先生の診察が予想斜め上過ぎるんだが、この質問なに?
「あーいたたた、風邪かなぁ? 病院に行くかぁ」
私は仕方なく服を着替えてリュックを背負うと家を出た。お昼前の11:00頃、病院へと向かっているが、多分混んでいるだろう。
駅前の病院にしようかと思いながら、歩いていると“ワンダフル病院”と書かれた看板が目に入ってきた。
足もだるいからもうここに入ろう。私はドアを開ける。
チリンチリン――。
昔ながらのドアの上に鈴が付いているタイプ。
それを見ながら入ると受付のおばちゃんがゆっくり手招きしている。
怪しげな雰囲気に私はドアから戻ろうとする。
「どうぞー。あっ診察室2ね」
昔からの知り合い並みに言ってくる。
えっ、顔パス? 顔認証とかあった?
私は病院の中をきょろきょろと見渡す。
待っている人がいないからすぐに診てくれるのねと思い、診察室2のドアを開けた。
白衣の白髪混じりの先生が見えた。先生の前にある椅子に座る。
「今日はどうしましたか?」
先生はそう聞きながらカルテにものすごい勢いで何か書いている。
私まだ何も言ってない⋯⋯カルテには何が書かれているんだろう?
「頭が痛くてですね、風邪かなぁ」
「頭が痛い? よく分かったね。どんな感じに痛みますか?」
ん? 先生、患者さんの期待値低すぎませんか?
「ズキズキと一日中痛む感じです」
「あぁ、ピギーとか声を上げちゃう感じ?」
「先生、馬鹿にしてません?」
頭が痛いからってピギーは無いでしょう先生。
先生の基準って一体何ですか?
さすがに私は気分を害した。私の様子を見て、先生も怒っているのに気がついたのだろう。
「ごっごめんね。じゃあ、うぅぅーくらいか」
「⋯⋯まぁそんな感じです」
あくまでも擬音語にこだわるのね。でもそんなお化けみたいな声出さないけどね。
「他の症状はありますか?」
「鼻水が出てますね」
「あっかなり出てますね。だらだらで全然止まらないくらい」
「いや⋯⋯そこまでじゃないかな⋯⋯」
先生、私そこまで鼻水垂らしていないと思うんですよ。よく見てください。
「えっ⋯⋯これ良い方なの?」
先生の声は驚きが混ざっている。だらだらの基準高すぎじゃないですか?
だって鼻をかまなくても私、大丈夫なくらいだよ?
「⋯⋯分かりました。目にも症状出てますか?」
「目は普通かな」
「えっ⋯⋯かなり血走ってますよ。バトル始まる5秒前くらい。突進してくるか、斧を振り上げてくるレベルで」
「ちょっと待ってください。そんなに好戦的に見えますか? これ普通ですよ?」
先生は驚いてこちらを見て、書いていたペンを止めて私を見ている。
私ってそんな目つき悪かったかなぁ。バトル始まる5秒前って相当やばくないか。今まで普通に生活してきたのが申し訳なくなるな。
「いえ、色んな考え方の人がいますから、これが普通であれば、普通として見ますから安心してください」
先生が変に取り繕い始めた。
私は先生を疑い始めながらも他の症状を思い出して伝える。
「先生、そういえば熱も出ているんです」
「そうですか、何度くらい出ていますか?」
「37.5℃くらいです」
「それは平熱では?」
「いえ、平熱は36.0℃くらいしかないので結構あるんですよ」
「またまたー。平熱でもほとんどが38℃はありますよ」
どんな世界だよ。
どこの世界で平熱が38℃あるんだよ。
私は心の中で盛大にツッコむ。
先生はカルテに書き込んでいる。
先生、納得できないみたいに首を傾げるんじゃない。
先生は書き終わると私の方を見てきた。
「じゃあ食事の量はどうですか?」
「食欲は普通にあります」
「じゃあ一日3キロくらいかな?」
待て待て、3キロって最盛期の男性だってそんなに食べませんよ。私これでも一般平均女性の範囲内だと思ってるんですよ。
どんな食事したら3キロも食べるんだよ。
むしろ先生の食卓が見てみたいよ。
「先生、量やばくないですか? それフードファイターですよ」
「まぁ⋯⋯でもファイターでしょ?」
おい、どんな評価だよ。
「先生、何言ってるんですか。そもそも3キロも何を食べるんですか」
「普通は野菜とか果物とかだよね。他にも食べてるの?」
「ちょっ⋯⋯」
基準、ベジタリアンなの? せめて米食べさせて? それに私は肉も食べたいのよ。
「そりゃあ、米とか肉とか食べますよ」
「えっ!? 肉? うそ⋯⋯」
先生は眼鏡をかけ直している。
待って、いつからこの世界の基準がベジタリアンになった?
「肉食べませんか? 豚肉とか」
「ぶっ豚肉? ⋯⋯嘘でしょ⋯⋯。えっ、そういう世の中になったの?」
いやいや、先生の知見やばくないか。いつから豚肉を食べてそんなに驚かれる世界になったんだ? えっ豚肉だよね⋯⋯?
先生が呆れた声を出しながら眼鏡を拭き始めた。
「最近は自由だからって知らない人が多すぎるよ。飼っているんだよね?」
先生、いきなりSMの話? ハード過ぎませんか?
「いや⋯⋯飼われているように見えますか?」
「えっ⋯⋯飼い主だよね?」
先生、女王様確定みたいな口ぶりやめてくれませんか。
コンコンとノックの乾いた音がドアにするとすぐに看護師が部屋に入ってきた。
「先生、もう隣で待ってますが、暴れ始めそうです」
「まずいな、一緒に来てくれます?」
「えっ⋯⋯はぁ」
患者に応援を頼む病院っておかしくないか? 帰ったらここのHPの口コミによく書いておこう。
ここ多分ヤブ医者だ。多分じゃない、絶対だ。
隣の部屋から何かが暴れる音が聞こえる。
「いつも何で抑えていますか?」
「いや、知らん」
私はぶっきらぼうに返しながら、隣の部屋の中を見た。
すると100キロはありそうな大きな体に今にもバトルが始まりそうな血走った目。手には武器がなかったようで枕を持っているが、私が倒せそうな自信は全くない。
鼻水はだらだらと洪水のように流れ出ている。口からはふしゅーと怒っているのか苛立ったような息を吐いている。
先生はすがるような目でこちらを見てきた。
「僕も魔物を診るのは初めてなんだよねぇ。このオークの飼い主ですよね?」
「飼うわけないだろ」
そのあと黒髪ロングの清楚なお嬢様がオークを迎えに来ました。世界って広い!
一応オークは豚と同じで草食と言う設定で書きました。