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つまらない女だと婚約破棄されましたが、浮気男はこっちから願い下げです〜行き遅れた秀才令嬢は、天才侯爵に溺愛されるようです  作者: 雨野 雫


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44.心から大事にされていることを思い知った


 クリスの話を聞き終えたミラは、深夜にもかかわらず寝台の上で大声を上げた。


「両親に会ってたんですか!? いつの間にそんな話を!? 私、何も聞かされてませんけど!?」

 

 全ての話がミラの予想を遥かに超えており、未だに脳が情報を処理しきれていない。


 彼が自分のことをそんなに想ってくれていたなんて。彼が両親に婚約の申し込みをしていただなんて。


 クリスの口からそう教えられてなお、まだどこか信じられずにいる。現実味がなく、夢を見ている気分だ。


「秋口だな。俺がミラには内緒にしておいてくれと言ったから、聞かされていなくて当然だ」


 ミラの隣に座っているクリスは、しれっとそう答えた。秋口ということは、今から四ヶ月以上も前のことではないか。両親から縁談についての連絡が一向に来ないことを不思議に思っていたが、まさかそういう理由だったとは。

 

(質問したいことが多すぎる……!)


 そう思ったが、ミラには何よりも先に聞いておきたいことがあった。クリスの瞳を捉えながら、恐る恐る尋ねる。


「先生は……私の気持ちに、いつから気づいていたんですか?」


「キャシーとかいう女がうちの研究室に来たあたりから、もしかしたらと思っていた。だが、確信したのは学会が終わったあたりだな」


(て、的確すぎる……)


 キャシーが研究室に来てクリスに言い寄ったあの日、初めて自分の気持ちを自覚した。しかし、しばらくはそれを胸の奥底に隠して過ごしていた。そして、自分の気持ちを誤魔化しきれなくなったのが、学会の最終日の夜のこと。


 シリウスが「クリスは他人の感情に人一倍敏感だ」と言っていたが、本当にその通りのようだ。


(先生はずっと前から私の気持ちに気づいてたってこと……!?)


 だとしたら恥ずかしすぎる。それに、自分の気持ちを必死に隠してきたのが馬鹿らしくなってくるではないか。


 ミラは眉根を寄せてクリスを責めた。


「そんなに前から気づいていたなら、どうしてもっと早くに言ってくれなかったんですか!?」


「学会後は研究でバタついていただろう? 邪魔をしたくなかったんだ。悪かった、そう怒るな」


 クリスは軽く眉を下げながらそう言うと、ミラの頭を優しく撫でた。その手に確かな愛を感じ、言いようのない感情に襲われる。


 ドキドキして、嬉しくて、幸せで。でもまだ、夢の中にいるようなフワフワした感覚に包まれている。


「私は先生の気持ちに全く気が付かなかったです……」


「お前が婚約破棄されて以降、色々と態度を変えていたつもりだったんだがな」


「いや、わかりにく過ぎませんか!? 言葉で伝えてくださらないとわかりませんよ!」


 ミラはここ一年ほどのことを思い返したが、クリスの仏頂面しか頭に浮かんでこない。確かに以前よりも、笑顔は増えた気がするけれど。


 不満げな顔を浮かべていると、クリスがフッと笑った。


「俺は今まで女性に贈り物をしたことも、二人で出かけたこともない。お前以外ではな」


「…………〜〜〜〜っ!!!」


 お前は特別だ。暗にそう言われ、ミラは顔を真っ赤にした。頬が熱くて仕方がない。


 もしかしたらクリスは、実は行動より言葉で伝えるタイプなのかもしれない。


 先ほど「言葉で伝えてくれないとわからない」と言ったが、いざ言葉にされると心臓にとても悪いことがよくわかった。いや、行動で示されても、それはそれで心臓に悪いのだが。


「言葉で直接伝えては、お前に変に気を遣わせてしまう。だから、お前が俺に振り向いてくれたら言おうと思っていた。それまでは、俺のことを男として見てもらえるよう、行動でなんとか頑張っていたんだ」


(行動……)


 ミラは今度はクリスの仏頂面ではなく、彼の行動を思い返してみる。


 魔法師団との懇親パーティーのとき、クリスはミラを抱き寄せ、ジュダスやキャシーに絡まれていたところを助けてくれた。


 キャシーが研究室を訪れた際、ミラの陰口を言う彼女に、クリスは本気で腹を立ててくれた。


(そうだ……あの時……)


 ミラはクリスの言動でふと思い出したことがあり、そのまま彼に質問をぶつけた。


「キャシーが先生に言い寄ったとき、私のことを『心から愛する女性だ』と言ったのは……あれは、嘘でも演技でもなく……」


「本心だ」


「…………」


 ミラは驚きすぎて開いた口が塞がらなかった。


 確かあの後、ミラはクリスに「キャシーに嘘をつく必要があったか」と尋ねた。しかし彼はその時、「あれが最善だった」と答えただけで、嘘だとは一言も言っていなかったのだ。


「私って、もしかして鈍感ですか……?」


「フッ。かなりな」


「ううぅ……」


 ミラは何だか申し訳なくなり、思わず自分の顔を手で覆った。先ほど、「どうしてもっと早く気持ちを伝えてくれなかったのか」とクリスを責めたが、彼は色々と示してくれていたのだ。


(だって……先生が私を好きになるだなんて思ってもみなかったんだもの……)


 ミラは他にもクリスの行動を思い出す。


 研究が上手くいかず焦っていたときは、彼だけの秘密の場所に連れて行ってくれた。その上、研究のヒントまで授けてくれて。


 学会発表の日は自信を持てと励ましてくれたし、今日は危険にさらされたところを二度も助けてくれた。


 そして、この屋敷に来る前に、言われた言葉。


『お前に何かあっては困るからに決まっている』


『お前を一人にするのが怖いんだ』


 優しい笑顔と、震えていた声。


 ミラはクリスに心から大事にされていることを思い知った。


 もう、夢の中にいる感覚はない。これは現実なのだと、実感することができた。


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