第23話:灰と風
雲の切れ間から日が差し込み、ブッダ一族の古き遺跡をオレンジ色に染め上げていた。ひび割れた石柱は折れた指のように突き出し、その沈黙はあまりに重く、息苦しいほどだった。
ハルカは腕を組み、崩れた壁にブーツを預けて息を吐いた。「で、まだ彼女が来ると信じてるわけ?」
サカタ・ブッダは埃の中に胡坐をかき、鼻歌を歌いながら、頭の上で小枝のバランスを慎重に取っていた。
「彼女、ねぇ?」サカタが気だるげに応じる。
「誰のことか分かってるはずよ」ハルカが鋭い視線を送る。「サクラよ。火竜の娘。赤い髪で、怒りっぽくて、何でも爆破したがるあの子」
サカタはニヤリと笑った。「東方領土にいる冒険者の半分がその説明に当てはまるな」
「直感だけでこんな何もない廃墟まで俺を連れてきて、やってることは小枝遊び?」
「忍耐を養ってるのさ」サカタは目を閉じたまま答えた。「近頃じゃ、希少なスキルだからな」
ハルカは呆れて視線を古い石門へと向けた。「俺が養ったのは腰の痛みだけよ」
サカタが低く笑った――が、合図でもあったかのように風向きが変わった。ハルカが目を細める。「……感じた?」
空気が不自然に熱を帯び、乾燥し始める。何かがおかしい。遠くで炎が爆ぜる音がした。魔法でも元素の暴走でもない、制御された、意志のある炎。
サカタの目がカッと見開かれた。
「……誰か来たな」
二人は立ち上がり、本能を研ぎ澄ませた。砂利を踏む足音が響き、霧の中から一人の伝令が馬に乗って現れた。彼は息を切らし、埃にまみれ、急いでいる様子だった。
「あんたが『僧侶』か?」
サカタが頷く。「僧侶だよ。どの僧侶を探してるかによるがな」
伝令は彼に向かって巻物を投げ渡した。「クライロード・ギルドからだ。至急、王国全土に配布されている」
地面に落ちた巻物が広がる。ハルカが覗き込み、そして凍りついた。
巻物の最上部には、深紅の封印が押されていた。――【賞金首通告(BOUNTY NOTICE)】
そこには、シンプルだが紛れもない肖像画が描かれていた。
サクラ・ハラセン ― 火竜の担い手
賞金:金貨 100,000 枚
「王冠に対する罪、および反乱工作の疑い。破壊的な火炎魔法を使用。極めて危険。殺傷許可(Lethal force authorized)。」
そして下部には、小さなインクでこう殴り書きされていた。
「貴様の首に骨を(A bone for your head)」
「……一体何なの、これは?」ハルカの唇が引き締まる。
サカタの顔から笑みが消えた。その声は低く、冷たかった。
「奴らはもう、ドラゴンを狩ってるんじゃない。人間を狩ってるんだ」
サカタは遠くの空、山の向こうで微かに光る街を見つめた。
「誰かが、この家(国)を焼き尽くせる唯一の女の背中に、標的を描きやがったな」
「彼女が何かしたと思う?」ハルカが拳を握りしめる。
サカタはすぐには答えず、ただその手配書を見つめていた。
「いや」彼はようやく口を開いた。「……だが、誰かが彼女に『何か』をさせようとしている」




