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耳が良すぎてラブコメ主人公にはなり得ない‼︎  作者: 繭住懐古
chapter1《主人公とヒロインズ。それと俺》
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1-3〈新入生は……〉

始業式の翌日。入学式の日。我らが冠雪一高(かんせついっこう)にピカピカの新入生が入ってくる。


校門から体育館へと向かう道を、シワひとつないパリッとした制服を着た若人わこうど達が緊張した面持ちで歩いていくその様子を、俺は教室の窓から見下ろしていた。


「なー!見ろよ、あの子!あ、あの子も!可愛い子多いな〜今年は豊作だぜ!」


そんな声を上げてはしゃぐ俺に、志賀しがが呆れたような声をかけた。


「何をやってんだよ全く……一年生を品定めしてんじゃねーよ」


芳一ほういちくんらしいなあ……」


そう言ってクスクス笑いながら、余呉よごが俺の隣に来た。


「ねえ、芳一くん的にはどの子がタイプ?」


「良い質問だねぇ……」


俺は唸りながら、眼下の生徒達を凝視した。


「例えばあの子とか!」


「お、綺麗な黒髪ロングだね。美人さんだ」


余呉が納得したように頷いた。俺はさらに探し続ける。


「それと、あの子も良いねえ」


「髪が明るいギャル系だね。入学初日なのに、すでに制服を着崩してる。というか、さっきの子と全然タイプが違うじゃん!」


「それにあの子も良い!」


「うわ、スタイル良!グラビアとかで人気が出そうだなあ……」


「それとあの子も——」


言いながら俺は、今しがた指差した女子生徒の顔をよくよく見た。大人しそうな眼鏡っ娘だ。その野暮ったい眼鏡で隠されてはいるが、よくよく見ると清楚な和風美人である。なるほど、確かに俺好みのタイプの子なのだが、その顔には見覚えがある。俺の妹の友人。小学校からの幼馴染である雫石しずくいしみおちゃんだ。


と、言うことは、だ。恐る恐るその澪ちゃんの隣を見る。やはりそこには俺の妹がいた。俺は思わず顔を顰めた。


「どうしたの?」


隣の余呉が聞く。その質問に答えようとした瞬間、澪ちゃんに向かって熱心に何か喋っていた我が妹が、ふと視線を上げた。その視線はちょうどピッタリと、上から覗いていた俺の目と合ってしまった。


「あーっ⁈」


妹は信じられない大声を上げて、俺を指差した。周囲の新入生達が驚いた顔で妹を見る。


「何こっち見てんだよ芳一ーっ‼︎」


妹が怒鳴る。俺も負けじと怒鳴り返した。


「うるっせーよ芳子かおるこ‼︎良いだろ見てたって!」


「良くないし!どーせクソ兄貴のことだ、誰か可愛い子いないかなーって物色してたんだろ⁈」


「よく分かったな!さすがは我が妹!」


「とーぜん!でも、油断しないことだね……深淵を覗く時、深淵もまたお前を覗いているのだ‼︎」


「お前、まさかこっちを覗き返す気か⁈」


「できないと思うでしょ……?甘いな!その油断が命取りだぜ!」


「おもしれぇ、やれるものならやってみろや‼︎」


そう叫んだ俺の頭を、黒姫くろひめが丸めた教科書で引っ叩いた。


「うるっさい!変な先輩がいるって新入生が怖がっちゃったらどうするの⁈」


「いや、あいつが始めたことだぜ⁈」


「なるほど、あの子が芳一くんの妹さんか〜」


余呉がクスクスと笑う。


「可愛い子じゃん」


「生意気なやつだよ」


頭を軽くさすりつつ、俺は我が妹をジトリと見た。


「なに睨んでんだよ芳一ー!自業自得だろー⁈」


そう言ってから芳子は、黒姫に向けて大きく手を振った。


叶恵かなえ先輩ー!久しぶりでーす!」


「芳子……あんたも変な子と思われて友達できなくなっちゃうよ!」


「大丈夫!私可愛いので!」


謎の自信を掲げて芳子はガッツポーズをした。


「覚悟してください!私が来たからには、この学校における叶恵先輩の天下も今日までです!」


「まったくもー、相変わらずね……」


そう言って、黒姫は困ったように小さく笑った。


俺と黒姫は小一からの腐れ縁。だからこそ、黒姫は俺の妹とも交友があるのである……と、いうかむしろ黒姫×俺より黒姫×芳子の方が関係性は深い。二人は中学時代における生徒会長(黒姫)と生徒会書記(芳子)という間柄である。ちなみに我らが主人公、志賀光輝は庶務であった。


「かおるちゃん、目立ってる、目立ってる」


澪ちゃんが静かに言う。彼女は黒姫の元で生徒会副会長を務め、そして俺達が卒業した後は会長になったと聞いている。


彼女の声は小さい上にここから距離もあるので、聞こえたのは隣にいる芳子と、耳の良すぎる俺くらいなものだろう。


「志賀先輩に嫌がられちゃうかも。悪目立ちすると」


澪ちゃんのその言葉に、芳子は過剰に反応した。


「どぇぇぇぇ⁈それは困る!」


「『どぇぇぇぇ』って……もっとこう、お淑やかな驚き方とか……」


「困るでございますわー!」


「かおるちゃん、分かってる?『お淑やか』の意味……」


芳子を諌めつつ、澪ちゃんは上から覗いてる俺達の方を見上げて小さく会釈をした。俺も手を振ってそれに応える。


「お、芳子と澪か。久しぶりだな」


俺の横から顔を出した志賀が、そう二人に声をかけた。芳子の顔がパッと明るくなった。


「志賀先輩ー!あなたのことが、好きでーす!」


「かおるちゃん……?」


堂々とした公開告白であった。周囲の目がより集まる。


こりゃあ、高校でもあいつの悪目立ちは確定だな。


「え?なんだってー?悪いもう一回!」


志賀が聞き返す。距離もあるし、さっき突風も吹いて木々の揺れる音もあったしで、いまいち聞こえなかったらしい。あと難聴系だし。


負けじともう一度叫ぼうとする芳子の口を、澪ちゃんが塞いだ。ナイス。


「かおるちゃん……えっと、その、『アナゴのトロは、寿司でーす!』って言ったんだよね?そうだよね」


無理のある誤魔化しであった。


「え?なんだってー?」


これも聞こえない。まあ、澪ちゃんは声が小さいから仕方がない。俺が伝えてあげることにする。


「アナゴのトロは寿司に限るってさ」


「アナゴにトロなんかあるのか?」


知るか。


それから二人は、入学式の式場へと進んで行った。

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