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第15話:影の仮面舞踏会

仮面の男が残した手紙からは、鉄とラベンダーの香りが微かに漂っていた。上品だが、どこか不気味だ。

 十一ジューイチはそれを呪いの巻物のように掲げ、芝居がかった声で読み上げた。

「『ラインハルト公爵の屋敷には、貴族以上の何かが集う。三度目の乾杯に続け。黄金の蛇に用心せよ。赤の踊り子は知りすぎている』……これ、重要情報か? それとも悪役のポエムか?」

 サクラは十一の手から手紙をひったくり、裏面を調べた。「まだあるわ。ろうの下に暗号が隠されている」

 蒸気とナイフを使って炙り出されたのは、公爵邸の間取り図だった。舞踏会場の裏にある特定の廊下が強調され、『倉庫B』という場所に印がつけられている。その横には一言、『書類』とあった。

 エドガーが眉をひそめて地図を覗き込む。「その部屋はパーティーの間しか入れない。使用人が高級ワインの木箱を運ぶために使う場所だ。何かを隠すなら、チャンスは一度きりだな」

 十一は襟元を正し、不敵に笑った。「最高だ。ワインを啜りながら機密を盗むなんて、一度やってみたかったんだ」

 その夜、パーティーは最高潮に達していた。きらびやかなシャンデリアの下、仮面の貴族たちが優雅に踊っている。香水と政治の匂いにまみれた、嘘と笑い声が空気に満ちていた。

 十一とサクラは、商人エドガーの付き添いとして潜入していた。

「三度目の乾杯が来るわ。それが合図よ」サクラが耳元で囁く。

「恋愛小説みたいな格好でワインセラーに忍び込むなんて、笑えるな」

 三度目の乾杯と共に、二人は気づかれぬよう会場を抜け出し、廊下へと滑り込んだ。

 舞踏会場の喧騒が遠のき、冷たい石壁と微かな蝋燭の光が二人を包む。地図にあった倉庫の扉には、鍵がかかっていた。

「私が開けるわ」サクラが細い針を取り出す。

「へぇ、サクラ。あんたにできないことはないのか?」

「黙ってなさい」カチリ、と音がして鍵が開いた。

 中には高級ワインの木箱と、埃を被った書棚が並んでいた。樽の裏に隠された密封ケースの中に、それを見つけた。公爵の封印が押された『機密取引承認書』だ。

 サクラが書類をめくる。「……これは記録ね。武器の輸送ルート……その一部が反乱軍の領地を経由しているわ」

「あいつ、闇の軍勢ダークアーミーに武器を流してやがるのか」十一の声が低く、真剣なものに変わった。

 廊下から足音が響く。「誰か来るわ!」サクラが鋭く言う。

 十一は書類を掴み、蝋燭の火を消した。「ずらかろうぜ」

 ワインラックの裏に隠された使用人用の通路に滑り込み、埃と蜘蛛の巣の中を這い進んで、二人は夜空の下の庭園へと脱出した。

 宿に戻った後、十一はベッドに飛び込み、戦利品の書類を誇らしげに振ってみせた。

「いやぁ、楽しかったな。これからはもっとパーティーをぶち壊しに行こうぜ」

 対面に座るサクラは、書類の一枚を蝋燭の火にかざして凝視していた。

「これはただの記録じゃないわ。見て……この名前が何度も出てくる」

 十一が覗き込む。彼の余裕の笑みが、ゆっくりと消えていった。

「――ヴァルグロス将軍。闇の軍勢ダークアーミーの最高司令官……か」


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