第20話:銀の月の下の約束
城下町の重厚な門が軋みながら開き、十一とサクラは混雑した通りを抜けていった。任務は完了した――。だが、二人の間には落ち着かない沈黙が流れていた。彼らが手にしているのは、公爵の裏切りの証拠だけではない。まだ見ぬ強大な敵が潜んでいるという、不穏な知識だった。
サクラの手には封印された巻物があった。その中身は、一国を滅ぼすに足る禁断の魔法の証。世界をひっくり返しかねない真実だ。
二人は冒険者ギルドへと向かった。扉の上で揺れる剣と盾の紋章は、自分たちが守るために戦っているこの世界を象徴していた。
使い込まれたオーク材のデスクの向こうには、ギルドマスター・バリストンが座っていた。彼の鋭い眼光が二人を射抜く。
「……戻ったか」バリストンが重々しい声で言った。「ただの報告以上のものを持ってきたようだな」
サクラは彼の前に巻物を置いた。
「これが、あなたが求めていた証拠です」
バリストンは身を乗り出し、眉をひそめて古の封印を調べた。彼の表情が険しくなる。「……とんでもないことをやってのけたな。これは城下町の根幹を揺るがすことになるぞ」
報酬の準備が命じられる中、十一とサクラは短く視線を交わした。二人は知っている。公爵はただの駒に過ぎない。真の黒幕は、未だギルドの手の届かない場所に隠れているのだ。
外に出ると、涼しい夜風と共に街の明かりが二人を包んだ。
「終わったわね……ひとまずは」サクラが静かに言った。
十一の瞳が鋭くなる。「ああ。この戦いは終わった。だが、本当の戦争はこれからだ」
二人は自分たちの家、「竜の休息亭」へと向かった。
窓から漏れる温かな光は、深まりゆく夜の中で灯台のように輝いている。入り口では、アリラが興奮した様子で手を振っていた。
「お兄さん! おかえりなさい!」
中に入ると、リライアが柔らかな微笑みで迎えてくれた。テーブルには、焼きたての肉、パン、そして新鮮な果物が並んでいる。
静かな祝杯が始まり、笑い声が少しずつ戦闘の重圧を溶かしていった。部屋は家族の安らぎと希望に満たされていた。
十一はグラスを掲げた。
「俺たちの成功と……未来に乾杯だ」
サクラも微かに微笑む。「そして、道中で出会った仲間たちに」
ここ数日で初めて、夜が安全なものに感じられた。
【回想:数時間前、ブランヒルド市にて】
「十一……俺から一つ、頼みがあるんだ」エドガーが厳かに言った。
十一が振り返る。「……何だ?」
隣では、ミラがエドガーの手に自分の手を重ねて静かに座っていた。
「あんたは俺たち二人を救ってくれた。この恩は一生かかっても返しきれない」エドガーが続ける。「だが、俺たちの未来を繋ぎたいんだ。もし運命が許すなら……約束してくれ。いつか、あんたの子供と俺の子供を結婚させると」
十一は不意を突かれ、瞬きをした。だが、一瞬の躊躇のあと、彼は笑った。
「……分かった。その約束、受けよう。運命が望むなら、俺たちの子供を一つにしようじゃないか」
暖炉の火がパチパチと温かく爆ぜ、その柔らかな光の下で二人の約束は封じられた。
外では、銀色の月がブランヒルドを照らし、いつか運命の進路を形作るであろうその誓いの無言の証人となっていた。
つづく




