7話 宝箱発見!
いい事をした後は気分がいい。幸いにしてあの人……ミスズさんが助かって良かった。まぁ私がした事は適当に魔法を使っただけなんだけど。
(……にしても)
思い出すのは、ミスズさんが私の出した結晶を使ってその場から消えた光景。あれは一つ一つ私が確認したから分かってる。あの中にそれらしいものは無かったって。
でもミスズさんが触れた瞬間、ふわりと中に何処かの風景が浮かび上がったのが見えた。私が触れた時にそんな物は出なかったし、それは他の結晶も同じ。つまりその事から分かるのは、私にそれを扱う資格がないということで。
(んー…詰んだ)
当てもなく彷徨くにはこの洞窟は広すぎるし、例え私が食べ物を必要としないと言っても現実的じゃない。
ならミスズさんに案内して貰えばとも思ったけれど、もう一度会える保証は無いしそもそもミスズさんが徒歩での帰り道を知っているかも分からない。一瞬で帰る手段があるのなら、また戻ってくる手段もあるはずだからね。そうでもしなきゃこんな広大な洞窟には潜れないでしょ。
外に出るというのは一旦保留するしかなさそうだと思い、ゴロンと草原に寝転がる。まぁ私にはこの拠点があるし、問題無いと言えば問題は無いのだけれど。
(身の振り方を考えないとね)
折角人間と交流出来たのだから、これを続けていくのも手だ。もしかしたら何時か外に連れ出してくれる人が現れるかもしれないし。
ただ問題があるとすれば……言葉が通じない事だろうか。ミスズさんは瀕死かつ装備無しという事もあって襲いかかって来なかったけれど、他はどうなるか分からない。
……まぁ私は多分大丈夫だろうけど、つい軽く反撃してうっかり相手の命を奪ってしまっては大変だ。そうなれば最後、人との融和はまず望めなくなるだろう。
(どうしよっかなぁ~)
またミスズさんみたいに瀕死になっている人を助けてもいいけれど、そう都合良く会う事もないだろう。
(仲良くなるには…プレゼントとか?)
見ず知らずの人と仲良くなるなら、やっぱりプレゼントを用意して警戒心を和らげるのが一番だと思う。今の私にプレゼント出来る物なんてこの結晶か此処に成ってる果物くらいだけど、元々結晶はその為に集めていたようなものだから幾らでも出せる。
(一方的な関係は歪みそうだから、物々交換とかいいかもね)
大きな狼さんの営む秘密のお店。うん、聞こえは良いんじゃないかな? ……それを言葉を使わずに理解して貰うのはかなり困難を極めるだろうけれど。
こんな事ならミスズさんから文字でも教えて貰えば良かったと嘆く。ここが地球かどうかは未だに分からないし、言葉は理解出来たけれど文字まで通じるかは分からないもん。
試しに爪を使って、ミスズさんから貰ったアヤメという名前を日本語で地面に刻んでみる。うん、普通に片仮名だ。
(取り敢えずこれで通じるか試してみようかな)
何事も挑戦だ。挑まなければ何も始まらないのだから。
草原から起き上がり、ググッと伸び。もうこの身体にも慣れてきたし、行動範囲を広げるところから始めよう。そうすればもっと人と出会う機会があるかもしれない。
たったかたったか拠点を抜け出し、宛もなく洞窟を彷徨って行く。道は一応覚えてはいるけれど、多分戻ってはこない気がしている。面倒だし。そんな思い入れも無いし。
(…あー、でも水竜と会えなくなるのはちょっと寂しい?)
私が以前地底湖で助けた水竜の子。あれからもちょくちょく遊びに行ってたりはする。まぁ今生初めての友達ではあるから離れるのは寂しいけれど、それ言ってたら何処にも行けなくなるからね。
せめて私に転移みたいな魔法が使えれば良かったのだけれど、生憎上手くいかなかった。他の事は大体出来るのに謎である。
(おっ、上り坂だ)
以前会った三人組の会話からして私が今いる場所はかなり深いみたいだから、上に上がればもっと多くの人と出会えるかもしれない。
いつ出会っても良いように耳を立てながら進むと、早速聞きなれない足音を捉えた。でもその方向に向かって進むと、そこに居たのはちょっと大きめな二足歩行する豚。多分オークとかって呼ばれる魔物かな。
(ハズレ〜…)
期待した存在ではないけれど、出現する魔物の種類が変化したのは僥倖かもね。だってこの洞窟の環境が変わったって言えるから。今まではゴブリンか蜥蜴しか見なかったんだよね。
オークの横を通り抜けて、その先にあった二手の分かれ道は右へ。そうして順調に進んでいくと、ふと横の壁に違和感を覚えた。
(んー……?)
それが何かは上手く言葉に出来ない。でも確実に“おかしい”と私の本能が訴えかける。
ゆっくりの警戒しながらその違和感を覚えた壁へと鼻先を近付けていくと……コツンとぶつかりそうになった鼻先がニュっと壁にめり込んだ。
(ッ!?)
思わずビックリして飛び退く。でも何か他に変化が起きる様子は無くて、恐る恐るもう一度近付いて、今度は前脚を差し出してみる。するとまたしても壁にめり込んだ。これは……
(偽物の壁…?)
えぇい、女は度胸! と覚悟を決めて壁に向かって飛び込む。すると私の身体は何の抵抗も感じないまま壁へと吸い込まれて……次に私の視界に映ったのは、なんと金で縁取られた大きな宝箱だった。
(宝箱だ!)
どうやら偽物の壁の先は小部屋となっていたようで、その奥に宝箱は鎮座していた。だが油断は禁物。こういうのは直前に罠が仕掛けられている事もあるんだから。…映画の受け売りだけど。
(ミミックだったらどうしよ…)
宝箱に擬態する魔物として有名なミミックがこの世界に居ないとは限らない。まぁ今の私なら例えミミックでも問題は無さそうだけど。
慎重に慎重に近付いて、コツンと鼻先を宝箱の蓋へとぶつける。でも何の反応もない。そのまま力を掛けていけば、簡単にガタッと蓋が開いた。白い歯みたいなのは見えなかったから、少し安心しながら最後まで蓋を開く。すると中に入っていたのは、数本の小瓶のようなもの。
(回復薬的なものかな?)
鑑定する力なんてないから、これが何なのか分からないのが歯痒いね。まぁ毒々しい色合いって訳でもないから、多分回復薬みたいなのだろう。
入っていたのは、緑色の液体に満たされた小瓶が五本。そして赤い液体に満たされた小瓶が三本、計八本の推定回復薬。色が違うのは効能が違うのか、効力が違うのか……まぁ私は使わないから関係無いか。
(あ、でもこれも商品になるかも?)
取り敢えず折角拾ったものなので回収しておく。こうして宝箱を探して、その中身を集めるのもありかもしれないね。ある意味で私が無害だって、言葉無しに証明する事が出来る物になるかもだし。
よーし、探すぞー!