23話 外の人の困惑
アヤメがミリア達と出会い共に過ごし初めてから少し経った頃。冒険者ギルドは今日も何事も無く平穏な空気が流れていた。それはギルド長たるクーリアの部屋も同じで。
「暇だけど何も無い方が良いのよねぇ…」
と言いつつも書類を書く手は止まっていない。この冒険者ギルドは支部である為、本部に報告する書類を作成しなければならないのだ。ただそれでも冒険者の生死に関わる報告や迷宮の異常に関する報告が無いだけ仕事内容は少なく、暇という言葉にそこまで偽りはなかったりする。
そんなクーリアだったが、突如として響いた扉をノックする音に手を止めた。
「ギルド長。面会希望が来ております」
「分かったわ。通して」
ギルド長との面会は冒険者としての些細な相談事も多いが、大抵の場合はおいそれと話せない内容を相談する為に行われる。
クーリアからの許可が出たことで、少ししてからその面会を希望した人物達が部屋へと入ってきた。
「良く来たわね。座って」
「は、はいっ」
何処と無く緊張した面持ちで促されたソファに腰掛けた冒険者達を見る。やって来たのは比較的若い男三人組のパーティーで、クーリアの記憶していた限りでは、そこそこ中堅の冒険者パーティーだったはずだ。
「さて。じゃあ早速話を聞きましょうか」
「はいっ。その…実は俺たちも良く分かっていないのですが…」
「うん?」
「先日ガルナメリア大迷宮に潜った時の事です。転移の罠を踏んでしまい普段より深い階層へ飛ばされてしまって……」
ガルナメリア大迷宮に限らず、迷宮には総じて罠が存在する。その種類は様々だが、転移の罠はその中でもかなり凶悪な部類だ。何せほぼ必ずと言っていい程に、自分達が今居る階層より深い場所に飛ばされるのだから。
「そこでもう死ぬかと思った時、突然目の前のオーガが切り裂かれたんです」
「ふむふむ…」
「一瞬別のモンスターが来たのかと思ったんですけどその姿は無くて……それどころかポーションまでいつの間にか置かれていたんです。多分他の冒険者が助けてくれたんだとは思うんですけど…誰が助けてくれたのかが分からなくて……」
「成程。つまりその冒険者を探して欲しいという事ね?」
「はい。ポーションの代金を払いたいですし、お礼もしたいですから」
冒険者は基本自己責任の世界だ。しかしだからこそ受けた恩は必ず返す。それが冒険者にとっての暗黙の了解であり、同時に矜恃でもある。
その気持ちは当然元冒険者であるクーリアも持っているものであり、言い分は理解出来た。
「事情は分かったわ。その階層は分かる?」
「大体八十階層付近でした。姿は見えなかったのでそれ以外の情報が無いんですけど……」
「いえ十分よ。八十階層付近まで潜れる冒険者は少ないもの」
とはいえこの街のギルドに所属する冒険者かどうかは定かではない。もし違う街、もしくは国の冒険者であった場合は、見付けるのは困難を極めるだろう。だがこそはギルド長としての腕の見せどころだ。
その後も何か気になった事や気付いた事がないかを事細かに聞き出してメモしつつ、現在このギルドに所属している冒険者に該当する人物が居ないかも確認していく。
(うぅん……まぁそう都合良く見付かったりはしないわよねぇ)
内心でこれは時間の掛かりそうな依頼だと思いつつ、それは表に出さないようにして話を聞き終えた冒険者達を見送った。
……が、また直ぐその後にまたしてもノック音が。
「ギルド長、面会希望です」
「今日は随分と多いわね…通して」
面会希望は普段そこまで多くない。だがまぁそういう日もあるかと思い、許可を出して面会希望者を通した。そうして入ってきたのは冒険者の男女二人組。リア充爆発しろとかは思っていない。ないったらない。ちなみにクーリアは独身である。
「じゃあ早速聞きましょうか」
「はい。その……私たちを助けてくれた冒険者を探して欲しいんです。姿は分からないんですけど、ポーションを置いていってくれて……」
「……ん?」
なにやら先程も聞いたような気がする出だしに首を傾げつつ、取り敢えず話の続きを促す。するとクーリアの予想通り、ついさっき聞いた内容とほぼ同じような状況に会ったという事が分かった。
「貴方たちもなの…」
「もって事は他にも…?」
「ええ。それもついさっきね。貴方達と違うのは、出会った階層かしら」
三人組の方は八十階層付近であったが、この二人組が出会ったのは六十階層付近だと言う。
(かなり広いのよね…それも一日しか違わないみたいだし)
二十階層近くを約一日で踏破する事は理論上出来なくはない。ないが、ほぼ有り得ない。どれだけ時間を切り詰めたとしても十階層が限度だ。
(転移は一度帰還石で外に出ないと使えないし…)
ガルナメリア大迷宮は極めて広大な迷宮である為、各階層に転移する事が出来る機能が備わっている。だが転移は一度行った事のある階層にしか飛べず、それも五階層毎にしか転移陣は設置されていない。さらに言えば、外に設置された制御装置からしか転移出来ないという一番の制限がある。
一度帰還石を使って外に出たならば八十階層から六十階層に転移する事は可能だが、そんな手間のかかる上に無意味な行為はまずしないだろう。
「んー……取り敢えず外の転移記録を調べてみましょうか」
話を聞き終えた二人組を帰し、そう独り言ちる。手掛かりが殆ど無い今出来るのは、思いついた事や仮説を一個一個確認していく他ない。地道な作業になるだろうが、それでも無意味にはならないだろう。
そう思って走り書きしたメモを一瞥しながら、クーリアはギルド職員に対する伝言の為に部屋を出て行くのだった。
一体どこの狼さんなんだろうか……




