24話 暇になった狼さんと勘付く人達
ミリアさん達と過ごし始めて少し経った頃。ミリアさん達が何時になく真剣な様子で支度を整えていた。
「ではアヤメ。直ぐに戻ってきますので、ちゃんと待っていてくださいね?」
何度も何度も言われた言葉に頷いて返す。ちゃんと待ってるから。やっぱりリードを繋いでとかブツブツ言わないでいいから。もし付けたら引き千切るよ?
ちなみにそもそもなんでこんな事になっているかというと……どうにも今日はミリアさん達が全員帰らなきゃならない用事があるらしいのだ。まぁずっと閉鎖空間に居るというのも辛いしね。でも全員で帰るっていう事はつまり、私を一人残していくという事だ。だからミリアさんが心配するのも分かるけど、ちょっと心配し過ぎだよ。
「じゃあ行ってくるわね。その石が三回橙色に変わった頃、戻ってくるから」
そう言ってアリーシャさんが指差したのは、私の首から掛けられた石。淡い橙色に染まったそれは、なんでも外の時間と同期したものなのだとか。つまり今外は昼で、夜になると青く染まるそうだ。つまり三回変わるって事は三日経つって事だね。
「怪我すんじゃねぇぞ。まぁアヤメなら大丈夫だろうが」
「お土産買ってくるからな」
ガレフさんのお土産かぁ……ちょっと楽しみなような、怖いような……。
別れを惜しむミリアさんをアリーシャさんが引き摺って消えていくのを見送り、ふむと考え込む。意図せず三日も暇になってしまったから、色々と出来そうではあるんだけど……ここに戻ってくる事を前提として考えるなら、そう遠くまでは出掛けられない。道は覚えられるんだけどね。
(水竜ちゃんのとこいこっかなぁ)
三日もあればそこまでは戻れるだろう。そうと決まれば早速行動開始だ。確かこっちの方だったはず。
(あっ、そうだ。宝箱も探してみよっと)
当時そんなものがあるとは知らなかったから見付けられなかっただけで、きっと私が元いた下の方にも宝箱はあるはず。それも下の方ほどモンスターが強くなるって聞いたし、なら今の階層よりも良い物が出てくる可能性が高いよね。ちょっと楽しみだ。
姿を消して駆けて行くと、最近この階層にも冒険者が増えたなぁと思う。だって普通にすれ違うし。でも安全地帯の方には全然来てないんだよね。何でかな…あっ、手助け要ります? はいべちんと。怪我は…無いね? じゃあこれで。ばいばーい。
◆ ◆ ◆
アヤメと別れ、私たちは外へと戻って来ています。本当は離れたくなんてありませんでしたが、これは冒険者としての義務なので仕方無いのです。
というのも迷宮は魔力に満たされた閉鎖空間であるという事で、長居すると魔力酔いに陥ってしまうのです。故に最大滞在期間が定められており、その期間内に一度全員でギルドまで戻って報告する義務があります。その後は三日以上の休息も必要で、中々にきっちりと定められたルールなのです。
「私とアリーシャは前に出ましたし、問題無いのでは…」
「出たと言っても半日くらいでしょう。それじゃギルドは認めてくれないわ」
「むぅ……」
「それにミリアが無視して居座って魔力酔いで倒れたら……アヤメはどう思うかしらね?」
「っ……」
それを出されると何も言えません。アヤメには心配を掛けたくありませんから……。
兎も角迷宮から出てきたという事を報告する為と、回収した結晶や素材を売却する為に冒険者ギルドへと向かいます。
ギルドの中に入ると、何やら少し人が多いように感じます。何か報酬の良い依頼の情報でもあったのでしょうか?
「あっ、アリーシャさん!」
「久しぶり…って言ってもそこまで経ってないわね。にしてもその間に随分と人が増えたみたいだけど、何かあったの?」
「その件についてギルド長から呼び出しがあるんです。今良いですか?」
「え? ええ、構わないけど……」
ギルド長との面会希望は比較的多いですが、ギルド長から呼び出されるというのも珍しいですね。
目的は何か分かりませんが、取り敢えず聞けば分かるという事でギルド長室へと向かいます。すると既に話は通っていたのか、直ぐさま中へと通されました。
「帰ってきて早々悪いわね。ちょっと聞きたい事があって」
「聞きたいこと?」
「ええ。実はとある冒険者を探しているのだけれど…それが八十階層付近での目撃例が多くてね。基本そこを探索しているアリーシャ達なら何か分かるんじゃないかと思って呼ばせてもらったの」
「あぁ、そう言う……」
冒険者を探して欲しいという依頼は、その目的は何であれ意外と多いです。今回の場合はギルド長自ら探しているようですし、ちょっとどんな人物なのか気になりますね。
「でも話を聞くにしても、その冒険者について教えてくれないと何も分からないわよ?」
「それなんだけど…実は殆ど分からないの」
「「分からない…?」」
アリーシャと二人して首を傾げます。探しているのに分からないのですか……?
「ええ。なんでも対処しきれないモンスターに襲われた時に助けてくれて、怪我した人が居ればポーションを譲ってくれるのだけれど、誰一人その姿を見た人はいないの」
「助けてくれて……」
「ポーションを譲る……」
ギルド長の言葉を反芻しながら、思わずアリーシャと顔を見合せます。なんだか何処かで聞いたような話です、ね……?
「……助けるって言うけど、それってつまり代わりに倒してくれるって事?」
「ええ。鋭い爪に切り裂かれたような感じだったって。恐らくは風魔法系統の攻撃だと思うわ」
「……ポーションはどのように譲られたんです?」
「いつの間にか地面に置かれていたそうよ。基本は初級ポーションで、たまに中級もあったとか」
「「………」」
聞けば聞くほど私の中の仮説がどんどん立証されていきます。それはどうやらアリーシャも同じようで、呆れたように額を押さえて深い溜息を吐きました。
「……時間帯は?」
「そうね…大体深夜帯や明け方が多いかしら。詳しい時刻は分からないけれど、刻石の色がそのくらいだったそうよ」
「……成程。成程ねぇ……はぁぁぁぁ……」
あぁっ、とうとうアリーシャが両手で顔を覆って俯いてしまいました。……まぁそうしたくなる気持ちも分かりますけどね。
「えっ、これで誰か分かったの?」
「ええ大体ね。本人に聞かないと分からないけれど……まぁほぼ確定でしょうねぇ」
「ですねぇ。まぁ彼女らしいとは思いますよ」
元々の出会いも私を助けてくれたところからですから、アヤメらしいと言えばらしいですね。
「彼女…?」
「もっと正確に言えば“雌”ね」
「雌……?」
アリーシャの助言にさらにギルド長が疑問符を浮かべたのが分かり、思わず苦笑してしまいました。
「ええ。……前に私たちがクーリアに報告しにきた内容、覚えてる?」
「前…えぇっと、確か人の言葉を理解する友好的なモンスターと接触したって……えっ、そういう事!?」
流石にここまでヒントをだせば、ギルド長も言わんとしている事が分かったようです。でも未だに信じられない様子で、その予想通りの反応に思わず四人で頷きます。
「そんなにお人好しなの…?」
「お人好しというか、人が好きって感じよね」
「えぇぇ……?」
「私達との出会いもそんな感じですし、まず間違いないかと」
「……ほんとにモンスター?」
それについては私も自信がありませんね……なにせアヤメは本当にモンスターらしくないですから。
「はぁぁ……つまり探している冒険者は存在しなくて、正体はそのモンスター…アヤメって言ってたわね。その子が冒険者を助けていた、と」
「まっ、そういう事になるな」
「……頼んでいた訳じゃないのね?」
「頼んだ覚えは無いわ。アヤメは夜寝ないみたいだから、暇潰し感覚で助けているんでしょうね」
「……まぁ、助けてくれるのなら有難いけども。となるとアヤメ本人にこちらからポーションを卸して、それを配ってもらうっていうのもありかしら…?」
「あら。良いわねそれ。隠れたお店みたいで」
アリーシャの言葉に思わず頷きます。アヤメみたいな大きくて優しい狼が営む不思議なお店……想像するだけでワクワクします。あぁ…もうアヤメに会いたくなってきました。
「一先ず事情は把握しました。次に迷宮に戻る時は教えてくれる? 私もアヤメに会ってみたいわ」
「勿論。会ったらきっと驚くわよ」
なんだか話が大きくなりましたが、これでアヤメがより多くの人に受け入れられるようになるかもしれません。そう考えると嬉しく思いますが……同時にちょっと寂しい気持ちにもなってしまいますね。




