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第1話 降りられない時間

プロローグ


幼いころ、降りられない“寿命へのジェットコースター”に乗せられたような恐怖を知った。

あの日から、世界の仕組みと「なぜ生きているのか」という問いは、心のどこかで途切れず続いている。

何気なく過ぎる日常の裏側には、誰も気づかない真実が静かに潜んでいる。

それに触れるきっかけは、いつだってふとした会話や、小さな出来事の積み重ねだ。

これは、私がその“裏側”へと足を踏み入れるまでの物語である。


***


第1話 降りられない時間


 幼いころから、私は「時間」というものに、どこか得体の知れない恐怖を抱いていた。

 きっかけは四歳のとき、母の知り合いのお葬式に連れていかれた日のことだ。

 人はいつか必ず死ぬ──その事実を初めて理解した瞬間、私は“降りられないジェットコースター”に乗せられたような感覚に襲われた。


 どれほど目をそむけても、時間は勝手に進む。

 止まってほしいと願っても、誰もブレーキを踏めない。

 夜、布団の中で天井を見つめながら、そのことを考えるだけで胸がぎゅっと縮んだ。

 静かなバスの中でもふいに思い出し、窓の外を眺めながら、どうしようもない不安に包まれた。


 ──この世界は、いったい何でできているんだろう。

 ──人間はどこから来て、どこへ行くんだろう。


 そんな疑問が、やがて私の“思考の癖”になった。

 誰に話しても理解されないことは知っていたから、口には出さなかった。

 代わりに、静かに考え続けた。

 なぜ私だけが生きていて、なぜ私の意識はここにあるのか──。


 今思えば、その恐怖と問いかけこそが、私を研究の道へ導いたのだと思う。

 人間の体や宇宙の本を読み漁った小学生のころから、その延長線は今も続いている。


 その“癖”は、大人になった今も変わっていない。


 たとえば今日も、研究室の帰り道、電車の窓に映った自分の顔をぼんやり眺めていたときのことだ。

 ふと、見慣れた景色の奥に、かすかな“ずれ”が見えた気がした。


 ──なんだろう、今の。


 日常は正しく動いているはずなのに、ほんの少しだけ噛み合っていない。

 そんな奇妙な違和感が胸に残った。


 気のせいだろう。

 そう思いながらも、私は無意識にスマートフォンの時計を確認していた。

 秒針の動きが、いつもよりわずかに遅い気がしたのだ。


 もちろん、そんなはずはない。

 物理法則は、個人の感覚に合わせて変わったりしない。


 ──それでも、あのとき感じた違和感は消えなかった。


 家に帰ると、妻の**朋美ともみ**が「おかえり」と笑った。

 その声で日常へ戻れた気がして、私はようやく肩の力を抜いた。


 しかし──

 あの“ずれ”は、ほんの始まりに過ぎなかった。


 この日常の裏側にある何かが、少しずつ動き始めていることに、私はまだ気づいていなかった。

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