第11話:明かされる真実
十一の呼吸は浅く、速かった。自分を抱きしめる女性――その震える腕、確かな温もり。彼女はただの他人ではない。
彼女こそが、俺の母さん。
リライア・レッドウッド。海人の妻であり、かつて軍を率いた女王。そして、信じることを決して止めなかった一人の母親。
十一にとって、その感覚は圧倒的だった。長い間、彼の胸には穴が開いていた。母親の愛情など過去に埋もれたものだと言い聞かせてきた。しかし、この異世界で、彼は本物を見つけた。心に築き上げていた壁が、音を立てて崩れ去った。
「十一」彼女は彼の顔を包み込み、囁いた。紅色の髪が絹のように二人の間に流れる。「突然で驚いているわよね……でも、ずっと待っていたの。この世界で、私はあなたの父親を愛した。そして、あなたは……私の息子なのよ」
十一の唇から、壊れそうなほど脆く、溜め込んできた感情のすべてがこもった言葉が漏れた。
「母さん……」
それまで沈黙していたアリラが、ゆっくりと前に出た。その声は震えている。「待って……じゃあ、それって……あんた、本当に――私のお兄ちゃんなの?」
十一は彼女の目を見た。母親譲りの鋭い、炎のような瞳。だが今は不安に揺れている。
彼は迷わずアリラを抱き寄せた。「ああ……そういうことらしい。俺たち、家族なんだな」
アリラは一瞬身を硬くしたが、すぐに彼にしがみついた。「バカ」彼女の声が裏返る。「……何でそんなに時間がかかったのよ」
「今、ここに来たから」十一は静かに言った。
リライアは涙を拭い、微笑んだ。「ええ……お帰りなさい」
失ったものが多い三人が、二度と手に入らないと思っていた絆を取り戻した瞬間だった。
だが、十一には聞かねばならないことがあった。「母さん……どうして俺だと分かったんだ?」
彼女は一つの指輪を掲げた。銀色の表面が、微かな魔力で輝いている。「最後の戦いの前、お父さんがこれをくれたの。彼の魔力が宿っていて、竜の血を引く者が近づくと反応する。あなたを見た瞬間、感じたわ。あの人と同じ炎を」
十一の心臓が跳ねた。「じゃあ、俺のこの力は――」
「――お父さんから受け継いだものよ。彼は遺産だけでなく、強さをあなたに残したの」
十一は腰を下ろした。すべてが重く肩にのしかかる。
リライアは彼の隣に座り、記憶を辿るように話し始めた。「戦いの後、多くの者が海人は死んだと信じた。でも私は知っていたわ。この指輪が脈動している限り、彼はどこかで生きていると」
彼女は誇りと悲しみが混ざり合った目で十一を見た。「私は答えを探して各地を巡ったわ。そして、仏一族の遺跡を見つけた。カグラ・ブッダ……彼が真実を教えてくれたのよ」
「俺もそこへ行った。そこで竜に会ったんだ。『万能竜』に」
リライアは目を見開いた。「万能竜……?」
「俺に力を託すと。強くなれば目覚めると言われた」
リライアの表情が真剣なものに変わった。「なら、もう始まっているのね……」
彼女は深く息を吸った。「カグラ・ブッダは、誰にも言わなかったことを教えてくれたわ。海人がこの世界に来たのは……『間違い』だったのよ。本当に召喚されるはずだったのは、あなただったの」
十一は凍りついた。「俺……?」
「ええ。計算違いだった。ポータルはあなたを連れてくるはずだったけれど、お父さんがそれを『遮った』のよ」
「それで……親父が代わりにこっちに来ちまったのか」
「ポータルは12年から13年に一度しか開かない。カグラは言ったわ。次はあなたの番だ、と」
十一は拳を握りしめた。そうだったのか。運命が彼を引き寄せたのではない。運命は、彼をずっと待っていたのだ。
「……なら、俺がここにいるのには理由があるんだな」彼は力強く言った。「最期までやり遂げてやるよ」
リライアは微笑んだ。「あなたは海人の息子だもの。当然よ」




