15話 布教はまだお預けです
私は大丈夫だと言ったのに、アリーシャに無理矢理連れてこられてしまいました……とても不服です。
「ほら、不貞腐れないの。貴方の為だって分かるでしょ?」
「うぅ……」
勿論それはちゃんと分かっているんです。分かってはいても、嫌なものは嫌なんですっ!
でもアリーシャは無情にも私の手を引いて、どんどんガルナメリア大迷宮から離されてしまいます。そこまでされれば漸く私も諦めがつきます。納得はしませんけど。
ガルナメリア大迷宮は莫大な富を産む場所であるが故に、その入口付近は総じて街として発展しています。なので此処を拠点として活動する冒険者も多く、かく言う私たちもまた此処を拠点としています。
アリーシャに連れられ、まず最初に向かったのは治療院と呼ばれる場所です。此処は冒険者ギルドが提携している施設で、複数人のお医者様が怪我や病気の診療をしてくれる有難い場所なんです。
冒険者と怪我は切っても切れない関係なので、治療院は連日大賑わいしています。とはいえ大きな怪我をした冒険者はそう多くないので、順番が直ぐに回ってくるのは良いところですね。
「えーっと、肩口からの裂傷ね。ポーションはどれだけ使ったの?」
「初級ポーションを五本、中級ポーションを三本よ」
「ふむふむ。ちょっと傷見せてねー。……うん、ちゃんと塞がってるし、歪みもないね。体内状況も……大丈夫だね。ただ少しポーションを使い過ぎだから、二週間くらいはポーションを使わない事」
「分かりました。ありがとうございます」
「お大事に〜」
思った通り問題はありませんでした。とはいえそこまでポーションを使っていたとは知らず、ならアリーシャがそこまで心配していたのも無理は無いかと納得します。ポーションは便利な物ですが、使い過ぎると却って危険になってしまいますから。
というのもポーションは万能薬という訳では無く、本人の自己治癒力を前借りするような薬なので、使い過ぎると身体機能に悪影響を及ぼす可能性があるんです。
「取り敢えず問題無いようで良かったわ」
「だから心配し過ぎなんですよ。私だって一応治癒士なんですから、異常があれば分かります」
「そう言って風邪を拗らせた前科あるでしょ」
……そう言われると反論出来なくなるじゃないですか。
治療院を出て、次に向かうのは冒険者ギルドです。私達冒険者が所属する場所で、迷宮の管理などを行っている機関でもあります。
「アリーシャ、アヤメの事はどうしますか?」
「それを迷っているのよね……」
アヤメは私の命の恩人……恩狼? なので、他の冒険者から敵だと思われて殺されるような事にはなって欲しくないです。なのでギルドにアヤメの存在を報告して、冒険者に周知してもらおうと思ったのですが……どうにもアリーシャは乗り気ではないようです。
「助けられた証拠が証言だけしか無い上、私達だってアヤメの事を完全に理解出来ている訳じゃないわ。だから絶対安全な存在だって大手を振って紹介する事は出来ないの」
「それは…」
「それにアヤメの存在が知られた時、アヤメを無理矢理テイムしようとする奴が現れないとも限らないわ」
「むぅ……」
テイムは本来相手を弱らせたり、そもそもの好感度が高くなければ成功しないものですが……アヤメは人が好きなようなので、知らず知らずの内にテイムされてしまう可能性があります。それは絶対に嫌です。
「だから一旦はギルド長に判断を仰ぎましょう」
「確かにそれが一番安心かもしれませんね」
ギルド長はギルドの統括責任者です。ギルド長は引退した冒険者がなる事が多く、此処のギルド長もその例に漏れません。その関係で私達も知り合いなので、相談相手としては最適な相手なんです。
冒険者ギルドはこの街の中でも比較的大きめな三階建ての建物で、一階には受付カウンター、二階には軽食と道具などが買える小さな売店。そして三階にギルド長の部屋があります。
まず私達は受付カウンターへと向かい、大迷宮で獲得した物の査定と換金を行います。アヤメから預かった結晶も結構な値段で売れたので、これで何か美味しいものをアヤメに買ってあげられますね。
後は大迷宮に潜る日数の目安を報告して、ギルド長と面会したいという旨を伝えました。
「ギルド長と面会ですね。今のところ他の予定はありませんので、直ぐに面会出来ますよ」
「じゃあお願いするわ」
幸運な事に待つこと無く面会出来る事となりました。ギルド長は責任者ということもありかなり忙しいので、こうして直ぐに会えるのは珍しいのです。
ギルド員の案内で三階へと上がり、ギルド長室の扉をノックします。そこで入室の許可を貰って中へ入ると、奥の机で何やら書き物をしていた女性が顔を上げて私達を迎え入れました。珍しいのですが、ここのギルド長は女性なんです。
「あらアリーシャじゃない。それとミリアも。どうしたの? 男二人組は居ないようだけれど…」
「二人はまだ大迷宮にいるわ。今日は少しクーリアに相談したい事あってね」
「ふむ…長くなりそうね。座って頂戴」
応接用のソファーへと促され、その間に手早くクーリアさんがお茶を用意してローテーブルへと並べます。
「じゃ、聞かせてもらいましょうか」
そこからは全てアリーシャにお任せしました。私が説明すると私欲が混じるそうなので……。
「人の言葉を理解するモンスターか…友好的であるのは幸いでしょうね」
「ええ。正直アヤメと戦っても勝ち目は無いだろうし、敵対していなくて本当に良かったわ」
「アリーシャ達でさえも敵わないと?」
「そもそも姿が見えないんだもの。ミリアは魔力の揺らぎが見えたそうだけれど、私には見えなかったから魔法使い全員が感知出来る訳でもないでしょうし」
そこは疑問なんですよね。何故私はアヤメを感じる事が出来たのか……まぁそのおかげでアヤメに会うことが出来たので、今となっては私の幸運に感謝していますが。
「うぅん…対応が難しいわね。直接ここまで連れてきてくれたら分かりやすいのだけれど」
「無茶言わないで。外を知らないモンスターを連れ出すには直接出口まで歩いて連れて来ないといけないのよ? 流石にしんどいわ」
「まぁそうよねぇ…分かりました。取り敢えずこの情報には箝口令を敷きます。私の仕事が落ち着いたら、こちらから会いに行ってみるわ」
「分かったわ。じゃあ私達はもう行くわね」
「あらもう行っちゃうの?」
「アヤメにお土産を買って行きたいのよ。二人も待たせているしね」
「随分と肩入れするのね…」
クーリアさんが少し呆れているように見えましたが、アヤメを一度見れば私達の気持ちも理解出来るはずです。
あのもふもふした毛並みに少し甘めの匂い……誰だって骨抜きにされるでしょう。抱き枕にすれば絶対売れます。
あぁ……思い出したら直ぐにでも抱き着きたくなりました。早くお土産を買って戻らなければ……!




