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第31話:血脈の鎖

【ステータス更新 (Status Update)】

名前: 中村十一 (Juichi Nakamura)

種族: 人間 / レベル: 28

クラス: 炎風の戦士 (Flame-Wind Warrior)

スキル: 武術極意 Lv.10 (MAX)、全武器習熟、風属性極意 (MAX)、火属性親和 Lv.6、虚無属性親和 Lv.1

新スキル: 紅蓮の火 (Blazing Fire) — 攻撃に爆発的な炎ダメージと持続火傷を付与。

称号: 火竜の継承者、境界を歩む者、荒ぶる炎の友

 空気は刺すように冷たかった。夜明け前の影に身を潜める十一ジューイチの吐息が白く弾ける。足元には幽霊のような朝霧が立ち込めていた。目の前のハラセンの拠点は、城というよりは岩山を残酷に切り出した巨大な影の塊だった。

 十一は視界に浮かぶ青いステータス画面を眺めた。数値は大きくなり、新しい力が皮膚の下で第二の鼓動のように脈動している。だが、サクラが消えた時に胸に空いた穴は、力だけでは埋まらなかった。

「私たちはもう友達じゃない。さよなら」

 彼女の最期の言葉が、クナイのように鋭く脳裏をよぎる。十一はリスト元を締め、黒い手袋の感触を確かめた。

「待ってろよ、サクラ。今、連れ戻してやる」

【ハラセンの本拠地 ― 大広間】

 ハラセン一族の本拠地は、規律と厳格さの象徴だった。

 サクラは一人、祭壇の前に立っていた。正面には兄、レンジ・ハラセンが座り、捕食者のような冷たい目で彼女を見下ろしている。彼は妹を見ているのではない。逃げ出した「資源」を見ているのだ。

「五年間も失踪し、無理やり連れ戻されてようやく帰還か。ハラセンの名にどれほどの泥を塗ったか分かっているのか?」

 レンジの言葉は正確で、鋭い。サクラは何も答えない。沈黙こそが彼女の最後の武器だった。

「ハラセンは個人の気まぐれで成り立っているのではない」影から長老が掠れた声で言った。「忠誠と犠牲。お前はその両方を汚した」

「貴様の魂に刻まれた火竜の刻印がなければ、一族の系譜からその名を抹消していたところだ」と、別の老婆が吐き捨てる。

 レンジが立ち上がった。「贖罪の道は一つ。六道リクドウ家に嫁げ。その政治力こそが我が一族の次世代の繁栄を約束する」

「お断りよ」サクラの声が広間に響く。

「貴様に拒否権などない。貴様の人生は一族のものだ」

【拠点の外縁 ― 松の巨木の上】

 城壁を見下ろす松の枝で、十一は身を潜めていた。隣ではサカタが腕を組み、退屈そうに立っている。

「で、それがお前のマスター・プランか? 突っ込んで、何人かぶっ飛ばして、『仲間だ!』とか叫んで、ドラマチックに脱出するってのか?」

「……そう言われると、えらく単純に聞こえるな」

「単純じゃねえ、馬鹿なんだよ」

「いいだろ! 熱意だよ、熱意!」

 サカタは溜め息をつき、鼻梁を指で押さえた。「なんで俺がこんな自殺志願に付き合わなきゃならねえんだ」

「あんた、根は優しいからだろ?」

「ハズレだ」サカタの口角が、凶暴で楽しげに吊り上がる。「俺が本当の『計画』を持ってるからだよ。ガキ、派手に行くぜ」

【要塞内部 ― 大広間の爆発】

 静寂を破ったのは、叫び声ではなく、鼓膜を揺らす**大爆破(BOOM)**だった。

 重厚なオークの扉が、火炎と煙と共に内側へと吹き飛んだ。長老たちが悲鳴を上げ、戦士たちが抜刀する。レンジが即座に立ち上がり、その冷徹な顔を怒りに染めた。

 渦巻く煙の中から、聞き覚えのある、苛つくほど陽気な声が響く。

「特別配達だ! 頑固なガキ一人と、最高にハンサムで少し不機嫌な先生のお届けだぜ!」

 サクラの息が止まる。晴れゆく煙の中から、十一が歩み出た。

 彼の周りで火の粉が怒った火垂るのように舞い、足元には風の奔流が渦巻いている。彼は……変わっていた。より鋭く、より強く。その後ろから、サカタがまるで近所の茶屋にでも入るかのように、肩についた燃えカスを払いながら現れた。

「よお」サカタが気だるげに二本指を立てて挨拶する。「お取り込み中悪いな。外から見てたら退屈そうだったからよ」

「あんたたち……正気じゃないわ」サクラは声を震わせた。

「かもな」十一はサクラと視線を合わせ、力強く頷いた。そしてレンジに向き直り、首を鳴らす。「だが、お前を置いていく気はねえ」

 レンジが階段をゆっくりと降りてくる。その一挙手一投足に殺気が籠もる。「神聖な広間を汚したな。貴様、死に場所を選びに来たか」

「そんなことより大事なことがあるんだ」十一の声は低く、だが重みを湛えていた。「伝統よりも大事な人がいる。仲間のために立つ。……それだけだ」

 レンジの瞳が琥珀色の光を放つ。「……衛兵。処刑しろ」

 十数本の刀が鞘を離れる音が響く。十一は迷わず構えを取った。サカタに叩き込まれた、夢にまで見たあの構え。彼の背中で交差した二本の短剣に手が伸びる。

 サカタは肩をすくめた。「お前はいつも一番面倒な道を選ぶなあ」

「俺らしくていいだろ!」

 十一は前進するハラセンの戦士たちを見据え、深く息を吐いた。

「……一族を壊しに来たんじゃない。戦争をしたいわけでもない。俺はただ、友達を連れ戻しに来たんだ」

 短剣を引き抜く。その瞬間、鋼が発火した。

 ただの光ではない。飢えた獣のような**「紅蓮の火(Blazing Fire)」**が吹き荒れる。炎は彼の手首まで舐め、石の床を黒く焦がした。

 彼は燃え盛る刃を構え、揺らめく熱気の向こうで言い放った。

「……それでも止めるって言うなら」

 熱風と灰の旋風が十一の周りで巻き起こり、髪を激しくなびかせる。

「――来いよ。相手になってやる」


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