第25話:孤高の僧侶と折れた刃
太陽が低く沈み、城下町の南の平原を黄金色に染め上げていた。風が吹き抜け、木壁や酒場の看板に貼られた手配書を揺らす。そこには太い赤字で同じ名前が刻まれていた。
【指名手配:サクラ・ハラセン。火竜の担い手。賞金:金貨 500,000 枚。生け捕りに限る】
十一は東門を飛び出し、怒りと混乱を抱えながら土道を駆け抜けた。世界が仲間に牙を剥いた――その事実が、彼の心を逆撫でする。答えなしに納得などできるはずがなかった。
前方、風化した岩山の上に一人の影が静かに立っていた。ボロボロの衣を纏い、腰には折れた刀。広い麦わら帽子が、その鋭い片目に影を落としている。
サカタ・ブッダだ。
「罠に向かって突っ込んでるぜ」彼は落ち葉のような軽やかさで飛び降り、呟いた。「あいつの名前を叫べば、暗殺者が道を教えてくれるとでも思ってるのか?」
十一は急停止し、反射的に背中の剣に手をかけた。「……何者だ、あんたは」
サカタはニヤリと笑った。「お前と同じ場所にいた男さ。違いを教えようか? 俺は突っ込む前に、聞くことを覚えた」
「どけ」
「断る」
「なら――!」
言いかける前に、木々が爆発した。
鋼の悲鳴。切り裂く風。影が亡霊のように動く。
三人の暗殺者。彼らは完璧な連携と沈黙を持って、死の一撃を放った。
一人目が頭上から降り立ち、双剣で十一の喉を狙う。
十一は後方へ飛び、土を削る刃を間一髪でかわした。一息で剣を抜き、次の瞬間には振り抜く。半月刀を操る二人目の暗殺者と空中で激突し、火花が飛び散った。
十一は斬撃を潜り抜け、相手の脇腹を蹴り上げる。男がよろめいた。
だが、三人目――こいつが真の脅威だった。
無音の足運び。気配すらない。そこにあるのは「死」そのもの。
「後ろだ!」サカタが吠えた。
十一が咄嗟に旋回する。喉元を数インチの差で鋼が通り過ぎた。
彼は受け流し、全身から紅蓮の波のような武力(Martial Aura)を放った。その衝撃波が、暗殺者の均衡を崩す。
だが、サカタはすでにそこにいた。
流水のような動き。躊躇もなければ、無駄な飾りもない。
一歩。
一閃。
――シュンッ
折れた刃が空を鳴らし、男が斬られたことに気づく前に、すでに鞘に収まっていた。
一瞬の後、暗殺者の胴体が真っ二つに裂け、血飛沫が地面を叩いた。
十一は目を見開いた。「……あんた、一体何なんだ?」
サカタは振り返らない。「ただの『遺物』さ」
立ち直った二人目が、怒号とともに十一へ突進する。少年は正面から迎え撃ち、剣と剣が激突する音は戦鼓のように鳴り響いた。
「お前らに構ってる暇はないんだ!」
十一は身を低くし、肩に掠る刃を無視して、炎の拳を男の顎に叩き込んだ。
ドォォォォン!!
暗殺者は吹き飛び、木に激突する前に意識を失った。
最後の一人が逃げようとする。
「逃がすか!」十一は叫び、地面を蹴った。逃げる男にタックルをかまし、みぞおちに肘を叩き込む。男は血を吐きながら崩れ落ちた。
サカタがその傍らにしゃがみ込む。「……吐け」
「何も……言わん……」男は唇を血で濡らし、嘲笑う。「あいつはもう……東の『死風の要塞(Deadwind Fortress)』へ連れて行かれた……」
十一が凍りつく。サカタの目が暗く沈んだ。「……紅蓮シンジケートか?」
男が頷く。
「なら、話は思ったより最悪だ。奴らはサクラの命じゃない。その血の中に眠る『何か』を狙ってる」
十一は拳を固く握りしめた。「……指一本、触れさせない」
サカタが立ち上がる。声は穏やかだが、鋭い。「なら、遅れるなよ。この『狩り』はまだ始まったばかりだ」
夕闇の中、僧侶と戦士は姿を消した。残されたのは死体と、風に乗って漂う戦争の予感だけだった。




