第17話:裏切りの糸
エドガー・ローランは、自分が引き起こした混沌の中、入り口で立ち尽くしていた。
響き渡る剣戟の音。
十一とサクラは、まるで鬼神のごとく衛兵の間を駆け抜け、圧倒的な速度と暴力で彼らをねじ伏せていく。書斎の外では、廊下になだれ込んできた兵士たちを見て貴族たちが悲鳴を上げていた。
そしてエドガーは……ただ、それを見ていることしかできなかった。
(俺は……なんてことをしてしまったんだ)
両手が激しく震える。脳裏にはあの魔法の宝玉に映った、縛られ恐怖に怯える妻の姿が焼き付いて離れない。彼は歯を食いしばり、その場に踏みとどまった。
(仕方がなかったんだ、と俺は自分に言い聞かせた。あいつらか、それともあいつ(妻)か……選ぶしかなかったんだ!)
そう自分に言い聞かせても、胸の内で何かが音を立てて砕けていくのを感じていた。
十一は、本気で戦ってさえいなかった。
野生の炎のように動き、鼻で笑いながら、重厚なハルバードを数センチの差でかわしていく。サクラの瞳には冷徹な怒りが宿っていたが、そこには憎しみはなかった。ただ、落胆だけが……まるで、最初からこうなることを知っていたかのような冷ややかさだった。
エドガーに向かって刃が振るわれた。彼は身をすくめたが、それは空を切った。
彼は彼らの標的ですらない。狙う価値さえないのだ。
「そこをどけよ、おっさん!」十一が斬撃の合間に、不敵な笑みを浮かべて吠えた。「払い切れないような太刀筋を食らっちまう前にさ!」
こんな時でも……彼は冗談を言う。
エドガーが彼らを売り飛ばした後だというのに。
その罪悪感は、どんな刃よりも深くエドガーを突き刺した。
廊下の突き当たり、影の中から一人の人物が監視していた。エドガーにあの呪われた最後通牒を突きつけた、フードの男だ。
一瞬だけ、二人の目が合った。沈黙の警告。
(……終わらせろ。さもなくば、女は死ぬ)その眼差しがそう語っていた。
エドガーの拳に力がこもる。
暴力、怒号、恐怖。世界が激しく回転する中で、彼はもはや避けられない「分岐点」に立たされていることを悟った。




