13話 昼寝しようぜ! お前枕なっ!
その後アリーシャさん達は現状の自分達の装備状況について話し合いを重ね、それが終わったタイミングで漸くミリアさんがお昼寝から帰還した。驚くぐらいぐっすりだったね。垂らした涎は見なかった事にするよ。私は優しい狼なので。
「ふわぁ……」
「あら。漸くお目覚めね」
「…アヤメの寝心地が良過ぎるのが悪いんです」
「アヤメのせいにしないの、全く」
ぷくぅっと不満げに頬を膨らませるミリアさんに、アリーシャさんが苦笑する。こちらとしては寧ろそう言ってもらえて嬉しいけどね。だってそれだけ私に心を許して、ゆっくり休む事が出来たっていう事だから。
「ミリアが寝ている間に色々と話をしておいたんだけれど、一先ず外に出る事にしたわ。貴方の容態もちゃんと調べた方が良いだろうしね」
「頗る健康ですよ?」
「それでもよ。貴方一応生死の境を彷徨ったっていう自覚ある?」
まぁアリーシャさん達の判断は正しいだろうね。特にアリーシャさん達は命のやり取りをする冒険者なのだから、体調には常に万全を期すべきだもの。
「……アヤメとお別れですか?」
「今はお別れになるわね。でも貴方の体調が万全になればまた潜れるのだから、会える可能性はあるわ」
「可能性ですよね? もう二度と会えない可能性もありますよね?」
「まぁその可能性もあるわなぁ…アヤメは此処で自由に生きてんだから」
「基本冒険者は出会いと別れを繰り返すものだ。それは仕方が無い」
「でも、でも…っ」
必死に食い下がるミリアさん。そんなに私から離れたくないの〜?
「久しぶりにぐっすり寝れたんです…っ!」
……うん?
「だからアヤメと居れば体調だって直ぐ良くなります!」
「すっげぇ暴論」
「だがミリアが最近不眠に悩んでいたのも事実だ。そうだろう?」
「そうだけど流石に無いわよ。私たちの事情を押し付けてアヤメを拘束するなんて有り得ないわ」
あれー? てっきり寂しいから離れたくないって事かと思ってたのに、なんか安眠グッズとしての役割を求められてるみたいなんですけどぉ?
「そうです! 私に安眠を提供する対価として、アヤメに美味しい食事を振る舞うのはどうでしょう? それなら一方的な関係になりませんし、アヤメにも利があります!」
「どの道拘束する事に変わりないじゃないの!」
ぎゃいのぎゃいのと女性二人が言い合いを始めてしまい、その口論から逃れてきたガレフさん達が私の方へと近付いて来る。あの間には流石に入れないもんね……。
「アヤメそっちのけで言い合いしてらぁ」
「まぁ満足するまで見守るさ。どの道アヤメが同意しない限り実現しない事だし、ミリアも流石にアヤメから拒否されれば諦めるだろう」
まぁそれはそうなんだよね。結局のところ私の意思次第だから。
うーん……もしこのままガレフさん達と行動を共にしたとして、その時のメリットとデメリットを考えてみようか。
まずメリット。美味しいご飯が食べられる。美味しいは正義だ。後は他の冒険者と遭遇した時、ガレフさん達に説明を任せる事が出来る。これも結構大きいメリットだね。
デメリットとしては……姿を消せない事かな。後は迂闊に戦いに参加出来ない。意思疎通が取れないから、下手すると巻き込んでしまう可能性がある。それに宝箱を探すのも出来ないかな。
ふむ……まぁ総合的に判断するなら、行動を共にする方が私にとってはメリットが大きいかな。特に他の冒険者に私が無害だってアピール出来るかもしれないというのは大きい。そこからクチコミで広がれば、安心して知らない人とも交流出来るようになるだろうしね。
「―――アヤメっ! アヤメはどうですか!?」
「ガゥ?」
「こちらから無理に何かを求める事は絶対にしませんし、一日三食しっかり提供しますし、その時以外は自由に行動してもらって構わないので、一緒に……一緒に行きませんか!?」
「ちょっとミリア!」
「グルゥ」
「……え、アヤメ?」
何やら信じられないとばかりにアリーシャさんが目を点にして私を見てきたので、しっかりと私の意志を伝えるようにゆっくり頷いて見せる。その瞬間ミリアさんの表情がパァァっと喜色に彩られ、それとは対照的にアリーシャさんの表情はどんどん青くなっていく。どったの?
「食事……お金……」
あ……成程。私がめっちゃ食べるから、その予想される出費に嘆いていたのね。
(それなら……)
ミリアさんは私に対する報酬として食事を提供するつもりみたいだけれど、正直ミリアさんの枕になるだけでそれは貰い過ぎだ。だから私からも食費くらいは出そう。
「わっ!? えっ、何!?」
突然虚空からボトボトと結晶が湧き出したからか、びっくりしたアリーシャさんがその場から飛び退いた。なんか反応が猫みたいだと思ったのは内緒。
「こんなに沢山…これは、アヤメが?」
「ガウッ!」
「つまりあれだろ。食費は自分で出すって言いたいんじゃねぇの?」
リンダさん話がわかるね。
「アヤメは賢いですね。よーしよし」
わしゃわしゃとミリアさんが私の頭を撫でる。そうでしょうそうでしょう。私は賢い狼なんですよ。
私がミリアさんの意見に賛同して、食費としての結晶も差し出したからか、とうとうアリーシャさんが折れた。イェーイとミリアさんと片足でハイタッチ。
「俺ら空気だな」
「安心しろ。いつもの事だ」
…あっ。ガレフさん達忘れてた。でもなんか仕方が無いなぁと言いたげに二人とも苦笑を浮かべていたから、女性陣だけで話が決まる事は珍しくないのかも。
「ただし一旦ミリアは私と帰るわよ。診察しなきゃ。あとギルドに報告もしなきゃダメね」
「えぇぇっ!?」
「ほらアヤメから離れる。リンダ、ガレフ、後をよろしくね」
「あー…そうなるのか」
「任せておけ。集合場所は此処でいいのか?」
「ええ。多分そう時間は掛からないから」
「うぅ…アヤメ! 直ぐ、直ぐに帰ってきますからね…っ!」
悲痛な表情を浮かべながらアリーシャさんに確保され、そのまま結晶の光に包まれて消えていくミリアさんを前足を振って見送った。バイバーイ。




