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第三十六章:サカタの神懸かりな攪乱

魔王城から遥か、……いや、とてつもなく遥か彼方。

まともな道路整備など聞いたこともない三つの山脈を越え、己のどす黒い秘密を囁きかけてくる呪われたジャングルを抜け、縄張り意識の強すぎるリスの大群に地元のドラゴンですら正式に苦情を申し立てるような森を通り過ぎた先。

二つの火山噴火口に挟まれた隠れ家的な秘湯にて、自分が引き起こした大混乱などどこ吹く風で——。

サカタ・ブッダは、湯に浸かっていた。

一糸纏わぬ姿で。完全に、清々しいほどに、破廉恥なほどに、無防備な姿で。

禿げ上がった頭の周りを、芳しい湯気が優雅に立ち上る。満月は恥じらう乙女のようにちぎれ雲の合間から覗き、あたかも天体そのものが、彼の代わりに最低限の慎ましい「配慮」をしようとしているかのようだった。

「ふううぅぅぅ……」至福のため息が漏れる。ミネラルたっぷりの湯にさらに深く身を沈める。「……絶妙な温度だ。完璧な夜だ。そして、己の壮麗さ以外に何も見えないこの完璧な景色よ」

彼は湯から手を上げた。ふやけてシワの寄ったその指は、尊厳という概念をとうに捨て去っている。傍らに浮かぶトレイの上、使い古されたノートに何かを書き殴る。湯気の中でもはっきりと読み取れるその表紙には、こう記されていた。

『精霊界のナイスバディたち — 第六十九巻』

「研究」というものをこの上なく真剣に捉えている男の速度で、ペンが走る。

その時——。

彼はあまりの速さで飛び起きたため、水飛沫が滝のように舞った。湯気に曇った眼鏡が、なぜかドラマチックな角度で月光を反射する。

「ほう……?」レンズの奥の目が、カッと見開かれた。「ようやく……ワシの愛くるしい罠に触れた者がおるようじゃな?」

劇的な沈黙。彼は顎をさすった。静かな夜に、思案に耽る「ジョリジョリ」という音が響く。

「へっ。手間取らせおって。タムの奴も焼きが回ったかと心配したぞい」

距離など微塵も感じさせない軽やかな所作で、近くの岩の上にゴミのように放り出されていた法衣を探り、中から小さな、光り輝く宝珠オーブを取り出した。

ピン、と指で弾く。宝珠が唸りを上げ、秘湯の上の空中に鮮やかな魔法地図を投影した。魔王城のあらゆる尖塔や影の回廊が、柔らかな青い光で精巧に描き出される。

そして、最下層の聖域。そこには不吉に、しかしどこか楽しげに点滅する「赤い点」があった。

サカタはニヤリと笑った。「起爆装置ブームトラップ、異常なし。遅延術式、正常稼働。デコイも作動して、可愛らしく振る舞っておる。……さて、もしザンドロスの奴が苛立って、あの馬鹿デカいバターナイフを本体に振り下ろそうものなら……」

彼はコメディ的な「間」を置いた。

「……ま、奴の眉毛には奇跡が必要になるじゃろうな。ついでに新しい顔面もな!」

彼は頭を後ろに反らし、高笑いした。狂気じみたその哄笑は湯煙の立ち込める池に響き渡り、近くの茂みで休んでいた小動物たちを飛び上がらせた。

「カァ?」と、困惑した鳥が鳴く。

だが、因果応報カルマはいつだって見ているものだ。

苔の生えた岩の上で、サカタの素足が滑った。

ドッポォォォォン!

泡の爆発とバタつく手足と共に、彼は水面下へと消えた。むせ返りながら這い上がってくると、岩の縁に一匹の小さなキツネが座っていた。なぜか肩に小さな手拭いを巻いている——どうやら、この世のどこかにあるこの場所では、それが完全に「普通」なことらしい。

キツネは首を傾げた。「……大丈夫か、ジジイ?」

サカタは顔の水を拭い、先程よりもさらに満面の笑みを浮かべた。「これ以上ないほど絶好調じゃよ、毛むくじゃらの友よ!」

彼は全裸であることなど微塵も恥じることなく、再び岩の上に陣取った。キツネは「見てはいけないものを見てしまった」者の尊厳を持って、目を逸らした。

「さてと、」サカタは呟き、なぜか岩場に三脚で固定されているブロンズ製の望遠鏡へ手を伸ばした。「どこまで行ったかのう? ああ、そうじゃ。今夜の『研究対象』は……」

彼はレンズを覗き込み、空へと向けた。「北天神殿のワルキューレ双子姉妹じゃったな。今夜は雲の庭園で修行中と聞いた。ワシの情報が正しければ、月光の下でエアロビクスをしておるはず……」

キツネは溜息をついた。

「断っておくが、これは純粋に学術的な目的じゃぞ!」望遠鏡を下ろすことなく、サカタは言い張る。「文化的な記録のためじゃ! 未来の世代に伝えてやらねばならんのじゃ、あの——」

バチッ!

小さなピンク色の電撃が、サカタの鼻を直撃した。

「あだっ!」彼は鼻を抱えて望遠鏡を落とした。「ワシの美しい鼻が! 唯一のチャームポイントがぁ!」

目の前に、親指ほどの大きさの妖精が姿を現した。胸の前で腕を固く組み、羽を苛立たしげに震わせている。その小さな顔は深い失望に満ちていた。

「サカタ!」その小さな声は、神がかり的な呆れを含んでいた。「十一ジューイチの次の試練の準備をしなさいって言ってるでしょ! 女神様を覗き見してる場合じゃないわよ!」

サカタは目をパチクリさせ、ようやく情報を処理した。「……十一?」彼は禿げ頭を掻いた。「ああー、はいはい。あの龍のギフトを授かった、常に困惑した顔をしておる火遊び小僧のことか」

彼は適当に手を振った。「あいつなら大丈夫じゃ。あやつにはワシの瞑想クッションより分厚い『プロット・アーマー(主人公補正)』があるからの。それに、未解決の親子の確執(ファザコン問題)まで抱えておる。あと一、二章分はそれで乗り切れるじゃろう」

妖精の目がピクピクと引き攣った。「……あなたは、神のお告げの歴史上、間違いなく最低最悪の預言者ね」

「それなのに——」サカタは滑りやすい岩の上で勢いよく立ち上がり、英雄的なポーズを決めようとした(が、実際には発作を起こしながら筋肉を誇示している男にしか見えなかった)。「——最高にセクシーなんじゃな、これが!」

キツネは小さな手拭いの影で、微かにえずいた。

妖精は鼻の付け根を押さえた。その小さな体でやるには、なかなかの離れ業である。「……休暇が必要だわ、私」

「ワシも連れて行ってくれー!」苛立ちのポップ音と共に消えた妖精を、サカタが追いかける。

秘湯に静寂が戻った。月はゆっくりと空を渡り続け、湯気は穏やかに立ち上り続ける。キツネは、自分の人生のどの選択がこの瞬間を招いたのかを自問し続けていた。

サカタは満足げな溜息と共に再び湯に浸かり、浮かんでいたノートを回収した。もう一度だけ光る宝珠に目をやり、点滅する赤い点を確認する。

「……干渉、完了。刻の流れ、遅延。魔王、足止め成功」満足げに頷く。「これで二、三章分は平和な時間が買えるじゃろう。修行のモンタージュシーンを挟む余裕くらいはあるはずじゃ」

彼はノートの新しいページを捲った。

「さて。次の大きな戦いの前に、第七十巻を書き上げねばならんの……」

ペンを手に、彼は湯船で背を伸ばした。月光が彼の裸体に反射し、それは後にキツネの夢を数年にわたって苛むことになる光景であった。

カメラは情け深く、ゆっくりと上方へとパーンしていく。

星々の方へ。

平和な空へ。

……足元の光景以外、なら何でもいい、そんな場所へと。

つづく

(……誰かがこのエロジジイを仕事に引きずり戻した後に。)


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