第24話:火炎竜の鎖
城下町の南へと続く土道は、緑の丘と森を切り裂く傷跡のように、長く空虚に伸びていた。朝の太陽が高く昇り、沈黙の中で歩く十一とサカタの背後に長い影を落とす。
十一の思考は燃えていた。
(なぜあいつは俺を突き放したんだ? なぜ、俺が何の意味もない存在みたいに振る舞ったんだ?)
いつもは軽口ばかりのサカタが、珍しく静かに乾燥果実を噛んでいた。かつてニヤついていた僧侶は今、落ち着き、集中した空気を纏って歩いている。
すると、サカタが突然足を止め、低く身をかがめた。「待ちなお嬢ちゃん……いや、十一」
「どうした?」
「足跡だ。五、六人……足取りが軽い。訓練された連中だ。ハラセンの『回収部隊』だな」
十一の鼓動が跳ね上がる。「じゃあ、あいつらがサクラを!」
サカタは痕跡を追いながら頷いた。「それに、紅蓮シンジケート(Crimson Syndicate)も片付けられたようだな。ほら」
彼が放り投げたのは、紅蓮の紋章が刻まれた血まみれの腕章――鋭く切り裂かれていた。
「ただの連れ戻しじゃねえ。奴らはサクラを『所有物』として主張してる。賞金首のゴタゴタもすでに掃除済みだ」
十一の目が鋭く細まった。
彼は駆け出した。
サカタは溜め息をつき、気だるげなペースで後に続く。「熱いガキだ。……あいつにそっくりだな」
【森の広場 ― 炎と怒り】
霧が立ち込める松の木々に囲まれた、狭く険しい広場。その中心に、赤い髪を汗で濡らしたサクラ・ハラセンが立っていた。彼女の刀は、消えかけの炎を纏って微かに煌めいている。
彼女を囲むのは、黒と赤のハラセン・マントを羽織った四人の精鋭騎士。そして正面には、彼女の兄――レンジ・ハラセンが立っていた。紅蓮の瞳を持つ男の刀は、抑え込まれた熱気で唸りを上げている。
「十分に逃げただろう、サクラ」レンジが言った。「家へ帰るぞ」
「死んでもごめんだわ」サクラが地面に唾を吐く。
「貴様は炎のために生まれた。貴様は兵器なのだ」
「……かつてはね。でも、今は違う!」
突如、茂みが爆発したように弾けた。
「サクラ――ッ!!」十一が広場に飛び込む。
レンジの目が細まる。「また羽虫か」
「あいつを置いていく気はねえ!」
ハラセンの兵士二人が抜刀し、十一へ襲いかかる。
ガキィィン!
折れた刀が火花を散らし、その一撃を遮った。
サカタが半眼のまま前に出る。「おいおい、これが歓迎会か?」
「サカタ……ついてきたのか?」
「当たり前だろ。負傷したオーガみたいにドタドタ走りやがって」
ハラセンの精鋭が『第三陣形』へと移行する。炎の印を組み込んだ挟み撃ちの罠だ。
レンジが冷酷に命じる。「制圧し、捕らえろ」
「サカタ――!」
「十一、嬢ちゃんを連れて走れ」
「何だって!?」
「行けっ!」
サカタが踏み込む。その動きは空気のさざ波のように優雅で、そして致命的だった。彼は戦士たちの間を踊るように抜け、打撃を叩き込んでいく。
十一は躊躇したが、サクラの方へ向き直った。だが、一人の若い戦士がそれを阻む。
「彼女には触れさせない」
十一の拳に力がこもる。「フレア・ブースト――エンゲージ!」
低く鋭いダッシュ。肩を刃がかすめるが、止まらない。炎を纏ったアッパーカットが、男を宙へと跳ね上げた。
【DING!】
LEVEL UP!
Name: Juichi Nakamura
Level: 12 → 13
New Skill Gained: 烈火掌 (Blazing Palm) [Rank F+]
十一は荒い息をつきながら、倒れた戦士を見下ろした。「……次だ」
だが、彼が一歩踏み出す前に。「やめて……もうやめて!!」
サクラの声が戦場を切り裂いた。彼女はよろめきながら二人の間に割って入り、両手を広げた。
「お願い……もういいの。十一、サカタ……逃げて」
「何を言ってるんだ!?」十一が叫ぶ。
「殺されちゃうわ! お願い……少しでも俺のことを想ってくれるなら、行って!」
サカタが十一の隣に現れた。衣には返り血がつき、瞳はかつてないほど真剣だ。「……こいつは本気だぜ、坊主」
レンジがサクラの手首を掴んだ。十一が飛び出そうとするが、サクラは首を振った。
「お願い」
十一の拳が震える。……そして、彼は拳を下ろした。
レンジの冷たい声が響く。「賢い選択だ、妹よ」
レンジは彼女を連れ、森の奥へと消えた。
十一はその場に膝をついた。サカタが彼を見下ろした。
「……あの子は自分を差し出して、お前を救ったんだ。無駄にするなよ」
地面から呻き声が漏れた。十一が倒した兵士だ。十一はその襟首を掴み、唸った。
「あいつをどこへ連れて行く……答えろ!」
「……北の要塞だ……『煌めきの谷』を抜けて……」
サカタが首を鳴らした。「道は分かったな」
十一が立ち上がる。その拳の周りで、炎が激しく踊り始めた。
「……行くぞ」
僧侶がニヤリと笑った。「ようやくドラゴンらしい面構えになってきたじゃねえか」
二人の影が森の闇へと消えていく。真の戦いは、ここから始まる。




