死ぬ直前に"死"を宣告しないでください
ジリリリリリリリ…
夜、不気味な程に電話がうるさく響く。
両親が事故で死んだ時、警察から連絡を受けた時と同じような感じだ。
まるで自分に何か不幸が降りかかるような---
そのような気持ちを抑えながら電話を手に取る。
「はい、もしもし。どちら様で」
「あ、沖田一鷹様でしょうか。こちら天界の者です。」
て、天界…?なんだ?迷惑電話か?
「迷惑電話ですか?だったら切りま---」
すると電話越しに慌てた彼女が口を挟む。
「ま、待ってください!!お伝えしなければならないことがあるんです!!」
伝えないといけないこと…?焦り具合からして相当重要なことなのだろうか…
ハハーン、分かったぞ。さては、俺がさっき助けた人からのお詫びの電話だな?
「それで、伝えたいことって…?」
「あなた…今から、トラックに轢かれて死にます」
「死…え、死って…冗談ですよね?あ、成程いたずらなんだな!?切るぞ!!」
「あ、待っ---」
なんだったんだ、今の電話は…子供のいたずらにしてはタチが悪いぞ…
全く…こんな真夜中に---
窓から眩い光がさしてくる。
え、トラック…
そう思った直後、トラックが家の壁を突き破り、自分を壁に向かって押し潰す。
「あ、があ、ががが」
最後に見る景色がトラック運転手の後悔の目か…
痛い…痛い痛い、熱い、苦しい、息が出来ない…
息、潰れてる…潰れて…死んで…死…死?…トラック!!
「---うあぁぁぁぁぁあ!!ト、トラックに轢かれて…って…え?」
「あ、起きましたね」
知らない天使のような美女が顔を覗いてくる。
「え…誰……あ…」
「お気付きになられましたか?」
そうだ、この声、鼻につくような声…
「電話で"死ね"って言ってきたいたずら野郎!!」
「そのあだ名不名誉すぎません!?ねぇ!!私、腐っても女神なんですよ!?」
め、女神!?女神ってこう、もっと煌びやかで、清楚で、真っ白で、羽の生えてるような…
読んでる人からしたら分からないかもしれないけど、こんなおじさんみたいな服装のだらしない女性が女神!?
「何考えてるか全部わかってますからね」
「え…人の頭覗かないでよ!!えっちぃ…ってんな事はどうでも良くて!!その…俺って…死んだんですよ…ね?」
「はい!!見るも無惨な姿で」
無惨な姿って…
「まず、トラックによって壁に押し当てられ、圧死。その後内臓なんかもグシャッと。その後トラックから盛れた燃料が何かに引火。爆発して死体は丸焦げって感じです。」
想像しただけで 吐き気が…
それもこれも、女神様がこういう風にしたんじゃ…?
「してないです!!そういう運命だったんです!!」
彼女は、取れるんじゃないかという勢いで横に首を振って否定をする。
ここまで否定をするあたり彼女は、本当に関与していないのだろう。
と言うか運命って…じゃあここに来ることも仕込まれてたってことか…?
「いえ!!決して仕込まれてなどいません!!それだったらこの小説を読んでる人たちも"運命"の2文字で片付けられちゃいます!!」
「この小説を読んでる…人…?は置いておいて、この…天界?に居るってことは今から別の世界とかに転移させられるってことですよね?」
「はい!!ただ、転移ではなく、転生となります」
転生…となると違う人に移り込むのか…
「これから転生する世界は、あなた達の世界の文明を1だとしたら、大体0.3、つまり中世から近世くらいまでの技術しかないんです」
「その世界で…自分の知識を活かして欲しいと…?」
ただ、自分みたいなサラリーマンに出来ることといえばなんだろうか。書類業務の効率化くらいしかないぞ…?
「話が早くて助かります!!それでは、転生するにあたって、スキルを10個、好きに選んでください!!」
じ、10個も!?よくあるラノベとかって大体1個とか多くて精々3個くれるかどうかじゃないか!?それを10個も…?
「スキルは全てチートみたいな内容ですよ〜」
無限収納
高速建築
剣聖の加護
と…見れば限りないが…100個はくだらないぞ…!?
「お試し使いしてもいいですよ〜」
時間はどうせたっぷりある。100個…試してみるか。
「え!?ひゃ、100個全部試すんですか!?」
「ここの中であれば時間は無限だろ?だったら試さない以外手はないだろ」
「ま、まぁ…別に構いはしませんけど…」
そして100個試し…
「よし、10個決まった!!」
「やっとですかぁ…長かった…」
女神からしたらこの程度の時間短いようなものでは…?そのような疑問はさておき、その10個は…
1.無限収納
2.思考加速
3.暗視
4.魔法神の加護
5.武人の加護
6.ステータス書き換え
7.魔力集中
8.詠唱予測
9.鑑定
10.超感覚
こんなところだろうか。そこまで戦闘には割り振ってはいないが、十分チートな気がする。
「最後にひとつ言っておきますが、貴方はあちらの世界の常人の1000倍ほどの体力・魔力があります。そして、貴方は、常人の100倍の早さでレベルが上がります。このステータスはどれも異常なものです。ですので、くれぐれも隠蔽を怠らないよう!!」
最後にえげつないチートが来てしまった…いや、チートの域を超えている。
「じゃあ、女神様とはお別れですか…?」
「はい。ここでお別れです。ただ、教会でお祈りしていただければいつでも会えますよ。」
「あ、女神様。1つ助言を。」
「はい、何でしょう」
これを言っておかないと、いつか自分と同じように転生する人が最悪の目に合ってしまう。
「女神様、善意であっても死ぬ直前に、死を宣告してはいけませんよ」
「え、な、何でですかぁ!!」
「死に方を知ってたら、怯えながら死なないといけないでしょ?徒に恐怖心を底上げしてはいけませんっ!!知らないで死ぬほうがよっぽど怖くないんだから。」
「そ、そうなんですかねぇ…」
彼女は少々疑問を抱きながらも納得はしてくれたようだ。これで最悪の死に方をする人はぐっと減るだろう。
「では、転生を始めます---」
「短い間でしたが、楽しかったです」
そう言うと、彼女は口を開くことはなかったが、ニコッと笑顔を向けた。まるで太陽のような。
「貴方の第2の人生に精一杯の幸せと、ご加護があらんことを---」