第1話 降りられない時間
プロローグ
幼いころ、降りられない“寿命へのジェットコースター”に乗せられたような恐怖を知った。
あの日から、世界の仕組みと「なぜ生きているのか」という問いは、心のどこかで途切れず続いている。
何気なく過ぎる日常の裏側には、誰も気づかない真実が静かに潜んでいる。
それに触れるきっかけは、いつだってふとした会話や、小さな出来事の積み重ねだ。
これは、私がその“裏側”へと足を踏み入れるまでの物語である。
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第1話 降りられない時間
幼いころから、私は「時間」というものに、どこか得体の知れない恐怖を抱いていた。
きっかけは四歳のとき、母の知り合いのお葬式に連れていかれた日のことだ。
人はいつか必ず死ぬ──その事実を初めて理解した瞬間、私は“降りられないジェットコースター”に乗せられたような感覚に襲われた。
どれほど目をそむけても、時間は勝手に進む。
止まってほしいと願っても、誰もブレーキを踏めない。
夜、布団の中で天井を見つめながら、そのことを考えるだけで胸がぎゅっと縮んだ。
静かなバスの中でもふいに思い出し、窓の外を眺めながら、どうしようもない不安に包まれた。
──この世界は、いったい何でできているんだろう。
──人間はどこから来て、どこへ行くんだろう。
そんな疑問が、やがて私の“思考の癖”になった。
誰に話しても理解されないことは知っていたから、口には出さなかった。
代わりに、静かに考え続けた。
なぜ私だけが生きていて、なぜ私の意識はここにあるのか──。
今思えば、その恐怖と問いかけこそが、私を研究の道へ導いたのだと思う。
人間の体や宇宙の本を読み漁った小学生のころから、その延長線は今も続いている。
その“癖”は、大人になった今も変わっていない。
たとえば今日も、研究室の帰り道、電車の窓に映った自分の顔をぼんやり眺めていたときのことだ。
ふと、見慣れた景色の奥に、かすかな“ずれ”が見えた気がした。
──なんだろう、今の。
日常は正しく動いているはずなのに、ほんの少しだけ噛み合っていない。
そんな奇妙な違和感が胸に残った。
気のせいだろう。
そう思いながらも、私は無意識にスマートフォンの時計を確認していた。
秒針の動きが、いつもよりわずかに遅い気がしたのだ。
もちろん、そんなはずはない。
物理法則は、個人の感覚に合わせて変わったりしない。
──それでも、あのとき感じた違和感は消えなかった。
家に帰ると、妻の**朋美**が「おかえり」と笑った。
その声で日常へ戻れた気がして、私はようやく肩の力を抜いた。
しかし──
あの“ずれ”は、ほんの始まりに過ぎなかった。
この日常の裏側にある何かが、少しずつ動き始めていることに、私はまだ気づいていなかった。




