第10話:宿命の再会
十一は、クリロードの活気ある通りを縫うように歩いていた。市場の喧騒が耳をかすめる。懐には仮の身分証(ID)があり、次の目的地は決まっている。「冒険者ギルド」への登録だ。
(集中しろ、十一。ギルドに入り、強くなって、親父を見つけるんだ)
だが、輸入物の「火炎唐辛子」を売り歩く商人の横を通り過ぎた時、鋭い叫び声が空気を切り裂いた。
「その汚い手を離しなさい!」
十一の視線が路地裏へと向く。そこには、赤髪の少女を囲む男たちの姿があった。少女の瞳は残り火のように赤く燃え、怒りに震えている。
十一は迷わず踏み出した。「おい! その子から離れろ」
悪党たちが、獲物を見つけた狼のようなニヤケ顔で振り返る。「あ? なんだ、ガキのヒーローごっこか?」
「……お前らの最悪な一日の始まりだよ」十一の目が鋭く光る。
最初の一人が突っ込んできた。十一は低く潜り込み、サイドステップから鳩尾へ強烈な一撃を叩き込む。男は濡れた紙のように崩れ落ちた。次の一人が短剣を抜くが、十一はその手首を掴み、膝蹴りを脇腹に沈めた。
「素人が……」十一が呟く。
最後の一人、体格のいい男が魔力を帯びた「狩人の剣」を抜いた。
「死ね、クソガキ!」
鋭い斬撃。だが十一は速かった。風を髪にかすめながら潜り込み、強烈なアッパーカット。怯んだ隙に、鮮やかな回し蹴りが男の顎を捉えた。
ドゴォォォン!
リーダー格の男は木箱の山へと吹き飛び、意識を失った。
静寂が訪れる。
「……やるじゃない」
赤髪の少女が腕を組み、不敵な笑みを浮かべていた。「ひょろっとした新人の割にはね」
「どういたしまして」十一は袖の埃を払った。
「私はアリラ・レッドウッド。あんたは?」
「十一だ」
その直後――グゥゥゥゥ――と十一の腹が盛大に鳴った。
アリラは瞬きをし、そして豪快に笑い飛ばした。「あっはは! ヒーローもお腹は空くってわけ? ついてきな、お礼に昼飯を奢ってあげる。うちの家族がすぐそこで宿をやってるの。――『竜の休息亭』って言うんだけど」
その宿屋は、旅人の夢を形にしたような場所だった。
「クリスティーヌ! お客さんよ!」アリラが声をかける。
カウンターの奥から現れたのは、銀髪にダークエルフの耳を持つ長身の女性だった。鋭い眼差しが十一を捉える。
「また旅人かしら?」クリスティーヌが眉を上げた。
「この人が悪党をぶっ飛ばしてくれたの。お礼に何か食べさせてあげて」
十一が席に着くと、湯気の立つシチューとパンが運ばれてきた。一口食べると、全身の緊張が溶けていくような、懐かしい「家」の味がした。
ふとカウンターに目を向けた十一は、凍りついた。
そこには、古びた写真立てがあった。
中に写っていたのは、色褪せたマントを羽織り、あの優しく見慣れた微笑みを浮かべる男。
十一は震える指でその写真に触れた。
「……親父?」
背後でドアが激しく開く音がした。
トレイが床に落ちる音。十一が振り返ると、そこには一人の女性が立ち尽くしていた。
燃えるような深紅の髪。黄金色の瞳が十一を射抜いている。
彼女の唇が震えた。
「十一……?」
言葉は必要なかった。彼女は瞬きする間に距離を詰め、十一を力強く抱きしめた。
必死で、切実で、温かい。
「……母さん?」
リライア・レッドウッドは、彼が本物だと信じられないかのように、その背中を強く掴んだ。
この世界に来て初めて、十一は「余所者」ではないと感じた。
胸の中の炎が、再び激しく燃え上がった。
これは単なる新しい章ではない。
さらに巨大な運命の始まりだった。




