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4.私、面白い女だそうです


「なるほど、クソ野郎だな」


 ミラの話が終わるや否や、クリスは開口一番にそう言い放った。相変わらずの口の悪さに、ミラは思わず吹き出してしまう。


「むしろ結婚する前にクズだとわかって良かったな。そいつと結婚してたら地獄だったぞ」


「それはそうなんですが……浮気に気づけなかった自分が情けなくて」


「お前が気落ちする必要はない。悪いのは完全に向こうだ。あと、そのキャシーとかいう女も相当なクズだな。人のものを奪って愉悦を感じるタイプの人間だ。関わらない方が良い」


 こうも痛烈に批判してくれると、聞いていてもはや気持ちが良い。昨日から悶々と思い悩んでいたが、心の(もや)がサーッと晴れていくようだ。結果的に彼に打ち明けることになって、良かったのかもしれない。


「二人とは完全に縁を切ります。でも……もうこの年齢ですし、結婚は無理かもしれません。私、つまらない女だそうですから。話していても楽しくないんですって」


 ミラが自嘲気味に愚痴ると、クリスは至極真面目な顔で答える。


「お前はつまらなくなどない。実に面白い女性だと、俺は思う」


 思わぬ言葉に、ミラは目を丸くした。彼から自分の評価を聞いたのは初めてかもしれない。それにしても、その評価が「面白い女性」だとは。


「ふふっ。なんですかそれ。褒めてます?」


「ああ。少なくとも俺は、お前と話していてつまらないと思ったことなど一度もない。俺の議論に付いてこられる数少ない人間だ」


「ふふふっ。それは光栄ですね」


 この人の女性の評価はなんと独特なんだろう。これでは大抵の女性が「つまらない女」になってしまうではないか。


 それがなんとも可笑しくて、ミラはクスクスと笑ってしまった。


「お前がフラれたのは、その男のつまらないプライドのせいだろうな。お前の才能に嫉妬したんだろう」


 クリスが肘掛けに頬杖をつきながら唐突にそんな事を言ってきたので、ミラは首を傾げた。


 ジュダスとは五年間を共に過ごしてきたが、彼に「プライドが高い」という印象を抱いたことはない。それに、彼に嫉妬されるほどずば抜けた才能を自分が持ち合わせているとも思わない。


「ミラは自分に才能があると自覚しているか?」


「え……?」


 また唐突にそんな事を言われ、面食らってしまった。


 ミラは貴族学校を首席で卒業し、ルミナシア魔法大学にトップ成績で入学している。昔から勉強は人一倍できた方だが、天才を目の前にして「自分には才能がある」なんておこがましいことを言えるはずがない。


 これまでに特段目立った成果を上げたわけでも、世界に名を轟かせるような論文を書いたわけでもないのだから。


「まあ、同級生の中では優秀な自覚はありますが、先生には遠く及びませんよ」


「ほらな。俺と比較してる時点で、相当なんだよ。普通の学生は比較すらしない」


 クリスはそう言うと、ミラの瞳をしっかりと見据えた。深い海のような瞳に飲み込まれそうになり、思わず息を呑む。


「お前はまず、自分の才能を自覚しろ。でないと、俺みたいになるぞ」


「? 仰っている意味がよくわからないのですが……先生みたいになれるなら、むしろ本望です」


 ミラにとって、クリスは憧れであり目標だ。彼のような研究者になりたくて、せめて結婚するまではと努力を続けてきた。


 理解できないというようにキョトンとした顔のミラを見て、クリスは呆れ気味だ。


「はぁ。そういうことじゃない」


 軽くため息をついたクリスは、少し遠い目をしながら続ける。


「才能のある人間は、その才能に無自覚だと周囲の人間を不快にさせるらしい。目上の人間からは生意気な奴だと叩かれ、同年代からは嫌味な奴だと陰口を言われる。そうはなりたくないだろう?」


 これは、クリスの実体験だろう。


 彼は若くして大成したこともあり、大学の中でも嫉妬の目を向けられることが多い。その上、この口の悪さなので、余計に相手を刺激してしまうのだ。


 ミラもクリスの陰口を叩いている研究員を今までに何人も見かけてきており、本当は優しい人なのにと、周囲の無理解にやきもきしたことが何度もあった。


「元婚約者は、確か魔法師団の人間だったな。等級は?」


「三級です」


 実はジュダスは、魔法師団に入れるほどの魔法の使い手だ。


 魔法師団には四つの等級があり、上から特級、一級、二級、三級。彼はまだ入団して二年ほどということもあり、一番下の三級なのだが、そもそも魔法師団に入れる時点でかなりすごい。


 ミラは研究者として、ジュダスは魔法使いとして一流の機関に所属している。そのためジュダスとは対等な関係だと思っていたのだが――。


 クリスはしれっと、とんでもない事実を告げてくる。


「俺の見立てでは、お前は魔力量だけでも一級に入る」


「ええっ!? それはいくら何でも買いかぶりすぎじゃ……」


「お前、自分の魔力量を測ったことは?」


「ありませんよ。戦闘員でもないのに」


 魔力量の測定には、特別な魔道具が必要だ。王国が管理するかなり貴重な品物なので、魔力測定をするのは王国軍の人間くらいである。そのため、もちろんミラは自分の正確な魔力量など知らない。


「魔法を使っている時の感触として、他の人より少し多いだろうなとは思っていましたけど……そんなにですか?」


「ああ。あと、お前の魔力操作の精度は群を抜いている。特級レベルだと断言して良い」


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