朝、宿屋の静かな空気は歓喜に包まれた。

 スタッフと客たちの前に立ったリライアは、頬を上気させ、お腹の上にそっと手を置いた。「皆さんに伝えたいことがあります」彼女の声は囁くようだったが、はっきりと響いた。「カイトと私に……新しい命が宿りました」

 広間は割れんばかりの歓声に包まれた。

 カイトは誇らしげな表情を隠せず、彼女を抱き寄せた。クリスティーヌは狂喜乱舞し、お祝いの飾り付けを手に宿中を駆け回った。

 宴が始まった。見事な肉料理、蜂蜜たっぷりの菓子、異国から届いた名酒。冒険者、エルフ、人間。すべてが一つ屋根の下で喜びを分かち合う。カイトとリライアは手を取り合い、温かな光の中にいた。

 だがその夜遅く、最後の一杯が飲み干され、音楽が止んだ後。カイトは一人、バルコニーで遠くを見つめていた。

 彼は別の人生を思い出していた。日本の、幼い息子。果たせなかった約束。胸が静かに痛む。

 リライアが何も言わずに隣に座り、彼の手を握った。

十一ジューイチが見たら、どう思うかな」長い沈黙の後、彼が漏らした。

「あなたは彼を、心の中にいつも連れているわ」彼女は彼の手を握りしめた。「あなたは彼を見捨てたんじゃないわ、カイト。あなたはただ……与えられた人生を懸命に生きているのよ」

「怖いんだ」彼は認めた。「また失敗するんじゃないかって」

「させないわ」彼女は囁いた。「二人で向き合いましょう。いつだって、そうしてきたように」

 彼女の強さ、気高さ、自分への信頼。

 その瞬間、カイトの中で何かが変わった。竜の激しい炎ではなく、父親としての静かな「覚悟」が宿ったのだ。

 月日が流れ、宿屋は赤ちゃんの準備で活気づいていた。だが、平和な壁の向こう側、世界の暗い片隅で、何かが蠢き始めていた。

 木々を揺らす、冷たい風。

 二人を結びつけたあの炎が、再び試される時は近い。

つづく


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