表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
17/19

第16話:偽りの微笑みの夜

ブランヒルド市をランタンの光が包み込み、ラインハルト公爵邸の二晩目の宴が始まった。庭園からはハープの音色が流れ、貴族たちの笑い声とグラスの触れ合う音が響いている。

 十一ジューイチは屋敷の大広間の大理石の柱に寄りかかり、一口も飲まずに赤ワインのグラスを揺らしていた。

「今日も今日とて、金持ちのフリか」十一が低く呟く。「もっとデカい帽子でも被ってくるべきだったかな」

 隣に立つ紺色のドレスを纏ったサクラが彼をたしなめる。「……集中しなさい」

「してるって。……自分がどれだけ退屈してるかに、な」

 今夜の任務は明確だ。公爵の私室に近づき、闇の軍勢ダークアーミーとの結託を示す証拠を掴むこと。

 エドガー・ローランが、いつもの無害な微笑みを浮かべて近づいてきた。「衛兵の交代が終わりました。西棟の警備が手薄です」

「ようやくか」十一は柱から身を離した。「本番といこうぜ」

 三人は手際よく、だが自然な動作で群衆を抜けた。十一が酔った貴族の相手をして目を逸らさせている間に、サクラが衛兵から鍵を盗み出す。エドガーの案内で、タペストリーの裏に隠された使用人用の通路へと滑り込んだ。

 西棟の薄暗い廊下に入ると、会場の喧騒は厚い石壁に遮られ、自分たちの足音だけが響いた。

「こちらです」エドガーが重厚なオーク材の扉へと導く。

 サクラが盗んだ鍵を差し込み、扉が開いた。そこは古い書物や巻物が並ぶ壮麗な書斎だった。中央の机には書類が散乱し、奇妙な黒いインクで書かれた地図が置かれている。

 当たりだ。十一とサクラは手早く書類を精査し始めた。公爵の封印が押された書状、隠された同盟者の名前、そして闇の軍勢の紋章をつけた傭兵への支払い帳簿。

「これよ……。これで奴を告発できる」サクラが興奮を抑えて囁いた。

「楽勝だったな」十一がニヤリと笑う。

 だが、その時――。

 ガチャン!

 背後の重い扉が激しく閉まった。

 十一が振り返ると、そこには内側から鍵をかけるエドガーの姿があった。

「エドガー?」サクラが困惑の声を上げる。

 エドガーの顔から微笑みは消え、その瞳は氷のように冷たかった。

「……すまない」エドガーの声は低かった。「私にも、守らなければならない家族がいるんだ」

 影の中から武装した衛兵たちが現れ、クロスボウの矢先を十一とサクラに向けた。

 十一は溜め息をつき、掴んでいた書類を空中に放り投げた。「……展開が早すぎるだろ」

 エドガーは二人の目を見ることなく、背を向けた。「許してくれ……」

 十一は指の関節を鳴らし、サクラに笑いかけた。「どうやら、本当のパーティーが始まるみたいだぜ」

 サクラはドレスの下から短刀ダガーを引き抜いた。「……ぶち壊してやるわよ」

裏切りの序曲:エドガーの悪夢

 その数日前、ブランヒルドのうらぶれた宿の一室。エドガーは一人、冷えたワインカップの縁をなぞりながら絶望の中にいた。

 十一たちが去った直後、彼の背後に冷たい気配が立ち込めた。

「面白い連中を囲っているようだな、商人」

 声の主は黒いローブを纏った男。エドガーの目の前に、不気味な紋章が刻まれた羊皮紙が突きつけられた。

「お前の妻だ。彼女は我々の監視下にある。一歩でも間違った動きをすれば、彼女はこの世から消える」

 男が取り出した魔法の宝玉の中に、暗い部屋で縛られ、恐怖に目を見開く妻の姿が映し出された。

「なぜ……なぜ俺なんだ?」エドガーは声を震わせた。

「お前は奴らに近づける。それだけで十分だ。奴らの計画を流し、任務を遅らせろ。……それが終われば、妻は返してやる」

 エドガーは震える手で、闇の封印が押された手紙を握りつぶした。

 十一……サクラ……。彼らは俺を信じてくれた。

 だが、妻を見捨てることなんてできない。

 街の灯りが窓の外を照らす。今夜、運命の歯車が回り出す。

 裏切りの嵐が、静かに、だが確実に彼らを飲み込もうとしていた。

つづく


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ